5月の空へ


も来ればいいのに』
「いい、行かない」
『俺の仲間に遠慮することないって』
「わかってるけど、今日はいいよ。友達に祝ってもらってきて」

そうして、私は快彦との電話を切った。


今日は、5月17日、快彦の28歳の誕生日。
最初からこうなるってこと、わかっていたはずなのに、
本当にそうなってしまったら、やっぱり寂しいというかなんというか…。
今夜は、男友達に祝ってもらうんだって。
快彦は、私に嬉しそうに報告した。

「快彦のバーカ…」

無音の携帯電話をベッドに放り投げた。
そりゃあ、友情だって大切なのは、私だってわかってる。
快彦が仲間をすごく大事に想っているのは、わかってる。
だけど、こんな日くらい…。
私は涙を呑んだ。
そうだ、今度、たっぷりと埋め合わせをさせよう。
んで、思いっきり甘えてやろう。
そう必死に自分に言い聞かせて、私は、ひとりでいつもの夜を過ごした。



日付は変わって、5月18日。
私は、いつも起きる時間よりもかなり早く目が覚めてしまった。
時計を見ると、まだ5時を回ったばかり。
何故こんな早くに目が覚めてしまったのか…。
ふと耳を澄ますと、外から水の滴る音が聞こえてきた。

「雨だ…」

私は、窓に歩み寄り、カーテンを開け、窓を開けると、
まだ明け切れていない夜の中で、次から次へと冷たい雨が地上へと降り注いでいた。
それに、5月と言っても、雨の降る朝はまだ寒い。

「寒…」

そういえば、昨日快彦の誕生日だったんだ…。
眠って忘れかけていたことを思い出す。
強がってみても、やっぱり私は快彦と一緒にいたかった。
昨日は特別な日だったから。
そうやって、しばらくぼーっと雨の行方を目で追っていた。

明け方の雨は、なんでこんなに切ないんだろう……。

鳥肌の立つ腕をさすり、もう一眠りしようと、窓を閉めようとすると、
窓の下の道路からこっちを見上げている人影に気が付いた。
寝ぼけ眼をこすって見てみると、それはまさしく快彦だった。

「よ、快彦…!?」

私は、思わずパジャマのまま快彦の元へと急いだ。

「どうしたの、快彦。こんな時間に」

どうやら少し前からここへいたらしい濡れた快彦に傘を差し出す。

「友達と盛り上がってたら、こんな時間になっちゃった」
「んもう、だったら真っ直ぐ自分の家に帰ればいいのに」
「だって、がさ…」

そう言って、快彦は罪悪感を感じているような瞳を私に向けた。
ああは言っても、私のこと、気に掛けてくれていたんだ…。
日を改めずに、こうやってそのまま来てしまうのがなんだか快彦らしかった。

「とにかく上がって」

髪から雨が滴り落ちている快彦を、私は部屋の中へと促した。



「あーあ、けっこう濡れちゃってるじゃん」

私はとりあえずバスタオルを持ってきて、快彦の髪を拭いてあげた。

「シャワー浴びる?」
「……」

快彦は、一向に私の手からタオルを取り上げず、静かに黙って私になされるがまま。
私の質問にも答えない。

「ねぇ、快彦…?どうしたの?」

すると、快彦は、突然、快彦の頭の上にあった私の手を掴んだ。

「えっ、ちょっと…!?」

驚いたのも束の間、私の指にはキラリと光る指輪がそこにあった。

「よかった、ピッタリだ」
「快彦、これ…」
「ん?指輪」
「そんなの、見れば分かるよ。なんで急に…」

快彦は、自分の頭にあったバスタオルをようやく自分で取り、髪を拭き始めた。

「んー、なんか急ににプレゼントしたくなってさ。ちょっと頑張っちゃった」

よく見てみると、その指輪は、快彦の手作りだった。
この春から高校生にもなって、さらに忙しくなったというのに、
私のために…?
ヤバイ、そう思ったら涙が出てきそうになった。

「ほんとピッタリ…。よく私のサイズ知ってたね、快彦」
「だって、こないだ計らせてもらったから」
「え、いつ!?」
「だから、こないだ」

快彦は、ニヤリと笑う。
いつの間に計ったというのだろう。
あ、もしかしたら、こないだ私が快彦の隣で寝ていたときかな…。
私がハッとした顔を快彦に見せたら、快彦はニヤニヤしていた。
まったく油断もスキもない…。

私はそんな快彦に小さく呆れて、もう一度、快彦が作ってくれた指輪に目を落とす。
快彦の愛情がたっぷりと詰まった指輪…。
私は、もうすでに自分の感情が抑えることができなくなっていた。
次から次へと涙が溢れてくる。
寂しかった昨日の今日だから、余計にその分がプラスされてる。

「うわ、けっこう濡れちゃったな。しばらくん家いて…おわっ!」

濡れてしまったTシャツを脱ごうとしていた快彦の後ろから、私は抱きついた。

「快彦…ありがと」
「ん」
「でも快彦が誕生日なのに、私がもらっちゃっていいの?」
「たまには、そんなのもいいじゃねぇ?」

快彦がはははって笑った。
いつもの快彦の笑顔に、私もなんだか安堵感を憶え、昨日の寂しさもどこかへ消えてしまった。
何よりも、快彦がこうして私の元へ来てくれたことが嬉しかった。

「快彦、28歳の誕生日おめでとう」
「ありがと」

私が溢れていた涙を拭い去ろうとした、そのとき、
さっき開けっ放しにしていたカーテンと窓の隙間から、朝陽が差し込んできた。

「雨、上がったんだね…」

いつもより美しく感じた雨上がりの朝陽をしばらく見つめる。

「そういえば、快彦、こんな時間にウチに来て、私が気がつかなかったらどうするつもりだったの?」
「うーん、合い鍵でこっそり入って、襲ってたかも」
「またそういうこと言ってぇ」

いつもように冗談を言う快彦に少し呆れたように笑ったら、
快彦が優しいキスをひとつくれた。

そして、私は快彦のくれた指輪を朝陽にかざし、

これからもずーっと快彦と一緒に居られますように…

私は、5月の空へとそう祈った。



−−−E N D−−−

最後の言い訳っ。

井ノ原さんバースデーストーリー2ヶ月も遅くなりました(汗)。
しかも、なんだかいのっぽくないような気もしないでもないけど(汗汗)。
とりあえず、合い鍵持ってるなら、雨なんかに濡れずに早く入ってこいって感じですよね。
そこはまぁ、DREAMってことでひとつ…(笑)。
てゆか、髪から水か滴る姿を想像したら、ちとやばかった(笑)。うひょうひょ。
2004.7.19


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