ひみつ? ?
    あやとり事件 第二弾

ここ、喫茶CAT'S EYEは今日も裏社会の住人達が集う中、平和な昼下がりを迎えていた。

しかし、だだ一人を除いては・・・

「コホンッ・・・か・・・かおり・・・」
「なあに?海坊主さん?」
「いや・・・実は飛行機のやり方を思い出したんだが・・・」
「えっ!ホントに?教えて教えて!」


先日、不倫疑惑の容疑がかかった『あやとり事件』は周囲に知れ渡った事で、今日では堂々と"個人レッスン"が行われている。
いや、正確には"個人"から"少人数制"に変わっている。

海坊主の周りには香を筆頭に美樹やかすみまでもが毛糸の紐を片手に教わる始末。

美女に囲まれ、ゆでだこ状態になりながらも教えている海坊主をおもしろくなさそうに見ている男が約一名。

リョウはカウンターに頬杖を付きながらズズズ――ッと音を立ててコーヒーを啜りながら野次を飛ばす。


「あーあー、裏社会で恐れられてる男がこんな事やってるなんて知れたらイイ笑いモンだぜ!いっそスイーパー廃業して幼稚園の先生にでもなったらどうだ?もっとも、その顔を見て泣き出さない子供がいればの話しだがな〜」
「何だとー!貴様、自分が出来ないモンだからって僻みやがって!悔しかったら何か一つでも作ってみたらどうだ!!」
「そうよ!海坊主さんにお願いしたのはあたしなんだからリョウは口、挟まないでよね!」

香が海坊主に加担するものだから余計に面白くない。

気まずい空気を感じ取り、かすみがその場の雰囲気を和ますように間に入る。

「冴羽さんもあやとりしません?結構、嵌まりますよ♪」
「あ〜ん!ぼくちゃん、かすみちゃんの中に嵌まりたい〜〜〜〜♪」

そう言うや否やかすみの胸にスリスリと顔を埋めた。

「きゃあ〜〜〜〜」


突然の事にかすみが悲鳴をあげると、香は手にしていた紐をリョウの首に巻きつけおもいきり締め上げた。

「お前は毎回毎回、同じ事であたしに手間かけさせるんじゃない!!」
「ぐえっ・・・がっがおりぢゃん・・ぐっぐるじぃ――――」


そんな二人のやり取りを痴話喧嘩と認識している三人はそんな事お構いナシにあやとりに勤しんだ。


アパートに帰ってからも香はリョウそっちのけで紐と格闘を繰り広げている。


「かおり〜コーヒー」
「・・・自分でやって・・・」
「・・・・・」


顔も上げず感情の欠片も無い口調で返答するのみ。

それがひどく寂しく感じた男は香の側で何をするわけでもなくただ、ダラダラと時間を潰す。
退屈しのぎに香の指先に目を向ければ細い指に毛糸がからまり、かなり苦戦している様子が伺える。

「アレ〜?何で出来ないんだろう。今度のクリスマスに子供達に色々なもの教えてあげたいのに・・・」
「大体、不器用で大雑把なお前がそんな細かい事を短時間で覚えようってのが無理なんだよ」

どうにかあやとりを諦めさせようとした筈のリョウの言葉は逆に香に火を点けたようだ。


「不器用で悪かったなー!だったらあんたやって見なさいよ!!」
思わぬ展開になってしまったが香の意識が自分に向いた事に満足する。
「よーっし!じゃーお前の言うようにやるから言って見ろよ!」
そう言って指に紐を掛けた。
「いい?じゃーまずココとココをすくうの」
「あー?こうか?」
「そうそう、そしてここを・・・ちょっと勝手に進めないでよ!解からなくなっちゃうじゃない!」
真剣に教えようと香の指がリョウの指にふれると不埒な男の思考は別の方向へと流されていく。

