やらずの雨


やらずの雨……帰ろうとする客を帰らせないかのように、降ってくる雨のこと。


 「
 「何?」
 「ううん、何でもない」

私に名前を呼ばれて、笑顔で振り返る
大好きな彼の笑顔がすぐ隣にある、このなんとも言えない幸せを、私は改めて噛みしめる。

 「なんだよ!?」
 「何でもないってば!」
 「なんだよ〜!?」

私が意味もなくの名前を呼んだなんて、彼はそんなことはお見通しで、
がふざけて、私の腕を掴む。

 「ちょっと離してよ〜」
 「ほら、言ってごらん?」

ニコニコ円満の笑みのは、男らしい強い力で私の腕を掴んだまま、離さない。

 「離せ〜!」
 「……離さない」

その瞬間、の目が真剣になったと思いきや、は私に顔を近づけてきて、キスをしてきた。
一瞬のことで、驚いたけど、私はに身を委ねて目を閉じた。
そして、私は、ずっとこのまま快彦を一緒にいたい……なんて、考えてた。
だけど……。
唇が離れたとき、はちらっと時計を見た。

 「あっ、もうこんな時間かよ」

の言葉に、私も時計を見ると、時刻はすでに日付が変わり、深夜12時を回っていた。

 「ごめん、俺、明日仕事で早いんだ。悪いけど、俺、帰るわ」
 「そう。わかった」

夢から一気に覚めた気分だった。
キスの間中、ずっと掴んでいたの腕を放したくなかった。
のオフが今日一日しかないって、
そんなことは、最初からわかっていたけど、
楽しい時間は、経つのが早いわけで。
今日は、朝からずっと一緒にいたのに、
別れの時間は、あっという間にきてしまった。

 『ずっと一緒にいたい……』

そう心に願ってたけど、そんな願いが叶うはずがないことも、わかってる。
私は、玄関まで行き、とりあえず笑顔でを見送った。

 「それじゃ。また電話する」

笑顔でがそう言う。

 『帰らないで……』

私、素直じゃないから、思いは伝えられない。

 「うん。私もメールするね」

精一杯の笑顔を作って、私は言葉を発した。
が帰ろうと、扉を開けたそのとき、
今まで機嫌の良かった空が、かなりの勢いで泣き始めた。

 「あ、雨……」

私たちの声も聞こえないほどの大ぶりな雨だった。

 「どうしよう、俺、傘なんて持ってきてねぇよ」
 「傘、貸そうか?」
 「でも、お前持ってるの女モノだろ?俺が持つにはちょっと恥ずかしいって」
 「じゃあ、どうするの?」

私の問いかけに、は、私の目を見つめてきて……。

 「今日は、泊まってこうかな」

は、ニヤッと笑った。
私は、思わず顔が赤くなりそうなのを必死に押さえて、

 「で、でも、明日仕事どうするの?」
 「ここから行けばいい」

は、一度履いた靴をまた脱いで、部屋に上がろうとしていた。

 「それに、聞こえたもん」
 「……何が?」
 「お前が“俺とずっと一緒にいたい”って、心に思ったこと」

は部屋の中から、玄関に取り残された私のほうに振り返り、そう言った。


やらずの雨……帰ろうとする客を帰らせないかのように、降ってくる雨のこと。


私の願いは、どうやら天に通じちゃったみたい。

−−−END−−−

最後の言い訳っ。

ある日の新聞に、この言葉が載っていて、あっこれ使える!と思って書いてみたおはなし。
バカップルぷり発揮です(笑)。
でも、なかなかいいでしょ。ウフv(笑)。
てゆうか、いのの場合、天に願いが通じたとか言う前に、
単にそれはいのが雨男だったってだけの話かもしれないけどね(笑)。
2002.12.7


B a c k  H o m e