電気通信大学 上野研究室
since: April 3, 2008
Last updated: July 13, 2008


最近の研究成果ニュース




◎ 毎秒200ギガビットと超高速で省エネルギーな光ゲート実験の最新成果

電通大西2号館の私達の実験室で、毎秒200ギガビットと極めて高速なデジタル光信号を発生し、時間多重し、 全光ゲート処理し、光出力波形計測することができるようになりました。高速光ゲート部分に、特別注文した光半導体導波路デバイスを利用しています。 過去数年間の卒研、修士・博士研究で積み重ねてきた、大きな成果です。
(坂口君、奥平君、稲冨君、柳沢君、Nielsen氏、鈴木君ら)







図1 光ゲート実験装置 (超高速な光信号を発生して時間多重する装置の周辺)。
まず毎秒12.5ギガビットのデジタル光信号を発生し、次にそれを16重時間多重すると、
毎秒200ギガビットのデジタル光信号が出来上がります。





図2 てづくりの装置で実験的に発生した、超高速なバイナリデジタル光信号 (毎秒200ギガビット秒)。





図3 毎秒200ギガビットの光信号でDISC型光ゲートを駆動し、
光ゲート出力部から取り出した、信号波長変換出力の一例。
強度の強すぎる部分と弱すぎる部分が、混在しています。





図4 毎秒200ギガビット光信号変換ゲート出力*1)の一例 (2008年2月21日)。
図3の後の研究により、はるかに良好なDISC型光ゲート構成と駆動方法を探り出しました。

*1) 図3, 図4では、長いデータ信号の中から2箇所(黒い実線と青い破線)を取り出して拡大表示しました。





図5 図4の光ゲート駆動に成功した光半導体チップと同型チップの、光学顕微鏡写真。
実際のチップ寸法は、長さ約1mm、幅0.3mm、厚さ0.1mmです。
半導体チップの表面を斜めに横切って見える細長い構造物が、光増幅導波路。

今回のDISC型光ゲート製作など各種の実験研究用に、
米国と英国の専門メーカの研究開発部門へ、
半導体光増幅器チップ試作品、計6種類(計30チップ程度)を特別仕様注文しました。
光ゲート動作原理の中で最も重要な非線形光学作用は、
長さ約1mmの光増幅導波路を同一方向に進行する2種類の光成分の間に相互に働く、
超高速な相互作用(相互位相変調作用と相互利得変調作用)です。

なお、図4の実験中の半導体チップの消費電力(直流バイアスが消費する電力)は、
わずか0.6ワットです。




図6 最近の報道発表
2008年6月27日付け日刊工業新聞紙の第26面。
「電通大が高速光ゲートの消費電力モデル作成、高速光通信に活用。
新方式で毎秒200ギガビットの動作実験にも成功。」






図7 毎秒200ギガビット光信号変換ゲート出力の一例 (2008年5月7日)。
図3・図4の実験研究の後に、新しいゲート駆動方式を試行しました。
信号強度の均一性が、図4よりさらに良い。
ゲートを駆動する入力信号の波長= 1560 nm (光周波数= 192 THz)。
信号波長変換された出力信号の波長= 1540 nm (光周波数= 195 THz)。
半導体チップの消費電力= 0.6ワット





◎ 高周波・高純度な光クロックパルスと光周波数コムスペクトルを発生

私達が研究している高速光ゲートをパルス発生原理に応用して、新方式のクロックパルス光源を開発する、
独自研究です。今回は、幅2ピコ秒、繰り返し周波数10GHzと高速・高周波な出力パルスの
周波数成分の高純度化に、成功しました。
これも、これまでの卒研、修士・博士研究の積み重ねの成果です。
(中本君、竹内君、稲冨君、坂口君、大平君、鈴木君ら)





図1 今回の光パルス発生器試作機の主要部分。
今回の試作機製作の一部で、
日本航空電子工業株式会社の研究所(東京都昭島市)のご協力を得ました。




図2 周波数成分の純度を、約1,000倍高めることに成功。
(OE変換信号の周波数スペクトル、従来比)





図3 幅2ピコ秒、繰り返し周波数10GHzと超高速・高周波な光クロックパルス波形と、
広帯域・高純度な光周波数コムスペクトル。





図4 最近の報道発表
2008年3月25日付け日刊工業新聞紙の第1面。
「周波数成分純度1,000倍に。毎秒200ギガビット級高速光通信へ、電通大が光源開発。」






図5 2年前の第1回報道発表
2006年5月12日付け日刊工業新聞紙の第25面。





◎ 以上で紹介した研究成果の他にも...

