彼女は何をdusted??    
                *この作品献上品として書いたため、関係は原作以上となっています。

愛しい相棒と抱き合い、同じベッドで一緒に朝を迎える…
こんなに幸せな事はないだろう。

幸せをかみ締めながら、僚は香を抱いている腕にもっと力を込め、抱き寄せる。
その時、ふと殺気を感じ取って、僚は覚醒した。
殺気の出所はあっけなく知れた。自分の腕に抱かれている、愛しい彼女。
香が腕の中で、僚の腕から抜け出そうと一生懸命もがいている。


必死にもがいているので殺気を感じたのだった。
「かーおりちゃん、朝からどうしたの?」
腕の力を緩めず、僚が声をかける。
香は僚の腕をバシバシ叩いている。
「ちょっと、僚。腕ゆるめて、出させて、ねぇ、僚」
「色気のない台詞ね〜、香ちゃんのいけずぅう」
そのまま香を抱き寄せ、頬に口付ける。
「起き抜けの一発、どう?」
「イヤ、ダメ。っていうか出させてってば、お願い〜っ!!時間が無いんだってばぁ」

ん?!時間?時間ならターーーーップリあるだろう。
「俺の時間は全て香、お前のモンだ」
(ふっ、決まった…)

どごごごっごぉぉぉぉぉっぉーーーーーーーんっっっ!!

僚が自分に酔っている間に緩まった腕から逃れた香が特大のハンマーをお見舞いした。
「勝手に言ってろ、ぼけぇ」
香は強烈な一言を残すと、ベッドの下に落ちていた手近なシャツを羽織って一目散に
僚の部屋から出ていった。
「なんだぁ、香のヤツ」

+++

(朝っぱらからなにやってるのかしらね、まったく…)
麗香の背後のアパートからは派手な破壊音が聞こえた。
毎度のことなのでいちいち反応する気も起きやしない。麗香は小さくため息をついた。
「じゃあ、失礼します」
目の前の作業員がほうきを手にした麗香に声をかけた。
「あ、はーい。ご苦労さまでした」
おもわず手を振りそうになった自分に苦笑いし、麗香は車を見送った。

と、背後のおんぼろアパートから階段を降りてくる足音がきこえた。

「れ、麗香さん…」

よほど急いで降りてきたらしい。
息を切らして姿を現したのは今さっきハンマーを振り下ろしたであろう、槇村香だった。
香の両手には大きなゴミ袋が片手に2つずつ…。

「おはよう、香さん。惜しかったわねぇ、ちょっと前までいたのよ、車」
香の顔が見る見る蒼白になっていった。
「あ、はぁ、そう……」
麗香はそんな香を横目で見つつ、ゴミ置き場を掃く。
そして何気なさを装って言った。

「それにしても珍しいわよね、香さんがごみ出しに遅れるなんて。しかも結構な量溜め込んでるみたいだし…」
「え。あ///。あ、そそそそそそそそそう。そう??」
事情の知らない人もおかしいと思うくらい、香は裏返った声をだす。

今の会話だけならば何もそこまで動揺することはない。どうやら麗香が考えていた通りのことが
毎朝この二人の間では行われているようだった。
麗香は笑いをこらえるのに苦労した。
「どうせ僚が離してくれなかったんでしょ?香さんも毎朝毎晩大変ねぇ。ほどほどにしてもらいなさいよ。僚に付き合ってたらおかしくなっちゃうわよ」
香は身体中の血液が顔に集中したように真っ赤になって固まった。

そして先ほどよりも裏返った声で
「なっ!///麗香さん…な、なな何言って言っい、て、ってあ、あああああたしと僚はそそそんな…」

思いっきり動揺した態度で、それでも否定をしようとする香のセリフを遮った。

このまま言い訳を聞いてあげてもいいのだが、それではあまりに香が気の毒に思えてきた。

(それに…本当に倒れられても困っちゃうしね)
「今更、隠さなくったっていいじゃない?そのシャツ、どう見ても僚のよねぇ?香さん」

麗香に指摘されて、香は慌てて自分の姿を見る。

素肌に無造作に羽織って、サンダル履き。

それはあまりに扇情的な格好だった。
香はもう何も言えなくなったのか、顔を赤くしたり、蒼くしたりを繰り返しながら俯いて、
麗香に声も掛けないで肩を落とし、今日も出すことのできなかったゴミ袋を引きずりながらアパートにもどっていった。

