シンデレラストーリー 〜おまけ〜

「やぁ、リョウちゃん!!ご機嫌はいかが〜?」
僚はリビングのドアから鼻歌交じりで入ってきた金髪男をみると顔を顰めた。
そしてまた見ていたエッチな雑誌に眼を戻す。
「はん。もっこりちゃんを見てる途中に声かけてくるバカが居なけりゃ最高さ」
そんな僚の嫌味をもろともせず、ミックはソファに近づき、肘掛にたれていた
僚の足をどけて、その隙間に腰を下ろした。
「……ぁにすんだよ、ジャマだ」
不機嫌な声を隠しもせず、払われた足をそのままミックにぶつけようとする。
「カオリは?」
「キャッツじゃねーか、この時間じゃ」
ミックは軽く僚のキックを止め、僚の本を取り上げた。
「おいっ!?何すっ…」
ずずずいっとミックは僚に顔を近づける。
そして、ニヤッと笑った。
「なぁリョウ。お前すぐ自由になる金、いくらある?」
「はぁ?なんだよ。藪から棒に…」
「ふふふーん。イイ写真が手に入ったんだがな…」
そういいながらミックはジャケットの内側をヒラリと開いて見せた。
もっこりちゃんの匂いを感じたのか、僚は急いで身体を起こしてミックの肩を
それはそれは親しげに組み寄せた。
そっとミックのジャケットの内ポケットに手を伸ばそうとする。
ミックはその指を抓った。
「イテッ!!なにすんだよっ!!」
「だーから見たかったらコレ必要なのよ、リョウちゃん」
ミックは肩から僚の腕をはずし、親指と人差し指で輪を作ってひらひらと僚の
目の前で手を揺らした。
「なんでぇ、ケチくせ〜。いつもだったら「いらない」って言っても見せるくせに。
いいぜ、お前の持ってきた写真なんて、いつも期待させといて大したもんじゃねーもん」
ミックはそんな僚を横目にみつつ、ソファに座りなおし、タバコに火をつけた。
「そんなこと言っていいのかね〜。かーなーり極上だぜ、今日のは」
「ハン。お前の口車には乗らねーよ」
すっかり拗ねたご様子の僚だった。
それを見てミックは口端を上げて笑った。
「ま、見ないって言うならそれはそれで構わんけどな」
その余裕のある態度に僚はイライラが募っていく。
僚は本能で、ミックの持っているブツは「イケル」と感じているのだ。
今までのミックの持ってくるものとは空気が違う。でもここでまんまと
ミックの言いなりになるのも、悔しい。
なにより実際問題として、ヤツにはらう金なんてもったいないし、無い。
でもミックのこの雰囲気だと一銭も払わずに見せてはもらえ無いだろう…
「…いくら、ありゃいいんだよ」
ミックはにやりと笑い、僚の耳に顔を寄せる。
僚の顔がゆがむ。
「ふーざーけんなっ!!んな金があるわけないだろーがっ!!」
「ふーん。無いならないでいいんだけど、さっ。読書のジャマをして悪かったな」
ガラステーブルの上に置いていた雑誌を僚の顔目掛けて投げつけた。
「ん、じゃな」
「もうちょっと…負からないのかよ…」
「今回ばかりは…な。すっごいレアモノ、特別なモンで。な」
そのまま、ミックはリビングの外に向かう。
「ぐ…わ、わかった……」
今回は冴羽氏、いいとこなしで負けた模様。ミック初勝利。
満面の笑みで戻ってきた。
「毎度あり〜〜」
そして僚の財布を取り上げ、代わりに胸ポケットから写真をだした。

〜★♪〜×△○〜×♪
写真を見た僚は嬉しいやら、憎らしいやら悔しいやらなんとも形容しがたい
表情をしている。
ミックはそんな僚の横に座り
「わかる?極上って言葉どおりだろ?」
「お前、これどこで手に入れた?」
「取材元はオフレコだぜ。記者の命だからな」
「なーにが記者だっ!?夜の新宿潜入ルポつったって、ギャルがいるとこしか
行かないお前が」


写真には、あの一日だけのおとぎばなしの中の香が居る。
最初で最後かもしれない、あの2人だけの甘い一日。
あの時の香がこんな写真を撮っているとは思わなかった。
夢のようなあの一日が事実だったことを物語っている。

何も言えない僚をよそ目に
「しっかし美人だよな、カオリ。いつもの格好だって『可愛いっv』って見惚れちまうのに
こんなにドレスアップしたら美しさもアップしてるもんなー。しかもいつもは垣間見れない
色気も漂って…うーん、たまらんっ!!お前、知ってた?香がこんな格好していたなんて。
何の為だ?見、見合いかーっ!?オーッノーッ!!こんなビューティホーな香を生で
見られたなんてー!!」
ミックは頭を抱えてしゃがみこんだ。
「バカかお前…」
最初の動揺が過ぎたのか、冷静になった僚にミックは明らかな不満を見せた。
「なんだよ、やっぱりお前、ドレスアップしたカオリと会ってるんだな。
そーだよな。友達と一緒だったっていうからてっきりお前とは別口だと思って驚かせようと
思っていたのに…ちぇ」
「ふん。ま…驚いたけどな…」
僚はそのままその写真を懐にしまう。
「お、おい!なんだよ。俺の写真だぜ、それ」
「なに言ってやがる。さっき金払っただろうが…」
「ふざけんな、あれは見せるだけの金で、その写真をやるってことじゃねーって…げっ」
ミックの目の前には僚のパイソンがガッチリとつきつけられていた。
「う…ぉ…。や、やだなリョウちゃん。そんな物騒なものださないでよ。ジョークジョーク」
「そうだよな。冗談だよな〜」
僚はにやりと笑い、パイソンを仕舞いこんだ。

 

とぼとぼとミックはサエバアパートを後にした。
玄関ドアから出ると、恨めし気に見上げる。

(くっ、あの写真は俺のカオリコレクションのTOPを飾る予定だったのに〜!
取られるくらいならもっとふんだくっておけばよかったぜっ、チッキショ〜)
 
いいながらも以前の相棒とはまったく違う感情の変化を喜んでいた。

(さーってとキャッツで今のリョウの姿をチクリってやろーっと)
ミックはスキップする勢いで、キャッツに向かった。

終わり


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