ナノ結晶・量子ドット光導波路回路の高速応答特性評価研究成果や、
光複素スペクトル成分合成法を導入する独自の高速化方式研究準備など、
いろいろなおもしろい成果を出しています



今後の超高速光テクノロジーの展開を支える、
光配線・光ケーブル材料の"超広帯域"特性:

帯域幅は、短距離な光配線やケーブルでは100テラヘルツ
長距離ケーブルでは10テラヘルツと、"超広帯域"。

従って将来は、1つ1つの回路が、
毎秒10〜100テラビットの情報を高速処理するようになるでしょう。
光信号を使うと、高速で省エネルギーです。

上図は、標準的なシリカガラスファイバーケーブルの、
長さ1km当たりの光エネルギー減衰量(デシベル表示)。
例えば、
波長1.55ミクロンメートルの光信号エネルギーは1km先で約95%まで減衰し、
波長1.0ミクロンメートルの光信号は1km先で約80%まで減衰します。



◎ すでに少しずつ始めている独自テーマ、そろそろ始めたい独自テーマ

  1. 500GHz〜1THz領域を目指す、光材料基礎研究
    光スペクトル複素成分合成研究試作機性能試験(産学共同研究)を経て、 反転分布半導体の200GHz〜1.5THz帯域特性に現れる高速歪成分を取り除く、段階的な基礎実験研究。 これも、世界で一度も試みられたことの無い独自方式研究です。 情報通信研究機構(NICT)との産官学連携共同研究課題の1部として、すでに少しずつ始めています。

  2. 世界初の200G-XORゲートデバイス実験
    応用目標の一部を1km以下の短距離通信(ポスト100Gイーサネット応用)へ転換し、 独自方式の200G-XORゲート実験準備へ進んでみようか?! 現在最速のCPUの10倍以上高速な信号処理回路の世界です。 2007年度の200G実験成果を継承・拡張し、 制御光入力と光加速用入力の波長と偏光設定を再評価し、 200G実験装置負担軽減を試みよう。

  3. 500Gクロック信号ゲートから先行着手するほうがむしろ容易かな?
    1.と2.の初期の段階では、 200Gデータ信号ゲートより500Gクロック信号ゲート実験の方が 実験装置が容易で成果が大きいかもしれないね!

  4. 15年以上の永きにわたって決着がついていない、高速材料研究上の世界的命題
    1990年代初頭以来世界中で続けられている、 不純物添加による応答時定数加速作用と、光入力による応答時定数加速作用の、 いったいどちらが省エネルギーなのだろうか。 2007年度成果で得た有力な手がかりを元に、世界に先駆けて、この命題に決着つけませんか?

  5. フリップフロップ型の高速光メモリー開発
    実用的で高密度光集積可能な光デジタルメモリーの開発も、超高速光ロジック研究分野の重要テーマの1つです。 筑波大学-産総研-本学-NEC研究所の共同研究の中で、COE研究員Ferran Salleras博士と院生本間正徳君が続けています。 2008年度の研究活動は、Salleras博士が唯1組の最新導波路試料で評価・結論付けた光位相緩和時定数特性を、 さらに2, 3組の導波路試料で追試し、2007年度成果を補強・確立するところから再開する予定です。 西7号館に設置しているとても強力な超高速・超広帯域波長可変な大規模固体レーザシステムを利用して実験します。

  6. 超高精度計測回路を手のひらサイズに: 高純度光周波数コムスペクトル発生方式研究
    現在の半導体光増幅器やナノ光導波路回路を活用し、 高純度光周波数コムスペクトル帯域を、 5〜10テラヘルツ程度まで拡大する新しい光回路設計と評価実験を試みませんか? 情報通信研究機構(NICT)と産業技術総合研究所(AIST)との共同研究を具体化しようかと考えています。

  7. 本学独自方式の高速・高純度光パルス発生器を、産学連携展示会場へ
    超高速・高純度なdisc-loopパルス発生器の大規模試作機開発と並行して 中速度仕様の簡略方式を開発し、 運搬可能なISO規格メタルケースに収納し、 電通大研究成果を産学連携展示会場で動展示発表してみませんか?

  8. 超高速な光データや光クロックの光周波数スペクトル幅を高精度計測する
    私たちの研究では、 40GHz〜200GHz周波数領域の光データや光クロックの光周波数スペクトル幅を 高精度計測することが大切です。 しかし最高性能の市販分析器を使っても直接計測は不可能なので、 光ヘテロダイン方式の差周波数電波信号発生器を数種類自作し、 30GHz以下の電波信号へ変換した上で、高精度30GHzスペクトル分析装置でスペクトル幅計測しています。 2004年度以来の重要課題は、計測感度が低いことです。
    光ヘテロダイン計測感度を画期的に高める工夫を、開発してみませんか? まず第1に、差周波数信号発生効率をモデル化し、かつ、着実に実験検証することが、 今後のパルス発生研究にとっての近々の重要課題です。

  9. 幅1ピコ秒以下で、周波数100GHzの高速・高周波モードロックパルス発生
    100ギガイーサネットに合致する周波数であり、 大きな明確な区切り(= milestone)となる研究目標です。 2003年度修士卒の鈴木励君、2005年度修士卒の中本亮一君が、 数々の実験準備と予備実験を実施しました。 これは、すでに少しずつ始めている大きな研究テーマの1つです。

  10. その他にも...