ご愁傷さま。
いくらなんでもあんな格好だったって気づいたら恥ずかしいでしょうに。
僚のやつなんで注意してあげないのかしら。慌ててたって言い訳にもなんないわ。
麗香は香に同情しつつ、二人の愛の巣を見上げた。

+++


僚が自分の部屋のベッドの上でタバコをふかしていると、香がとぼとぼとした足取りで部屋に戻ってきた。

「どうしたんだよ、そんなモン持って…」
香は手にしたごみ袋を僚に向って投げつけた。
「うおっ、おまぁなにすんだよ。あぶねえなっ」
器用にタバコを咥えたまま、投げつけられたごみ袋をキャッチする。
「何すんだじゃないわよっ。ゴミ出せないわ、麗香さんにからかわれるわ…もう散々だったんだからね」
そう文句を言う香の目尻には涙が溜まっていた。
僚は頭をかきながら、香を抱きしめた。
香はまだ怒りが収まっていないのか、その腕から逃れようとする。
「泣くなよ、んなことで」
「んなこと。じゃないもん。僚が離してくれないからいっつもいっつも間に合わないんだよ。
最近ずっとそうだから溜まっちゃって。今日こそはって思ってたのに」
「…理由、いやぁいいじゃねーか」
「言った。けど離してくれなかったもん」
夢の中で香がそのようなことを言ったことがあったような気もする。
でもぬくもりがなくなるのが惜しくて、もっと強く抱き込んだのだ。
それを思い出し、僚は少し話を逸らせた。
「麗香にからかわれたのは俺のせいじゃないだろ?なにした?」
香は頬を膨らませて、僚を見上げる。
「それも…僚のせい。僚があたしのパジャマ取り上げちゃうから…」
「ん?」
「すぐ着られるの…これしかなかったんだもん」
香は小さく言った。僚は目を見開いた。
「おまえ、まさかこの格好で外でたのか?!」
知らずに声は不機嫌になる。
「だってしょうがないじゃない。急いでたんだもん」
「だからってなぁ〜」
この長くて白い肢や、しなやかな腕、ぬけるような白さの胸元…
それを簡単に晒したと聞いて、冷静でいられるかっつーの。
「そんな無防備な格好で外でるなんて、お前どうかしてるんじゃねーのかっ」
怒り気味の声がでた。
「会ったのはっ?麗香だけかっ」
向かいの金髪男に見られていたかと思うと、怒りも頂点に達する。
香を抱いたままベッドにダイブした。
外での視線を拭うように、僚はいつものような行為に移行しようとした。
「ちょっとっ」
とまどったような香の声。
「黙ってろよ」
香の首筋を一舐めしようと顔を近づけた。
「あんたこそ、黙りなさいってのよ」
香が僚の胸を両手で思いっきり押して、その隙にベッドから降りた。
「へっ」
「へっ。じゃない!!あたしはゴミ捨ての問題についてあんたに話していたつもりなんだけどっ」
香の背中にはいつのまにかハンマーが見えていた。
僚の嫉妬混じりの怒りを香には分かってもらえなかったらしい。
「か、香しゃん…?」
香はハンマーを手に持つと、思いっきり僚に投げつけた。
「あんたのこういう行為が悪いっていう話をしてたんだろうがーーーーーー!!」

どごごごっごぉぉぉぉぉっぉーーーーーーーんっっっ!!

