はじめての出会い?!再会?!

 

ーん〜?弟ぉぉ?誰もそんなこと言わないよ。君の今のカッコみりゃねー

もう、最低最低。
なんでこんなことになってるのよ。

香は下着姿で倉庫のような場所で座りこんでいる。
腕をいっぱいに使って体を隠しているが、それで隠し切れるものでもない。
分かっているけどそうせずには居られない。
顔を真っ赤に染めながら肩を落とし、大きなため息をつく。

事の起こりは数十分前。
あのウスラ馬鹿でかい男が勘違いをして、あたしを殴った。
ヤツなりに手加減していただろうし(じゃなかったらあたしは確実に死んでるわね、うん)
あたしだって兄貴に叱られて叩かれたことだってあるけど、悪いこともしてないなのにいきなり殴るってのはどうゆう了見よ、まったく。
人をバカにするのもいい加減にしろっていうんだ。

そのお詫びをするからってヤツに言われて入ったブティックは人身売買の拠点となっている、
とーってもとーっても危険な店だったのだ。
そんな事とは知らず、ちょっとウキウキと店内で試着をしていた時、あたしはその罠にはまった。

あのバカ男はそれを知っていてあたしを囮につかったのだ。もちろんすぐに助けに来てくれたけど…

で、今の状況。勘弁してよー。
こちとら嫁入り、成人式前の娘よ。乙女よっ!!なんでこんな格好で、しかも死体と一緒に居なくちゃいけないのよ。
あ、やばっ涙でてきそう。

いきなり、顔に何かがあたった。
「ちょっと。なにすんのよ」
僚が適当にそこいらの洋服を投げてよこした。
「着替えだつーの。早く着ないと風邪ひくぜ〜」
その口振りにむっとしながら、自分の回りに散らばった洋服を手に取る。

あたしはとりあえず、ジーンズとシャツを羽織った。
「ねぇ、僚」
少し離れたところの鉄柱に寄りかかる、ヤツに声をかける。
「あん」
「これ、何人分よ」
香が着ていた服以外にも3,4回着替えができそうなくらいの洋服がある。
「さーねぇ、何人分かねぇ?香ちゃんが欲張って、さっきの試着室に持って入ったのを全部持ってきたから」
何ともないように言う。
そういいながら、あたしの前にしゃがみこんで、どこから持ってきたのか紙袋に余った洋服をどかどかと入れ始めた。
「僚、なにしてんの?」
僚はくいっと顔を上げ、変な笑みを浮かべた。
「香ちゃんのお土産」
「え、えぇ〜!?」
僚が立ちあがり、顔を近づける。
「大変な目にあったんだから、こんぐらい慰謝料みたいなもんだろ。もらっちまおうぜ」
「あんたって…」
「いらんのか…」
「も、もらっとくわよ」
僚が隠そうとした紙袋をいそいでヤツの腕から奪う。
僚は笑いながら、あたしの頭を軽く小突く。
そのまま香の肩を押して出口に向かうと愛車のドアを開ける。

もう、帰るのか…

「ほら、乗れって。送ってってやるから。槇ちゃん心配してたぜ」
促されるまま香は助手席に座り、洋服の入った紙袋をぎゅっと抱きしめながら、
運転席に座る僚をふと見た。その視線に僚が気づく。
「ん?」
「あ、ぅう、べ、別に何でもないよ。は、早く出発しろよ」
僚は口の端を軽くあげ笑みをうかべ、車のエンジンをかけた。

もう、少し…僚と話たいかも…
「ねぇ、僚。あたし、お腹空いたよ。なんか食べに行こうよ」
「バカいうな。さっさとおまぁを槇ちゃんに引き渡して、俺はナンパに繰り出すんだよー」
むっ。
「はぁぁぁーっ!?なに言ってるの!おごってくれなかったら、アニキにあんたに殴られたこととか
 囮にされた上に拳銃まで突きつけられたって大泣きしながら報告してやるからなー」

僚の顔が一気に青くなる。
あのシスコン男にそんなことが知れたら…スゲーひどい待遇の仕事を休み無しにやらされるのは必至だ…
いや、傷の手当とか言って傷口に塩、擦り込まれるかも…
「ぐっ…。そ、れだけは…」
香は両手を叩いて喜んだ。
「わーいっ、じゃーね、高級焼き肉、寿司〜。あぁフレンチもいいかも〜」
「ば、ばかいうな、んな所はお前見たいなおこちゃまと行くんじゃない。もっこり美女と行くって決まってるんだよ」
思ったより強い口調になった。
香を見ると口をへの字にまげ、うなだれている。
車内は妙な静けさのなか、エンジンの音だけ響いていた。
僚は器用にシャツのポケットからタバコをだし、火をつける。
大きく煙りを吐き出した。
タバコを口にくわえたまま香のくせっ毛を撫でる。
「札幌ラーメンと豚骨ラーメン、どっちがいい?」
香は顔を上げ、僚を見る。
香の大きな目がさらに大きく開かれている。
「え、えっ。んとね〜、札幌ラーメン。コーンは大盛りで〜」
僚は撫でていた手で香の頭を軽く叩いた。
「了解」
香は僚の触れた自分の頭に自分の手のひらを載せてニコニコとしている。

2人の乗ったミニクーパーはさらに快調に新宿の街を走りだした。

P.S.その頃、槇兄は泣きながら香を探し回っていたとかどうとか…(笑)


終わり