WISHES
〜Another Kind of Story〜


 「……」

穂乃香は、あゆみのアパートの前で迷っていた。
覚悟を決めて家を出てきたはずなのに…。
近所の人たちは、さっきから動こうとしない穂乃香のことを変な目で見て通り過ぎていく。

 『…やっぱり、やめよう!チャンスはまたいくらだってあるし…』

と、穂乃香が引き返そうとした時、あゆみが中から出てきた。

 「あれっ?穂乃香ちゃん!?どうしたの!?」
 「あ〜…。こ、こんちわっ。でも、なんでもないの。ごめんねっ!じゃっ!」
 「ちょっと待って!もしかして、あのこと相談しにきたんじゃないの!?」

暦はもうすでに2月に入っていた。
2月のイベントといえば、そう。
バレンタインデー。
その日があともう少しでやってこようとしてるのだ。
穂乃香には、片想いの人がいた。
その相手にチョコレートをあげて告白をしようかどうか、迷っていたのである。

 「とりあえず、中に入ってよ!」
 「え?今から出掛けるんじゃなかったの?」
 「ううん。夕飯の買い物しようと思ってただけだから、平気。さっ、どうぞ」


穂乃香は、あゆみの家の中に入っても、うつむき加減で全くしゃべろうとしない。
あゆみが紅茶を入れて持ってきた。

 「私の家まで来たってことは、チョコあげる覚悟してたんじゃないの?」

紅茶をテーブルの上に置きながら、あゆみは言った。

 「そうなんだけど…。いざあゆみちんの家の前まで来たら、また迷ってきちゃって…」
 「穂乃香ちゃんてば、普段はしっかりしてるくせに、こういう方面は、全然ダメなんだなぁ。
  いつもなら、私が穂乃香ちゃんに相談してばっかなのにね」

あゆみはそう言って、ふっと笑った。
穂乃香には、そのあゆみの姿がとても幸せそうに見えた。
と、同時に羨ましく思えた。

 「そりゃ、あゆみちんには、もう3年もつき合ってるいのがいるんだもん。
  私は…ホントにどうしよう……」
 「絶対、渡すべきだって!まあくんだって、穂乃香ちゃんの告白を待ってると思うよ〜」

穂乃香の片想いの相手の名前は、坂本昌行。
もう随分前から友だちとして付き合ってきた。
そして、穂乃香が坂本に恋愛感情を持ち始めてからも、随分と時は経っていた。

 「あっ、ねぇ!これからチョコ作るの練習しよっ!」
 「でも…」
 「でもじゃないっ!ほらっ!」

と言って、あゆみが穂乃香の背中をポンと叩いた。
何故か、穂乃香はそれで勇気づけられたような気がした。

 「穂乃香ちゃん、後悔は辛いんだからね」

あゆみが穂乃香を覗き込むように言う。

 『よしっ!ダメで元々。当たって砕けろだっ!』

穂乃香はようやく決心をした。

 「まずは、材料を買いに行こうか」

2人は、外に出掛けていった。


歩きながら、穂乃香はあゆみに尋ねてみる。

 「ねぇ、あゆみちんはいのに手作りチョコあげないの?」
 「う〜ん…去年も一昨年も市販のチョコだったからなぁ。
  今年も買おうかと思ってた」
 「いのはそれで何も言わないの?」
 「え?別に、何にも。もし言ってきたら、自分にリボン結ぶよ」
 「ホント、マイペースだなぁ」

穂乃香は、3年前からこの2人のノロケ話を聞かされてきた。
思えば、その度に悔しい思いをしてたっけ。

 「あっ、コレなんてよくない!?」

あゆみが本屋の前で叫んだ。
今の時期、街中がバレンタイン一色だ。
本屋にも手作りチョコの特集が組まれていた。
あゆみは、その中の一つを手に取り、穂乃香に差し出した。
“彼に送る手作りチョコ☆”と書かれたその雑誌は、
穂乃香がいつも立ち読みする雑誌だった。
実は、作るならコレ!と決めたチョコがあったりする。

 「よしっ。これにしよう!」

あゆみはその雑誌を持って、レジに行ってしまった。
なんだかあゆみは自分のことのように張り切っている。
穂乃香はなんとなくテンションがついていかなかった。
どうしても、自信が持てない……。


日も傾き始め、残りのチョコの材料も買い揃えて、2人は、あゆみのアパートへ帰った。
そして、2人は時間が経つのも忘れ、熱心にチョコを作った。
坂本へ穂乃香の想いが届きますように、と…。

2人が時計を見た時は、すでに日付が変わろうとしていた。

 「えっ!?もうこんな時間!?」
 「ごめんっ!あゆみちんっ!こんな時間まで一緒に作ってもらっちゃって…」
 「そんなの、全然気にしないで。
  それより…がんばってまあくんに想いを伝えるんだよ。祈ってるから…!」
 「ありがとう…」
 

