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ふたりのクリスマスケーキ
Masayuki Sakamoto 「昌行なんて、もういいよっ!」 彼女がそう言い残して、部屋を出ていった。 だけど、ケンカの原因は、本当にたいしたことのないこと。 今夜は、クリスマスイブ。 俺のスケジュールをマネージャーから聞いて、この日の夜がオフだってわかったとき、 俺はすぐににメールをした。 そのときからふたりで逢おうって約束して、それまで逢えなかった辛さを今夜の為にずっと我慢して。 そして、待ちに待った今夜という時間。 シャンパンを開けて、ふたりでクリスマスケーキを食べようとして箱からケーキを出した、そのとき。 に頼まれて、俺が買ってきたクリスマスケーキがどうやらが頼んだモノを違っていたらしく、 「ちょっと、昌行、これ私が頼んだものと違うよ」 「え?でも、お前こないだそれって言ったじゃねぇかよ」 「違うよ。私はもうひとつのほうのケーキのことを言ったの!」 「知らねぇよ!俺、普段ケーキなんか食わねぇんだからさ。んなことわかんねぇよ! 文句言うんだったら、最初から自分で買ってくればよかったじゃねぇかよ!」 「しょうがないでしょ!?今日は、ぎりぎりの時間だったんだから!だから、昌行に頼んだのに!」 久しぶりにふたりっきりになれたっていうのに、俺たちはケンカを始めてしまった。 に言い返した俺もまだまだ大人げないけど、彼女のほうも同じくらい大人げないよな。 窓から空を見上げれば、澄み切った夜空に都会の星がいくつか輝いていた。 だけど、気温はやっぱり低くて、マンションの下を通りゆく人たちは、皆寒そうに首をつぼめている。 今日は、雪でも舞い降りてくるのかとさえ思う寒さだった。 だけど、勢いよく飛び出したは、コートを着るのも忘れて飛び出していった。 「ったく、しょうがねぇなぁ」 もう少しでふたりっきりの夜を過ごせたというのに。 ふたりして、今夜をあんなに楽しみにしてたのに。 コートを差し出して、に素直に謝ろう。 俺は、マフラーとジャケットを羽織って、彼女を迎えに部屋を出た。 「ちきしょう!のヤツ、どこ行ったんだよ!」 俺は、を見つけだせずにいた。 もうすでに1時間もさまよい歩いている。 恋人たちが腕を組んで俺とすれ違うたび、をすぐ見つけられない自分に腹が立った。 がよく立ち寄るコンビニ、よく行く飲み屋、よく立ち読みする本屋……。 心当たりは全部探したのに、どこを探してもを見つけ出すことはできなかった。 もはや、俺は自分が芸能人だということも忘れていた。 「はぁー…」 溜息を吐きながら、公園のベンチに腰掛けた、ちょうどそのとき、公園の時計が午前0時を知らせる音を響かせた。 そして、次の瞬間、公園全体がイルミネーションに包まれる。 あっ、そういえば、こないだが、ここの公園は、クリスマスイブからクリスマスに日付が変わった10分だけ、 公園全部の木にイルミネーションが点くって言ってたっけ。 だけど、その前に早くを見つけないと、きっと風邪をひかせてしまう。 そのとき、俺はふと自分のポケットの中にあったケータイの存在に気がついた。 「あっ!ケータイがあったじゃねぇかよ!なんですぐ気がつかねぇんだよ、俺……」 さらに自分に腹が立ちながらも、俺はすぐにのケータイに電話をした。 思い出してみれば、ケンカをする前に、が自分のポケットにケータイを入れていたのを見ていた。 もしかしたら、はケータイを持ったまま、飛び出していったのかもしれない。 それを願いつつ、俺はケータイを耳にあてる。 すると……。 ♪〜 微かにケータイの着信メロディの音が聞こえた。 これは、が俺専用にって設定してある音楽……。 俺は、音のするほうへ走っていった。 「……」 「昌行……」 俺がさっき座ったベンチからさほど離れていない場所に、 は、俺の着信メロディが鳴っているケータイを握りしめて立っていた。 「ごめん、……」 「もういいよ……。私も悪かったし。せっかくのクリスマスイブなのに、私のほうこそごめんね……」 のうしろで、木々のイルミネーションがキレイに光って、の笑顔がとても映えていた。 「ホラ」 俺は、持ってきたコートをに着せた。 「ありがと」 俺を見て、が微笑んだ。 「でも、実はねー…ちょっぴりわざとだったんだ〜」 「え?」 「怒って出ていったこと。昌行が迎えにきてくれることもわかってたよ。 でも、まさかこんなに待たされるとは思ってなかったけど」 「お、お前な〜!俺がどんなに心配したか!」 俺はやっぱりは、大人げないと思った。 まるで子供のように笑って俺を見ている。 「はぁ〜、疲れた!誰かさんのせいで無駄な体力を使わされたからな〜」 俺は、心からホッとして、地面に座り込んだ。 すると、が俺の目の前にしゃがみ込んできて……。 「ねぇ、あたしに……キスしたい?」 突然、こんなことを言い出した。 「はっ?お前、何、急にエリエルのセリフ言ってんだよ!」 「いいでしょ、別に!“ねぇ、あたしにキスしたい?”」 「“いつかね!”」 「“いつかってどういう意味〜!?”」 「お前、いい加減にしろって〜」 俺たちは、真夜中の公園の中で笑い合った。 ケーキを囲んでのふたりっきりのクリスマスイブは、台無しになっちゃったけど、 たまには、思い切って、外でこんなふうに過ごすのもいいんじゃないかって思った。 俺のそばでも笑っている。 ふと時計を見ると、時刻は、AM12:09を指していた。 もうすぐでこの公園のイルミネーションが消える。 消える直前を狙って、俺はにキスをした。 は、目を丸くして驚いている。 そんなを笑って、俺は、 「“いつか”がもう来たから」 って言った。 もう少しで届きそうだったふたりっきりの時間に、ようやく今、手が届いた。 部屋に帰ったら、あのケーキをふたりで食べよう。 今日は、俺もがんばって食べるからさ。 最後の言い訳っ。 エリエルのセリフを使いたかったんだけど、ちと無理矢理だったな〜(笑)。 しかも、「一日遅れのハッピーバースデー」と展開が似ているっ! どうもすいませんー。 なので、あたしは、日曜日にいつも祈りを捧げようと思います(笑)。 2002.12.18
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