夢から覚めるとき
「あっ、もうこんな時間!ヤバイ、終電が行っちゃう!」
昌行との楽しい一時もあっという間。
やっと逢えたわずかな時間も、
現実に戻らなくてはいけないタイムリミットが近づいていた。
「じゃ、昌行、私帰るね!今日はありがとう」
床に腰を下ろしていた昌行に、私がそう言い残し、帰ろうと立ち上がろうとすると、
突然、ぐいっと引き戻され、ふと目を落とすと、
そこには、私の腕を引っぱる昌行の手があった。
「、帰るなよ」
昌行が一言そう言った。
最近はさらに、昌行の仕事が忙しくなって、
私たちは、満足できるほど、ふたりの時間が持てなくて。
やっと逢えた今日だって、私は本当は自分の部屋へと帰りたくはなかったけど、
日々仕事に追われている昌行のことを考えると、
ここは我慢しなくちゃって思ってた。
『帰るなよ』
さっきの昌行の言葉が私の頭の中で繰り返し流れている。
昌行のあの一言が、私はすごく嬉しかった。
シャワーを浴びながら、さっきのその言葉を吐いた昌行の顔を思い出して、思わずひとりでニヤつきながら、
私はお風呂場を出た。
「昌行〜、お風呂出たよ〜。……あれ?」
私がお風呂に入る前は、リビングのソファーに座っていたはずの昌行の姿がそこにはなかった。
キッチンかな?と思って、キッチンへ行ってみても、やっぱり昌行はいない。
「もしかして……」
そう思って、私が向かった先は、寝室。
そーっと寝室のドアを開けてみると、
案の定、ベッドに倒れ込んで、すでに熟睡している昌行がいた。
「んも〜。寝ちゃったの〜?」
昌行の側に行って、昌行の寝顔を覗き込む。
なんかもう、私の存在なんてすっかり忘れているようなそんな寝顔。
「帰るなって言ったの、誰よ」
私は、ひとりごとのように呟き、昌行の頬をつねってみた。
「ん…ん……」
一瞬、起きたかと思ったけど、
昌行は寝返りを打って、私のほうへと背中を向けてしまった。
「コンサートがんばってるもんね」
私もなんだか、まぁ、いいかっていう気持ちになって、
昌行の横へと寝転がった。
昌行が帰るななんて言ってくれて、昌行の部屋に泊まるってことは、
私もちょっと期待してたりなんかして。
でも、昌行の寝顔を見ちゃったら、何にも言えなくなってしまった。
そして、ふと横を見ると昌行の大きな背中。
私の大好きな大きな背中。
昔、昌行と恋人同士になる前は、私は、この背中をずっと追いかけてきた。
ずっと見つめてきた。
それがすぐ目の前にある。
私は、急に幸せを実感した。
普段、全然逢えなくても構わない。
昌行のこの背中がすぐ目の前にあるのなら。
私は、昌行の背中に寄り添って目を閉じた。
「あったかい……」
私がそう呟くと、昌行の背中が動いた。
「ん…あ、…。ごめん、俺、寝ちゃってた…?」
「昌行、疲れてるんでしょ?いいよ、寝てて」
「もう俺も年かな、体が全然言うこと聞いてくれねぇよ」
「あははは」
「おい、こら、、笑うんじゃねぇよ」
そう言いながらも、昌行は、体勢を整えて、私の頭の後ろへと腕を回し、
肩を引き寄せてくれた。
「ねぇ、昌行、腕枕なんてしたら、明日筋肉痛になっちゃうよ」
「平気、平気」
昌行は、そう言って鼻歌を歌い始めた。
耳をすまして聴いてみると、その歌はトニセンのDahliaだった。
“それでも君がいる いつでも君がいる
愛しているよ Thank you my girl”
すぐ隣にある昌行の温もりと昌行の鼻歌に、
私は、涙で目の前の昌行がかすんだ。
「昌行……」
私が涙声で昌行の名を呼ぶと、
昌行は、優しいキスをひとつ、してくれた。
私は、私の肩に回してくれた昌行の手を握り、
そして、昌行の鼻歌と共に、幸せな眠りについた。
夢から覚めるとき。
私と昌行は、また離ればなれの日常になって、しばらく逢えなくなる。
だけど、いつまでも私の手を離さないでね、昌行……。
−−−E N D−−−
最後の言い訳っ。
きゃ〜、まぁくぅん〜って感じですな(笑)。
ごめんね、あたしまーくんの背中好きなのよ(笑)。
いのの「おやすみ」とほぼ同時に思い浮かびました。
だけど、書いた時期が違うから、文章の感じが違うでしょ?(笑)
なんか、あたしの今の心境はとっても切ないらしいよ…(笑)。
2003.6.8