そして、2月14日。
とうとうきてしまった、この日が…。
穂乃香は緊張して、一睡もできなかった。
坂本には、今日一日家にいるようにあゆみが言ってある。
ただ、穂乃香がひとりで行くとは、知らせてなかった。

 『私がいきなりひとりで訪ねて行ったら、昌はどんな顔するだろうか…?』

穂乃香は、1回大きく深呼吸をして家を出た。


ピンポーン…

坂本の家に来るのは、これが初めてではなかった。
今までにもあゆみたちと一緒に来たことはある。
ただ、穂乃香ひとりで来るのは初めてだった。

 「はーい」

中からいつも聞き慣れた坂本の声が聞こえた。
もう一回深呼吸。

 「はーい。あれっ?穂乃香ひとり?」
 「あっ、う、ううん。あゆみちんといのは後から来るからっ」
 「そう」

そんなのは、もちろん嘘だった。
向こうは向こうで2人で逢っているはずなのだから。

 「お邪魔します…」

見慣れているはずの坂本の部屋が、いつもとは全く違う部屋に見える。
そしてここにいる自分もいつもと違う。

 「あの…!」
 「ん?」

坂本が笑顔で返事をした。

 「あ、あの…やっぱりいいです…」
 「はははっ。変な穂乃香!あ、変なのはいつもか!」

坂本が笑った。
その時、穂乃香は、無意識のうちに自分が口を動かしていたことに気が付いた。

 「あのっ!ごめんなさいっ!今日、あゆみちんといのも来るっていうのは嘘なのっ!」
 「はっ?」
 「あの…私が…私が頼んだの!」
 「……」
 「昌にどうしても言いたいことがあって…。
  それと、コレっ!チョコレートなんだけど…。受け取ってくださいっ!」
 「……ごめん」
 「え…?」

坂本が謝った。
穂乃香は、その瞬間、フラれたと思った。

 「…そっか。わかった。ごめんねっ!私、帰るね!」

穂乃香は、坂本に背を向けた。
すると、坂本が、

 「違うんだ!実は俺、甘いの苦手だから…。
  だから、チョコは食べられないけど、穂乃香のことは……俺は、大好きだ!!」

穂乃香は、坂本のその言葉を背中で受け止めた。
涙が溢れてくる。
坂本は、そっと穂乃香を後ろから抱きしめた。

 「いつからだろうなぁ。お前を友だちとして見なくなったのって」

穂乃香は、涙で声も出ない。

 「…ごめんな。チョコ、せっかく作ってくれたのに…」

黙って首を振る穂乃香。

 「穂乃香のチョコ、食べられない代わりに、穂乃香を食べちゃおうかな♪」
 「ばっ、ばっかじゃないの!?」

自然に2人の唇が触れ合う。

 「なぁ…。さっき、お前が言ってた、俺に言いたいことって何?」

坂本が穂乃香の目を見つめて聞いた。

 「……昌に、先に言われちゃったよ…。『私は、昌のことが大好きです』」


2月14日。
ついに穂乃香の想いは、坂本に届いた。
穂乃香が嬉しさと恥ずかしさで、坂本に背を向けて寝ている時、
坂本は、どうやら井ノ原に電話をかけているようだった。
穂乃香には、何を話しているのか聞こえなかったが、
いつもは落ち着いている坂本が、
少しばかり子供に戻ったような話し方をしていたような気がした。
穂乃香は、思わずふっと笑った。
そんな穂乃香に、電話を終えた坂本が気付き、

 「何、笑ってんだよ〜」
 「別にぃ。
  そういえばさ、こないだあゆみちんがね、自分のあげたチョコに、いのが不満だったら、
  自分にリボン結べばいいなんて言ってたけど、どうだったのかなぁ?」
 「マジで!?井ノ原と飲んだ時、あいつもそんなこと、ぼそっと漏らしてたよ」
 「やっぱ、2人考えること一緒なんだね」

2人は笑い合った。
穂乃香は、とても幸せだった。
坂本も同じ想いでいた。

そして、坂本と穂乃香は、ベッドの中で手を握り合った。
“この幸せが永遠に続きますように”と願うように……。

−−−END−−−

Dear...Honoka.

あゆみちん的コメント。

穂乃香ちゃんがあたしに書いてくれた「3年目の浮気!?」と繋がるように、
無理矢理(!?)書いてみました(笑)。
てゆうか、さぶいぼ立つぜ(笑)。
自分で書いておきながら。しかも穂乃香ちゃんにプレゼントしておきながら。
穂乃香ちゃんゴメンよぉー(^^;)

自分、なんだかイイ親友になってるよ(笑)。
しかも、ちゃっかりノロケてるし(爆)。

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