「もーう、決めた。ゴミ捨ての前の日は、あたし一人で寝るから。じゃそういうことで」
気が晴れたように、香は笑顔で言う。
「な、なんだとーっ!!俺に一人寝しろってのかっ!!」
「そうだよ。出せなかったゴミどれだけ駐車場に溜まってると思ってるのよ。それが全部捨て終わるまで
絶対、一人で寝るからねっ!!だいたいそのゴミだって僚の飲んだ缶ビールの空き缶が一番多いのに」
話していたらまた怒りが増してきたのか、香の手に新たなミニハンマーが握られている。

しかしそれよりも僚が気にしたのは。
「ちょ、ちょっと待て。ゴミ捨ての前日って…」
「月水金が燃えるゴミで、火木が不燃でしょ?土曜日は空き缶空き瓶ね」
「毎日じゃねーかっ!!冗談じゃねーぞ」
「自業自得でしょっ」
大きな口で『イー』と舌を出す。
手に出したハンマーを、ついでとばかり僚に投げつけ、部屋を出ていった。


その日の夜…
僚はどうにか香を宥めすかし、いつも通りの夜を過ごす事に成功した。
(今更、一人で寝られるかっつーのっ!!)
甘い行為の後、僚の腕の中の香が僚を見上げた。
「僚、ホントに明日の朝は一緒にゴミ出し、してよね。約束だよ?」
「分かってるって。信用しろよ」
僚は香の額に口づけを落とす。
「もう、嘘付いたら承知しないんだから」
僚が見ている中、香はゆっくり目を閉じて僚の腕の中で、朝まで深い眠りに落ちた。

+++


さてさて、次の朝。

麗香は今週はゴミ当番だ。なので昨日のようにゴミ置き場を掃除していた。
また昨日のように階段をすごい勢いで降りてくる足音が聞こえる。
これは二段飛ばしだろうか…そんなことを思いながら麗香は小さくなっていく収集車の後ろ姿を見ていた。

「麗香っ、車っ!!」
サエバアパートから出てきたのは香ではなく僚だった。
しかも上半身裸でゴミ袋をイヤと言うほど持って。

「あら、めずらしい。おはよう、僚。収集車ならとっくに」
綺麗になったゴミ捨て場を指さした。
その返事を聞いて、がっくりとうなだれたのは僚の後ろから出てきた香だった。
「えぇ、今日も〜。もうイヤ、もうイヤもうイヤ」
僚はその姿を見て頭を掻きむしっている。
「僚ってば、昨日の夜も香さんに無理させたんでしょう?香さんが朝寝坊するなんてホント昔は無かったのにねぇぇ」
「な何言ってんだよ、麗香。俺がなんでこんなおとこお……」
麗香は冷たい視線を僚に向けながらほうきの杖で僚の腕をつつく。
「今更二人してごまかさなくたっていいじゃない。みんな知ってるんだし。それに僚じゃなかったら、 それはそれで問題なんじゃないの?」

麗香が指さしたその先には…
首筋、鎖骨の上、二の腕 至る所に差し込まれた紅の色。
麗香と僚の視線に気づいた香は、その視線の原因を自分の身体に知った。
とたん、その紅の色も隠れるくらいに全身を真っ赤にさせてアパートに無言で帰って行った。

麗香は満足に、同情を少ーしふりかけて、でもちょっと嫉妬も足したような顔で僚を見た。
「あの痕はなんなのかしら、ね。僚?」

「へんっ、もう蚊がでてきたんじゃねーの。お前も気をつけるんだなっ」

言い訳ともつかないことをいいながら、僚はゴミ袋を引きずるようにアパートに戻っていった。

+++

次の不燃物の日、麗香は目撃してしまった。

サエバアパート前のゴミ置き場には、簀巻きにされた僚が捨てられていたのを…。


自室の窓辺で頬杖をつきながら、僚の姿を眺めた。
「まったく何やってるのかしらね、あの二人は…」


一瞬、自分の目を疑い、そして次の一瞬。お持ち帰りしてしまおうかと…実はちょっと思った。
(っていうか僚は不燃ブツなのかしら?香さん。……まったく、分別くらいきちっとして欲しいわね)
そんな事を思いながら、麗香は部屋のカーテンを閉めた。



終わり

 


彼女は何をdusted??
2002.10.1 某所にてアップ
2004.9.11 加筆修正し奈瀬ちゃんとこで再アップ 
2007.3.1 ジルさんとこで再々アップ

2007.6.18 自宅に戻り、再々再アップ