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おやすみ
「ねぇ、快彦……今夜泊まってもいいかな?ここに……」 彼女がちょっと俯きながら、そう言った。 最近、俺が忙しくて、全然会えなくて、ようやくわずかな時間ができて、 久しぶりにふたりで会えた夜だったし、 俺は、もちろん大いに賛成だった。 できれば、このままずっと一緒にいたいくらい。 とりあえず、俺は、冷静を装って、さりげなく聞いてみる。 「いいけど……、明日仕事じゃねぇの?」 「そうだけど……快彦の家からこのまま仕事行く」 「なら、いいよ」 「ホント?ありがと」 は、そう微笑んで、俺の肩へともたれかかってきた。 いつになく、のかわいらしい言動に、俺は、思わずドキッとする。 俺もの肩を自分のほうへと引き寄せ、 の肩へとは逆の手で、小さくガッツポーズをした。 夜も更け、お互いに風呂も済ませ、落ち着いていたときに、 俺は、をベッドへと促す。 「そろそろ寝よっか」 「うん」 は、頷いてテレビのリモコンを手に取り、テレビの電源を切った。 そして、はとことこと、俺の寝室へと歩いていく。 当然ながら、俺はまだ独身で、とも結婚していないのだから、 寝室には、俺のベッドがひとつしかない。 今夜は、ふたりでひとつのベッドに寝ることになるのだ。 「はぁ、眠〜い…」 先に体を横にしたから、仄かなせっけんの香りが漂ってきた。 「あっ、そうだ、快彦。こないだの快彦の誕生日プレっ……」 俺は、無邪気な笑顔で振り向いたの唇を塞ぐ。 俺の突然のキスに、一瞬、は驚いたようだったが、 すぐに、俺のキスを受け入れてくれた。 そして、の首筋へと唇を落としていく。 今夜は、ふたりっきりの甘い夜になるのかと、期待した瞬間、 の手が俺の体を、せっけんの香りが仄かに香るの体から遠ざけた。 「快彦、ちょっと待って」 「何だよ」 「今日は、そういうつもりで泊まったんじゃないの」 「え?」 俺は、そのつもりとばかり思っていただけに、のその態度に困惑する。 「じゃあ、なんのつもりで泊まったんだよ?」 「快彦の誕生日プレゼント……まだあげてなかったでしょ?それをゆっくり決めたくて」 がそう言って、微笑んだ。 「別にいいよ、そんなの。の気持ちだけで充分だからさ、な?」 何を言うかと思えば、先日の俺の27歳の誕生日のプレゼントだって……。 そんなこと、今言わなくったって、と、俺は思った。 今はただ、俺の好きなせっけんの香りに包まれたが欲しかった。 もう一度、へと顔を近づける。 「よくないっ。そんなの、私の気が済まないの!ねぇ、快彦、何が欲しい?」 俺の気持ちもおかまいなしに、笑顔で俺の顔を覗き込んでくるに、 まさか“今は、お前が欲しい”だなんて、言えるわけもなく……。 「も〜、お前、台無しじゃねぇかよ〜」 俺は、ついにふてくされて、の横へと寝転がった。 「何よ〜!私は、快彦の一番欲しい物を買ってあげようと思って、だから、自分で買ってこなかったのに〜!」 俺は、のその言葉を耳だけで聞き入れ、ベッドの横のスタンドに明かりを灯す。 「もう知らないよ。寝る!」 とうとうもふれくされて、俺に背を向けて、寝てしまった。 はぁ……。 せっかくのふたりっきりの夜が台無し。 俺も寝るに寝付けなくて、スタンドの横に置いてあった、読みかけの本を手に取り、読み始めた。 久しぶりに会えたっていうのに、何やってんだかなぁ、俺たち。 めくったページの文字も、なかなか頭の中へと入ってこない。 甘い夜にはならなくても、せめて仲良く、寄り添ってと眠りたい。 俺は、そう思って、背中を向けているに話しかけた。 「なぁ、……」 すると、から返ってきたのは、返事ではなく、かわいらしい寝息だった。 「なんだよ、寝ちゃったのかよ」 最近、見た目がすごく大人っぽくなってきたかと思えば、 まだまだこんなあどけない部分があったりもする。 俺は、の体をぐいっと引っぱり、仰向きにする。 「俺のプレゼント、決めるじゃなかったのかよ」 自分からそう言っておきながら寝てしまった、の頭をそっと撫でた。 気持ちよさそうに眠っているの寝顔を見て、 自然と笑みがこぼれる。 しばらくの寝顔を見つめていると、 俺は、自分の腕にぬくもりを感じた。 ふと、目を落とすと、が自分の腕を俺の腕へと絡めていた。 俺とデートでもしている夢を見ているのか、 それとも、俺の腕を抱き枕だと思っているのか。 どちらにせよ、は離そうとはしてくれず。 明日起きたら、きっと筋肉痛になっているだろうけど、 まぁ、それもよしとしますか。 「おやすみ」 俺は、最後にひとつの唇へとそっとキスを落とし、 幸せな眠りについた。 −−−E N D−−− 最後の言い訳っ。 とりあえず、最初に思い浮かんだのは、PLAY ZONE'99のサントラより、カッちゃんの「Angel In My Arms」(笑)。 んで、“おやすみ”ときたら、井ノ原快彦でしょー!!ってことになったであります。 ちょうど誕生日だったしね。 でも、さすがに『ぼくの胸でおやすみ』と、いのに言わせる勇気はなかった…(笑)。 ちなみに、『俺は、女のコのせっけんの匂いが好きだ!!』と、御本人、トニコンで言い張ってました(笑)。 あ、でも、前から言ってたか…。 2003.5.22
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