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私の先生
「あっ、卵の殻が入った!」 「マジで!?あ〜あ、これ、殻入りすぎだよ!もういいよ、は、サラダの野菜切ってて」 「うん。……痛ーいっ!指切ったぁー!」 「マジで!?ホラ、水で洗って!お前は、もういいよ。向こうで休んでろよ」 「はい……」 さっきから、何を慌ただしく騒いでいるのかといいますと……。 今日、私は、珍しく丸一日オフがもらえたという昌行の部屋に遊びにきた。 それで、今夜の夕食をふたりで作ろうってことになって、 昌行と一緒に作り始めたんだけど……。 私ってば、この料理というものが大の苦手でして……。 昌行と一緒に作ってるんじゃなくて、なんだか昌行の余計な仕事を増やしてるみたい。 私は、おとなしくイスに腰を掛けた。 だけど、実は、ちょっとだけわざとだったりする。 ホントは、殻を入れずに、卵は割れる。 私がわざとそんなことをする理由は……。 それは、料理している昌行の後ろ姿を見たかったから。 以前、私が風邪を引いて、寝込んでいたときのこと。 熱で動けない私の為に、昌行が私の部屋に来てくれて、おかゆを作ってくれた。 私の部屋は狭いから、ベッドに寝ていても、キッチンへ立つ昌行の姿が見える。 そのとき、私は、昌行のその後ろ姿に、見とれていた。 なぜだかは、わからない。 だけど、私は、それからそんなチャンスを密かに窺っていたのだ。 「、向こうに行って、テレビでも見ててもいいぞ」 背後から私の気配が消えないと感じたのか、昌行は、顔だけ振り返って、そう言った。 「ここにいちゃダメ?」 私のそんな言葉に、昌行は“好きにしろよ”って、笑って答えた。 なぜかたったそれだけのことで、 そのときの昌行の笑顔だけで、 私は、涙がこみ上げてきた。 涙で視界が遮られて、昌行が遠くなってしまっている。 私は、必死で涙を奥へ押し込んで、料理をしている昌行の後ろ姿を追った。 自分でもなんだか変だなって、そう思った。 しばらくして、テーブルに並んだ今日の夕食は、昌行特製のオムライス。 半熟の卵がふわふわで、とてもおいしそうだった。 「うわ〜!おいしそ〜!ホント、昌行って料理の腕いいよね!」 「んなことは、食ってから言えよ」 「はいはい、いただきます!」 さっそく私は、昌行の作ったオムライスを食べ始める。 「どうだ、うまいか?」 「おいしい!」 「だろ?」 私の笑顔を確認した昌行は、得意気な笑みを浮かべてる。 「って、普段はしっかりしてるのに、料理だけはダメなんだもんなぁ〜」 「完璧な人間なんて、この世にはいないもん」 「でも、、卵のひとつくらい割れないと、これから先困るぞ?」 「これから先って?」 スプーンを頬張ったまま、私が聞く。 すると、昌行は、私の顔を覗き込むように、 「俺たちの未来……とか」 昌行の思いも寄らないそんな言葉に、私はむせる。 「ちょ、ちょっと、急に何言い出すの!?」 「ってば、動揺してるよ」 昌行がケラケラ笑う。 まったく……。 昌行って、すごく落ち着いて大人だなぁって思うときもあるし、 今みたいに、まるで子供のように笑うときもある。 でも、そこが私の好きなところのひとつなんだけどね。 「だからさぁ、俺がの料理の先生になってやるよ」 「昌行がぁ?」 「なんだよ、不満なのかよ」 「…別に」 ただ、私がキッチンに立っちゃったら、もう昌行の背中が見られないかなぁ、なんて思ったりして……。 「授業料取るからな」 「え〜?彼女からお金取るの!?」 「金じゃねぇもん」 昌行がそう言って、テーブルに肘をつき、なんだかイヤらしい目で私の顔をじっと見てくる。 なんとなくイヤな予感……。 「やっぱりいい!断る!」 「あ、お前、今なんか変なこと考えただろ?」 さらに、昌行がニヤつく。 「考えてない!ホントにいいってば!」 「遠慮すんなよ」 「もうしつこいよ!私は、昌行と一緒にキッチンに並びたくないの!」 思わず口から出てしまった言葉に、あとから後悔してももう遅い。 今までずっとニコニコしていた昌行の顔が一瞬にして、曇ってしまった。 「……わかったよ」 「……ご、ごめん、違うの!私の言い方が間違ってた」 私の必死な弁解に驚いた昌行が顔を上げる。 「さっきの昌行がオムライスを作ってる背中が好きだったから……。 キッチンに立つ昌行の背中が好きだったから……。 だから、昌行が私と一緒にキッチンに立っちゃったら、昌行の後ろ姿が見られないと思って……」 私は、昌行の顔を見ることが出来ずに、俯いて、言葉を発する。 そんなとき、腕を掴まれ、不意に唇を寄せられた味は、微かな卵とトマトケチャップの味がした。 「昌行……」 「の言葉、素直に嬉しい」 間近で見つめられて、昌行がそう言ってくれた。 数日後。 「どう?」 不安げな顔で、私は昌行の顔を覗き込む。 「まずっ……」 昌行の手助けなしで、私が作ったみそ汁を口に含んだ瞬間、昌行はそう言った。 「え〜!?ホントに!?」 「お前、これダシ入れた?」 「え?入れてない」 「はぁー」 昌行が持っていた味見用の小皿を受け取り、私も自分で味見をする。 「……いつもの味だよ」 「これが!?お前、いつもこんなまずいみそ汁飲んでんのかよ!?いいか?みそ汁ってのは、みその他にもダシを入れんだよ!」 「え!?そうなの!?」 「“そうなの!?”って、今まで知らなかったの!?」 「うん」 「マジかよ」 そう言って、昌行は、私のことを本当に呆れた顔で見ている。 私は、何も言い返せなくて、口惜しかったけど、 昌行のそんな顔を目の前に、私はこういうしかなかった。 「みそ汁の作り方教えてください……」 「よしっ」 昌行は深く頷いて、腕まくりをする。 そして……。 「それじゃ、今夜、から授業料を貰い受けるからな」 子供みたいな笑顔で、昌行が私の耳元で、そう言った。 最後の言い訳っ。 結局、何が言いたかったのか、この話は!(笑) 甘々系なのか、せつない乙女心系なのか、一体どっちだよ?(笑) ゴメンナサイ。あたしがわからない(笑) てゆうか、みそ汁の話は、実話です、これ(笑) みそ汁にダシを入れるってこと、あたし、ここ2,3年くらい前に知りました(笑) 1回それをお母さんに言ったことがあったんだけど、 「このみそは、ダシ入りだからいいの」と軽く返されたよ(笑) そんなんでいいのか、母よ……(笑) 2003.1.14
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