シンデレラストーリー 〜otherstory〜

カラン♪カラン♪
古い写真館の古い鐘が鳴った。


はい。いらっしゃいませ。
あぁ、あの写真ですか?お客さん、目が利きますね。
どうして、あんな奥に飾ってあるのかって?
いえね、あのお客さんに飾っていいかどうか聞く前に居なくなっちゃった
もんでね。確認取れてないんですよ。だけど良い写真でしょ?
奥に仕舞っとくのも惜しくてね〜。
だから隅の方に、私の満足の為においてあるんですよ。

え、あの写真を撮ったときの状況を知りたいって?
あんたさん、なんでそんな…
あ、あぁそう、雑誌の記者さん…でもあの写真が雑誌に載るってんだら
私の一存では渡せないですけど。

ふーんそう、記事にはしないんですね。
ほぅ、至極個人的な事?お、あれですか?
あの写真の彼女に一目ぼれしたとかそういうんですかね〜?
まぁ、だったらいいかな〜。じゃ、コーヒーでも淹れますわ。
座って待っててくださいな。


そう、あれは3月のようやっと暖かくなるって頃ですかね。
私の趣味は写真を撮ることでね。
暇さえあれば中央公園や新宿の街並みを撮影しているんですよ。
趣味と実益を兼ねてるって?まぁ端からみりゃそうかもしれないけど
今は個人でも良いカメラもあるしね。
最近はあんまり写真館まで来て写真を撮ろうなんて
奇特な人がいないんでね。
ま、ほとんどこの店は実益を上げてないんだけどさ。
あ、逸れちゃったね、ゴメンなさいな。

で、その日も店は早めに切り上げて、公園に向かおうとしていたんだよ。
夕方…うん、あの頃は日が落ちるのも早いからね。
6時過ぎたか、そんくらいだったと思うよ。
シャッターを閉めようと外にでたら、このお嬢さんとお友達が歩いててね。
まぁ、お嬢さんは見ての通り目を引く美人でさ、その上この写真じゃ
分からないけど、背も高くてモデルさんみたいなんだよ。
実際、私はそうだと思ったしね、一目見て。
それで一緒にいる友達もまた綺麗なんだよ。
だからこの街中でもとっても目立っていてね。
思わず声を掛けたんだ。
「写真撮らせてくださいっ!!」
ってね。

2人はとっても驚いていたけれど、私がここの写真館の店主だっていったら
OKしてくれてね。
いや、本当のことをいうと被写体になってくれた彼女の方はとっても
戸惑っていたのだけれど、一緒に居た友達がずいぶん乗り気でね、
彼女はそれに押されたって感じだったんだけどね。

まぁ、私はいそいそと店のシャッターもう一回上げて
それ幸いって感じでスタジオに二人を案内したんだ。

二人の会話をよくよく聞いてみるとどうやら彼女を変身させて、その姿で
夜遊びをしようって街に繰り出すところだったらしいんだ。
ま、じゃあ変身記念にって、2人一緒に写した
のとかもあったんだけどね。
あのウィンドウの彼女はそれはまぁ照れて照れて。
直立不動の写真しかとれないかと思ったよ、最初は。
だけど友達がノせる子でね〜、成人式とかで座る椅子とかね、わかるかい?
あんなの倉庫からひっぱりだしてきてね。
私はさ、人物はあまり撮らないんですよ。
基本的に風景ばっかり撮っていてね。
でも彼女は本当に心から撮りたいと思ったね〜。
まぁ最近見ない美しい娘さんだったよ。

え?あの写真はずいぶん挑発的じゃないかって?
あぁ、そうかい?そんな風に見えるかねー。
あれは彼女の友達がね『グラビア風に撮りたーーいっ』って言うから…
ポーズとかも友達が熱心につけていてね。
彼女はずいぶん抵抗していたけどね。
まぁ友達の方が口達者っていうかなんていうか、結局彼女はいうなりに
ポーズつけてたよ。
足も長くて綺麗でねー、ここだけの話、ちょっと見惚れたよ。
写真だけ見たって彼女がどんだけ綺麗か分かるってもんだろよ。
ん?そうそう、このスリットをはずさせたのも友達だよ。
こうやって唇をちょっと尖らせたのもね。
もうモデルの彼女の方は『こうなったら早く終わらせたほうが良いわ』
とでも思ったんだろうね。
その頃になったら結構素直に友達のいうこと聞いてたね。
で、それが最後の写真なんだ。
1時間くらいかけて撮ってたのかね。もうそろそろ時間だからって友達が。
彼女もコレ以上ここにいたら何やらされるかわかないとでも思ったかね、
結構そそくさと出て行っちゃったんだよ。
名前くらい聞きたかったんだけどね。
あぁそりゃ私からお願いして撮らせてもらったんだから…
料金はもらってないさ。それでも最高のものが写せた予感がしたから
彼女達に送ってあげたかったんだよ。

え、渡してくれるって?
なんだい、あんたさん彼女の知り合いだったのかい?
もう人が悪いね。最初からそう言ってくれればいいのに。
あ、あれ。そうか?!
あんたさんあの彼女のイイ人なんじゃないの?
え、またまた〜。
ここまで言っちゃったなら隠さなくたってイイじゃないさ。
そう、いいねー、あんな美人さんが彼女なんてな。
幸せにしなさいよ。じゃないと罰があたるよ。
はいはい。これが写真だよ。
彼女によろしくね。また撮りに来てって言っといてよ。


カランカラン♪
「ちょいとおじいさん、今の外人さんなんだい?」
「あ、あのウィンドウに飾ってた美人さんの彼氏だってよ」
「ほぉ、美男美女のカップルってのはいるもんだねー」
「あぁ、そうだなぁ〜」

店主はその男のでていったドアを優しく見つめていた。

end

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