伏せ目がちの瞳、香から漂うせっけんのカオリ、白い肌にほっそりとしたうなじ、そして・・・


「あ〜〜〜違う!!狭い場所にリョウの親指を入れるの!」

―――うっ・・・

「そこじゃなくってもっと奥まで指入れて!」

―――ううっ・・・

「あ〜ん、もうだめ!そんなに乱暴にしたら壊れちゃうよー!」

―――ううう〜〜〜〜

「もーいいよ!りょうの好きなようにどうにでもして!!」


プチッ


その言葉を合図に男の理性がぶっ飛んだ・・・のだが・・・


「りょうって思ってたより下手くそなんだね。もっと上手だと思ってたのに。何か期待はずれ。ぜんぜんダメじゃん!」

ひゅるるるるる〜〜〜〜〜〜

「ただいま、カズエ!お帰りのキッスで迎えておくれぇ」
「ああミックおかえりなさい・・・」
「どうしたんだい?何だか家の中がジメジメしている様だが・・・・なに?アレ?」


部屋の隅で大きな身体を小さくして、膝を抱えてシクシクとすすり泣く男が一人。

――コソコソ

「何でも香さんに酷い事言われたらしいの・・・」
「ふ〜ん。まあいいや。さぁカズエ、お帰りのキッスをしてくれよ・・・」

そんな男はお構いナシに二人の甘い時間が始まった。


傷ついた男は暫く立ち直ることが出来なかったそうだがいったい男が何に傷ついたのかそれは男以外、誰も知る由もなかった。


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おまけ

昨日からの地方の取材を終え、新宿に着いたのが午前11時。
今日は愛しいカズエは朝から教授宅で研究の予定だったはず。
家に帰っても一人ならば小腹もすいた事だしCAT'Sに寄ってみようと足を延ばす。

この時間ならばカオリかリョウがいるかもしれない。
出来ればカオリにお目にかかりたいが・・・


外からドア越しに中を覗けば所定の場所に腰掛けるカオリの姿が見えた。


予感的中!


しかしミキとファルコンの姿はなく、店内にはアルバイトのカスミとカオリの二人だけ。
客もいないせいかカスミもカオリの横のイスに腰掛け扉を背に二人は座っている状態。


オレはそっとドアを開けると音が鳴らない様に素早く指でカウベルを掴んで店内に滑り込んだ。
二人はお喋りに夢中でオレの事には気が付いていない様子。
初めは背後から脅かそうと考えていたが、二人がいつ気が付くかそのまま様子を伺う事にした。
そしていったい何をそんなに夢中で話しているのか耳を傾けると・・・

「この前、初めてりょうとヤッたんだけど・・・アイツ全然ヘタクソなの」
「え?そうなんですか?冴羽さんって上手そうなのに・・・」
「ほーんと。あたしももっと上手く出来るのかと思ってたんだけど全然ダメ!何か期待はずれ!」
「じゃあやっぱりテクニックでは海坊主さんの方が上なんだあ」
「海坊主さんと比べたら失礼よ!全然比べ物にもならないんだから・・・あの指使い・・・子供だってすぐにデキちゃう・・」

カラ〜ン

カウベルの音に二人は扉へと振り返ったが既にそこには誰も居らず・・・


「あれ?今、誰かいましたか?」
「・・・なんだろう・・風のせいでドアが動いたのかしら・・・ああ、それでね、海坊主さんに教えてもらったら子供だってすぐにデキちゃうわ・・・あやとり!ホントやるのも教えるのも上手よね〜〜〜」


* * * * * * * * * *


「リョウ・・・呑め」
「何だよ・・・急に呼び出して・・・」
「イヤ、何も言わなくてもいい・・・新宿の種馬と呼ばれるお前には屈辱的な事だったろうが・・・イヤイヤ・・・今日はもう何も考えるな!」
「なに言ってるんだ?」
「ナニの事はもう忘れろ!それだけが男じゃないだろ?心・・そう、心で勝負だ!・・・でも・・・おまえって・・・そうだったんだあ・・・くすくすくす・・・」


この青い目のジャーナリストから噂となって皆に広まるのは時間の問題であった。


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*ありがとう。うきさん。ミックがイイ味だしてるな、うん(笑)
 サエバスキーなのにこのお話を選ぶわたし…