    1. 2005〜2007年度の実験研究で、 毎秒200ギガビット以上の半導体光増幅器チップの高速性能を大きく引き出そうとすると、 半導体チップ内部のジュール発熱がわずかな「熱膨張」を誘起し、 熱膨張が光学結合損失を誘起するなどの悪影響が現れています。 熱膨張を補償する光学結合方式を、皆さんが開発してみませんか? 今後の毎秒200ギガビット以上の超高速ゲート実験の成否を左右する、 おもしろいテーマの1つです。

    2. 現在最速のCMOSトランジスタ(携帯端末, パソコンCPU, DRAM)の消エネルギー技術動向を調査してみませんか? 電磁界放射損失比率、絶縁誘電体吸収損失比率、高周波電磁界に対する誘電率分散量が、 科学的なエネルギー損失起源と思います。

    3. 2007年度の実験研究で、 毎秒200ギガビット, 長さ5,000ビットの光データ信号波形を計測するために、 超高精度同期計測システムを独自開発しました。 この同期計測技術の心臓部は、1/5,000分割周波数同期パルスを高精度・低雑音に発生する、 参照光パルス発生機(独自試作)です。 皆さんが、より優れた参照光パルス発生機を、設計・製作してみませんか?

    4. 私達が保有する多種多様な半導体光増幅器の光学利得スペクトル特性を 体系的に計測してみませんか。 既存の装置と部品を上手に組み合わせて、高感度な計測方法を工夫してみましょう。 体系的な利得スペクトル計測結果に基づいて、 それが光加速作用にどれくらい大きく寄与するか分析し、 さらに利得飽和現象やスペクトルホールバーニング現象などの超高速作用を考慮して分析すると、 とてもおもしろい成果を得られると期待されます。 世界最速な光ゲート応答速度に、到達する可能性があります。

    5. 2006〜2007年度の実験研究で設計・特別注文した強閉込めエタロン共振器を使い、 長さ2ピコ秒の短パルスの周波数成分高純度化(単一縦モード化)を、達成しました。 ただし現在のエタロン共振器の内部構造(高精密なsolidエタロン材料と入出力角度調整構造)は、 さらに高速な超短パルス発生に挑戦する際に、 屈折率分散限界に阻まれる1原因となります。 皆さんが、現在よりも原理的に優れたair-gapエタロン共振器を設計・試作して、 当研究室独自の半導体集積適合方式で初めての「超高速フェムト秒パルス発生」に、 挑戦してみませんか?


    など、いろいろな独自テーマ・先駆的テーマが、あります

    ここに挙がっていない研究テーマやオリジナル目標に気付いて勇敢に挑戦するのも、面白いですよ。

    過去6年間の院生・卒研生と見ていると、 最初から難しい大きなテーマを選んで、1, 2ヶ月程度で一気に最終目標達成しようとすると、それは大変過ぎるようです。 むしろ毎週着実な準備を積み重ね、同級生・上級生下級生と柔軟な情報交換を繰り返し、 小さな失敗を繰り返して進み続ける学生が、科学技術的にも社会人としても、とても大きく成長します
    大学4年生にとって、1年間の大半を投入する研究テーマとその目標設定は、生まれて初めての巨大プロジェクトであり、とても良い実践的学習となります。



◎ 研究室メンバーひとりひとりが、独自の新しい研究テーマを探す目的は?
1年間の卒業研究を通して皆さんが初めて学ぶことは、 「図書館や通信教育でどんなに自習しても、実践的な科学技術力を身につけられない」 ことです。
多くの知識を習い、授業履修生共通の練習問題の解法を習う教養課程を「一旦卒業」し、 科学技術の応用力と判断力を実践的に実習し、 同時に同級生・上級生・下級生・大学外部とのチームワークや意見交換技法を実習する、 皆さんにとって生まれて初めての貴重な機会です。
国立大にしては少々高い学費(約60万円/年=授業料、教室・事務等諸経費、教職員人件費の一部)を支払えば、大学研究活動資金は、大学外部の研究資金団体が出資します(=”外部研究資金”)。 講義型授業履修だけではあまりに惜しい。皆さんにとって、学費の数倍の学習と実践経験を身に付ける場所、です。



◎ 研究室メンバー紹介 (2002〜2008年度)

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電気通信大学 電子工学科/電子工学専攻
超高速光ロジック研究室
上野 芳康