HALLOWEENの夜に

10月31日 昼

いつもの様に閑散としたキャッツで美樹は香とお喋りをしていた。
いつもと違うのは店中にオレンジと黒の配色のリボンが飾られ、所々にかぼちゃ大王-jack-o'-lantern-が
ディスプレイされていることだろう。
イベント事の好きな美樹が嬉々として飾り付けした姿が目に浮かぶ。
香はいつものカウンターの席に座っていた。
コーヒーと今日までの特別メニュー、パンプキンタルトを味わっている。
「う〜ん、おいしいv今日までの限定メニューなんて惜しいわよ。定番メニューになればいいのに」
香はタルトを一口口に入れては幸せそうな顔をする。
そんな香の顔を見ているとこちらまで幸せになってしまうから不思議よね、ほんと。
「ねぇ、香さん。ハロウィーンの言い伝えってなにか知ってる?地方のよっていろいろあるらしいんだけどね」
コーヒーカップを拭きながら、カウンターに身を乗り出す。
「うううん、何もしらない。そもそもハロウィーンがなんの行事だかもわかってないのよね。あははは」
自分の無知を恥ずかしがっているのか、手のひらで真っ赤な顔をひらひらと仰いでいる。
そんな姿が何歳になっても可愛らしい。
「私だってそんなにちゃんと知ってる訳じゃないわよ。だけどこういうのってやっぱり楽しいじゃない?」
「うん、そうよね」
香はカウンターに飾っておいた、カボチャ大王のぬいぐるみをだきしめて、遊んでいる。
「でしょ?そもそもは万聖節っていうカトリックのお祈りの日らしいんだけど、アメリカではもう、子供
たちの休日になってるし…」
「へぇ、そういうお祈りの日だったのね?」
「そうみたい。でも私はこのオレンジと黒とカボチャだけでワクワクしちゃうのよ。ね可愛いでしょ」
美樹は香が抱きしめていたカボチャ大王をカウンター越しにつつく。
「うん、可愛い。もしかして美樹さんの手作り?」
「そうなのよー。もう手作りに凝っちゃって(笑)」
香はカボチャ大王をのばしたり、ぎゅと潰したりして楽しんでいる。
かなり気に入ったみたいだ。
「香さん、もしよかったらその子もらってくれない?」
「えっ」
「なんかあちこちにボロが出てるかもしれないんだけど、ね?」
「い、いいの?美樹さん?この子もらっても」
「えぇ、香さん気に入ってくれたみたいだし。香さんにもらってくれたら大王も喜ぶわよ」
「ありがとう、美樹さん。大事にするわ」
香は美樹、手作りのカボチャ大王をさらにぎゅっとだきしめた。
「そうそう、それでハロウィーンの言い伝えなんだけどね」
そういうと美樹はカウンターから身を乗り出して、香にそっと耳打ちをしだした。

10月31日 深夜

サエバアパート
香は電気も点けていない洗面台の前で、パジャマ姿で息を詰めている。
体中が緊張の雰囲気に包まれている。
”言い伝え、真剣にとるのも、どうかと思うんだけど…お祭りだし、いいよね…///”
洗面台の上には香をそっと見守るように、美樹にもらったカボチャ大王のぬいぐるみが乗っている。
香は意を決して、丸ごとの林檎を両手で包み込むように持ち、目を強く瞑ったまま、
皮の付いたままのそれにかぶりついた。
サクッ。もぐもぐもぐ…
香は林檎をぎゅっと握ったまま、そっと目を開いた。
そこに写ったのは…?

「かーおーりちゃんvvこんな真夜中に、電気も点けないでなーにやってんの?」

酔っぱらった僚と、その太い腕に後ろから抱きしめられた、林檎に負けないくらい真っ赤な顔の香。
そして密かに笑い顔のカボチャ大王が写っていた。


『ハロウィーンの真夜中にリンゴを食べて、後ろを振り返らずに鏡を覗くと、そこに将来の伴侶の面影がうつる』
 
と言われているのよ?香さん。Happy Halloween!!


  fin

後書き。
季節ものをちょっと書きたいなっておもいまして。
いつもながら中途半端でごめんなさい。

ブラウザで戻ってください。