桜の木の下で


今日は、花の週末、金曜日。
俺は、と逢う約束をしていた。
会社もあと少しで終わり♪
俺は、浮かれていた。
なのに…。

「井ノ原くん、ちょっと」

上司に呼ばれた。

「何でしょう?」
「キミ、今夜予定ある?」
「え?」
「明日、ウチの会社の花見があるだろう。その場所を陣取って欲しいんだ」
「それは、別にかまないですけど…って、えっ?今夜?」
「そう。徹夜で!」

パッと振り返ると、同僚がみんな俺に向かって手を合わせていた。

「他の奴らはどうなんですか?」
「いや〜、みんな今夜は予定があるって言うもんだからさ〜。
頼むよ〜、井ノ原くん!」
「あっ、いや、ちょっと今日は…」

上司は、俺の肩をポンと叩いてどこかへ行ってしまった。
すると、後ろから同僚たちが、

「悪いな、井ノ原!俺、今夜どーしてもはずせない用事があってさ!」
「俺も、彼女と約束があるんだ!」

肩に手を乗せてきた。

「いや、俺も約束があるんだって!」
「でも、お前、別にかまわないって言ってたじゃん」
「それは、明日朝早くかと思って…」
「それじゃ、よろしくな〜!」

同僚たちもどこかに消えていった。

キンコーン…

終業のチャイムがむなしく鳴り響く。

「はぁー…」

、きっと怒るだろうなぁ。
案の定、に電話をすると、

「え〜!マジで〜!?せっかく珍しく料理作ったのにぃ〜!
どうすんの!?コレ!」
「しょうがないだろ〜!?無理矢理押しつけられちゃったんだから!
だから、明日会社の花見終わったら、お前ん家行くから!」
「ドコの桜見に行くの?」
「井坂長公園」
「今から行くの?」
「あぁ」
「ひとりで?」
「そう」
「マジで〜!?そんなの断わっちゃえばいいのにぃ!」
「大人の世界は、そんな訳にもいかねーんだよ!」

は、しぶしぶわかってくれたけど、やっぱりドタキャンは怒るよな〜…。


井坂長公園に着いた。
もう桜が咲く季節なのに、今日はなぜか風が強くて、肌寒かった。
すでに咲いてしまった桜の花びらが夜風で舞っている中で、
俺はいったい何をしているんだろう…。
本当なら、今頃の部屋で、テレビを見ながらでも、
の作った料理を食べているはずなのに…。
とりあえず、適当な場所を見つけてシートを敷いた。


途中の本屋で、時間潰しのための本は買ってきたけど、
強い春風の音が耳に入ってきて、なんとなく集中して読めなかった。
それが、余計俺をむなしくさせる。
せめてギターがあればなぁ…。

下を向いてぼーっとしていた俺の視界に、突然、誰かの足が入ってきた。
顔を上げてみると、なんとだった。
しかも、俺のギターを抱えている。

!?」
「快彦がひとりで暇してるんじゃないかと思って、来てやったよ!
はい!ギターも持ってきた」

俺が驚いて声も出せないでいると、さらに、

「さっき作った料理も持ってきたよ。どうせろくに食べてないんでしょ?」

と言って、俺の隣に腰を下ろした。

「ほらっ!肉じゃが♪本見ながら、初めて作ったんだけどね、
なかなかおいしくできたんだよ♪
しかも、快彦の好きなナポリタンも!
スパゲティってこんなとこで食べる物じゃないけどさぁ…快彦?」

は、さっきから一言も言葉を発しない俺を不思議に思ったらしく、
目を丸くさせて俺を見た。

「えっ?あ、ごめん、ごめん。が女に見えたから、驚いて声が出なかった」
「はぁ!?何それ!?今まで私、女じゃなかったの!?
じゃあ、快彦は今まで男とつき合ってたの!?」

実は、そうじゃない。
突然、がギターを持って、そして手料理を持って現れたことに、
あまりにも感動してしまい、ドキドキしていたのだ。
またにホレ直してしまった。
俺は、さっそくが持ってきた料理を食べ始めた。

「お前にしては、上出来じゃねぇ?」
「…ねぇ。素直においしいって言ったらどう!?」
「……今日は、ごめんな。やっぱドタキャンはムカつくよな」
「……。別にもう怒ってないよ。だって快彦のせいじゃないじゃん。
それに、今、快彦私の料理食べてくれたし、ふたりで夜桜見れたんだもん。
私は、満足してる」

と言って、が微笑んだ。


夜の桜の下で、ふたりどれくらい過ごしただろうか?
突然、がコクッと俺の肩にもたれかかってきた。

 「?」

顔を覗き込むと、は眠っていた。
時計を見ると、もう午前1時をまわっている。

「…寒い…」

そしては、寝言でつぶやき、俺の袖をつかんできた。
俺は、自分のスーツのジャケットをにかけた。
すると、は、俺の手を握ってきた。
起きているのかと思い、顔を覗き込むとやっぱり眠っている。
無邪気な顔をして、寝ているを見て、俺は急に愛しくなり、
キスをした。

「…ん…」

一瞬、が起きてしまったのかと思ったけど、またスースーと寝息を立て始めた。
そして俺は、が持ってきてくれたギターを取り出し、
桜の花びらが舞い散る夜の中、歌い始めた。
  
桜の木の下で、俺はに捧げた。

お前がいる…


−−− E N D −−−

最後の言い訳っ。

イノサカチョウ公園て一体どんな公園なんでしょうねぇ(笑)
いや、コレホントは桜真っ盛りのときに書いたのよ。ホントだってば!(笑)
ん〜でも、いのにしては、元気がないような気もする。
そんじゃまぁ、に対する恋煩いとゆうことにでもしといてください(逃)

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