桜花

 

時祭麗亜

 

空を見あげると、時々思い出す。

いまから半世紀も前に、悲しいロケットがあったことを。

チェリーブロッサム(桜花)。

桜の花がすぐ散ってしまうのを象徴したかのような悲しいロケット。

その目的は体当たり。そのためだけに造られたロケット。

すでに飛行機でもない。

1200kgもの爆弾を機体に抱えた単なるロケット爆弾。

 

だが単なる爆弾ではない。

人間が乗っているのだ。

死を覚悟した若者が乗っているのだ。

国のため、家族のため、恋人のため、彼らは死を志願した。

母機につるされ死を待つ若者たち。

命中すれば駆逐艦ぐらいなら一発で撃沈する。

恐るべき人間爆弾。

 

敵軍はこう呼んだ。

バカボンブ(バカな爆弾)。

クレイジーだ。

彼らには決して理解できないだろう。

力こそが正義。自分こそがグローバルスタンダードという彼らには。

圧倒的な力を持つものに対抗する最後の手段が命だということが。

狂おしいほどの悲しい気持ちが。

命を賭ける価値のある崇高な行為が。

 

造ったヤツはどんな気持ちだったのか。

出撃を命じたヤツはどんな気持ちだったのか。

そして、志願した若者は、どんな気持ちだったのか。

いまとなっては、ただ想像するしかない。

 

いま、ロケットは飛ぶ。月を目指して。

いま、ロケットは飛ぶ。火星を目指して。

いま、ロケットは飛ぶ。平和の為に。

 

昔、人を殺すためだけに飛んだロケットがあった。

空を見て時々考える。

現在の我々は、その気持ちに応えられているのだろうか。