お昼寝。

空は高く晴れ上がり、過ごしやすい季節になったのに、香のイライラは全然減らない。

昨日、一件依頼があったのに、僚はいつものように「男」の依頼人ってだけで簡単に蹴った。
家計が逼迫してるのに昨日もミックと飲みに行ってまだ帰ってこない。
どこにいるのか、連絡が取りたくても僚に渡してある携帯は料金未払いで使用停止になっていて通じない。
まぁ未払いじゃなくたって飲みに行ってる時なんて電源切ってるか、無視するかなんだけど…

通じないと思っても僚の番号を押してしまう。
なんの反応もしない、携帯にばからしくなってそのまま自分のベッドの上に投げて、自分も一緒にベッドに寝ころんだ。
「もう、イヤんなっちゃうな〜」
誰ともなくつぶやいてしまう。
ごろごろと体を動かして、暇を潰してしまう。
ふと本棚に並んでいるアルバムが目に付いた。
のそのそと立ち上がり本棚の前に尻餅を座り込んでアルバムを開く。
アニキがそろえてくれた、アルバム…アニキがいなくなってからは写真を撮る機会も少なくなって、アルバムを開くことも多く無くなった。

ーアニキと一緒に写ってる写真、これはお父さんが取ってくれたのよね。

スカートなんて気恥ずかしくて、写真に撮られたいような、撮られたくないような
気分でもじもじしてるのをアニキになだめられながら撮ったんだっけ。

一枚一枚、見るたびに想い出が涌いてくる。

ーこれって高校の修学旅行だわ、絵梨子にパジャマのセンスが悪いって
怒られたンだっけ?夜はお約束の通り恋愛話になって…ちょっと居心地がわるかったんだよねー。
絵梨子に「香は誰か好きな人いないの?」
なんていわれて…気恥ずかしくて、ふとんを被っちゃったのよね。
絵梨子はずーっと「つれないわねー、寝ちゃわないでよー」とか言ってたっけ。

香の顔はいつの間にか笑みが浮かんでいる。

次のページをめくったときに、僚のあのバカ面写真がひらりと落ちてきた。

香の顔にはいつの間にか笑みが浮かんでいる。
ミックに写真ねだられた時に見つけたのに…また貼らないまま。ここに挟んでしまったのね。
香はしばしその僚の写真を眺めていた…


太陽はすでに昇りきっている。
アパートの周りも生活がすでに動き出している。

さすがにここまで遅い朝帰りは久しぶりだ。
香は角を立てて両手にハンマーを用意して玄関に座り込んでいるのだろうか…
その姿を想像し、少し体を身震いさせる。

男の依頼を蹴った上に、この時間だからなー。しょうがねぇよな、ハンマーされても。
あの男の依頼人は隙あらば香と2人になろーとしやがってなぁ、そんなヤツの依頼受けられるかっつーの。
しかも隣近所とのいざこざくらい、男なら自分で解決しろっての。

俺に依頼してどーしろっていうんだよ、たくっ。もっとまともな依頼人を連れて来いってんだよ、なぁ。
ブツブツ、昨日ミックに話したグチを独りで繰り返しながらアパートのドアを開けた。
とっさに身構えるが、ハンマーはでてこない。
「……ん?」
不審に思って見回すが香は待ちかまえていない。
ほっとしながらも寂しさを感じ、香がいることを期待してリビングに入る。
しかしそこにも昼の暖かな日差しがあるだけで求めていた暖かさは無かった。
「コーヒー淹れろってんだよなぁ…」
つぶやきながら香の部屋の扉をそっと開ける。

香は昼の日差しを浴びながら少しまぶしそうに顔をしかめて眠っていた。
僚は香のそばにしゃがみ込んだ。
「こんなしかめっ面で寝てるんじゃねーよ」
いいながら香の前髪をそっとなで上げた。
「おいおい、いつまで…ったく」
聞いていないのを知りつつ言ってしまう。

ブラインドを閉めて、香にベッドの毛布を掛けてやる。
毛布を掛けたとたん、香は自然に毛布にくるまり、顔もまぶしさから逃れられたからか
穏やかに寝息を立てている。
僚は少しの時間、香の寝顔を眺めてからこしを上げた。

「いい夢みろよ…」
そのまま静かに部屋を後にする。

香の手には僚のばか面写真を握りしめて寝ていた。

終わり