歩いて帰ろう


人通りのない道を選んで歩く。
それは、彼の職業柄、仕方のないこと。
私たちは、それを承知でつき合い始めたのだから。



今日もふたりで食事をしたあと、酔い覚ましにと、夜の街をふたりで歩いていた。
昌行の芸能人という職業上、私たちは肩を並べて歩くことが精一杯だった。
でも、私にはどうしてもやりたいことがある。
それは……。

 “ふたりで手をつないで歩くこと”

今まで、手をつないで歩いたことなんて一度もない。
通り過ぎるカップルが手をつないでいるのを見ては、羨ましく思ってきた。
少し前を歩く昌行の手を見つめて歩いていると、振り返った昌行が、私に話しかけてきた。

「どうした?」
「え?」
「何か一点見つめちゃって」
「ううん、別に…」
「変なの」

そう言って、彼が微笑む。
昌行のことを思うと、やっぱり口には出せなかった……。



「お前、なんか悩んでるだろ?」
「…え?」

数日後、私の部屋に来ていた昌行が、私の顔を覗き込んできて、そう言った。

「なんで?そんなことないよ?」
「そうか?お前、こないだっからずっと一点見つめてっけど…」
「…そう?」
「疲れてるとか?」
「ううん」
「…仕事がうまくいってないとか?」
「順調」
「あとはー…。あっ!わかった!太ったとか!」
「何それ〜!?太ってなんかいません〜!」

私がムキになって返してくることをお見通しでそんなことを言って、昌行は大声で笑ってた。

「んもう……」

私は、ケラケラ笑ってる昌行を見つめてみる。

 “手をつないで歩きたい”

そんなことを言ったら、昌行に子供みたいって思われると思ったし、
それに……世間の人の目が気になる。
やっぱり口にできないと思った。

「なんか悩んでることあったら、言えよ?」

今まで笑ってたと思った昌行は、突然立ちあがり、私の頭をポンッと軽く叩いた。
そのとき、私の心臓がドキッと正直に反応する。

「今日の晩ご飯、カレーとシチューどっちがいい?」

キッチンに向かって歩いていく昌行の声だけが、私の元へ届く。

「ありがとう……」

私は、昌行の質問の答えになっていない言葉を昌行に向かって呟いた。



そのまた数日後。
仕事が終わって、外へ出ると、タイミングよく昌行から電話があった。

「もしもし」
『もしもし、?俺。今、どこ?』
「ちょうど会社出たとこ」
『おっ!ちょうどよかった!俺、今さぁ、その近くにいるんだよね。 俺もちょうど今、仕事終わったから、飯でも食べに行こうぜ』
「あ、うん…」
『すぐそっち行くから、そこでちょっと待ってて!』

昌行の電話は、そこで切れた。

「ご飯食べに行くって、もしかして歩いていくのかな……」

しばらくすると、うしろから誰かが私の肩に手を乗せてきた。
振り返ると、やっぱり昌行だった。

「お待たせ」
「お疲れ様。この近くで仕事だったの?」
「ちょうどこの近くでロケやってたんだ」

サングラスをかけた昌行が微笑んだ。

「さ、行こうか」

そう言って、昌行は歩き出す。

「ちょ、ちょっと、歩いていくの?」
「そうだよ。だってこの近くだから。長野に教えてもらったんだ、うまい店」

昌行はご機嫌だった。
私はというと、ちょっとご機嫌斜め…。
昌行とデートは嬉しいけど、街中をふたりで歩くと手をつなぎたくなるから……。
通り過ぎるカップルが手をつないでるのを見て、羨ましくなるから……。
私は、昌行の少しうしろを歩いた。



「どう?うまかっただろ?」
「うん、おいしかった」
「長野にお礼言っとくか」
「そうだね、宜しく言っておいてね」
「わかった」

昌行と私は、店を後にした。
そして、昌行は大通りへ出て、タクシーを止めるのかと思いきや、

「少し歩こうか」

そう言って、歩き始めた。

「え?ちょっと待ってよ」

今日は、いつもと違って、お酒も入っていなかったから、昌行はタクシーで帰るのかと思ったのに。
突然、大通りへ出て歩き始めた。
そんな昌行を妙に思いながら、あとからついていくと、いきなり昌行が足を止めた。

「うわ!何!?なんで急に止まるの!?」

そして、昌行は私のほうへ振り返った。


「…な、何?」
「はい」

すると、昌行は私に手を差しのばした。
突然のことで、私が驚いていると、さらに昌行は……。

、俺と手をつないで歩きたかったんだろ?」
「…え?」
「お前、最近ずっと俺の手見つめてる」
「…気づいてたの?」
「あぁ。だってお前わかりやすいんだもん」
「でもっ……だからって私が昌行と手をつないで歩きたいってこと……どうしてわかったの?」
「年の功かな?」

昌行は、そう言って笑って、私の手を取って歩き始めた。

「でも、大丈夫なの?」
「何が?」
「何がって……昌行、一応アイドルでしょ?こんなとこ、人に見られたらヤバくない?」
「オイ、一応ってなんだよ!?だーいじょぶだって! 俺、普段ひとりで歩いてても、気づかれることないし、 それに逆に人の多い大通りのほうが気づかれにくいってもんなんだって。 だからさ、今日は、これで部屋まで帰ろうぜ」

ニヤッと、私の顔を見て、昌行が笑う。
初めてつないだ昌行の手は、大きくて温かかった。
いくつも年下の私のことは、昌行はなんでもお見通しで、やっぱりかなわない。
昌行とのこの幸せを手放さないように、私はしっかりと昌行の手を握りしめて歩いた。

 “今度のデートの帰りも、ふたりで歩いて帰ろう”

私、またワガママになりそうだよ。

−−−END−−−

最後の言い訳っ。

プロモを見ていて、まーくんの手って大きそうだなぁと思って浮かんだこのおはなし。
(単にまーくんの顔が小さいからそう見えるだけなのかもしれないけど)
まーくん、大人だねぇ。
某日夏コンで「うんこ」発言した同一人物だとは思えないねぇ(笑)。
ちなみに。
なぜカレーとシチューなのかと言いますと…こないだあたしがどっちを作ろうかで、さんざん悩んだから。
ただそれだけです(笑)。
2002.11.24
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