sulky a man


「健くん、できたよ」
「はーい」

今日は、健くんと久しぶりにゆっくりできそうな夜。
私たちはこれから私の部屋で夕ご飯を食べようとしていた。

、ご飯作るのうまくなったでしょ?」
「え?そうかな。でも、食べる前なのにわかるの?」
「匂いがヤバイもん」

ヤバイ……健くん語で『おいしい』っていう意味。
しょっちゅう会うことができなくて、
そういうこと、テレビから学んでるっていうのがなんだか淋しかったりもするけど。
でも、やっぱり健くんの笑顔を目の前にすると、そんなのどうでもよくなってしまうんだよね。

「「いただきます」」

一生懸命作った料理と、目の前に健くんがいる幸せを、私はゆっくりと噛みしめた。
ふたりの箸も順調に進み、ご飯も半分に減った頃、
突然、私の携帯電話が着信音を上げた。

「誰だろう?」

私は、テーブルに箸を置き、携帯電話を見てみると、誰だかわからない電話番号。
おそるおそる出てみると、電話の相手は、中学校のときの同級生だった。

「久しぶりー!!どうしたの、急に!?」

私は、懐かしさから夕飯の途中だったことを忘れ、
さらに、健くんが隣にいることさえ忘れて、話に夢中になってしまった。
料理の並んだテーブルを離れ、ソファーに移動して話し始めた私に、
健くんが怪訝そうな表情を浮かべていることに、はっと気が付く。

「ご飯冷めちゃうよ」

健くんが呟いた。

「ごめん、先に食べてて」

私は、顔の前に手を当て、声を出さずに呟く。
そんな私に健くんは、ぷっと頬をふくらませ、箸を手に持った。
健くんと久しぶりにゆっくりと過ごせそうな夜に、
電話をかけてきた友達に、『なんでこんな時に限ってかけてくるんだよ!』と思いつつも、
電話をなかなか切ることができなかった自分にも苛ついた。
何度も、眉間にしわを寄せている健くんと目があった。



「うん、それじゃ、またね!今度遊ぼうね!」

電話をし始めてから数十分が経った頃、ようやく私は友達との電話を切った。

「あれ、そういえば、健くん静かになったな……」

そう思って、健くんのほうへ振り返ると、
健くんの前のテーブルには、口の開いているお酒が転がっていた。

「えっ、もしかして健くんお酒飲んじゃったの!?」
「うん、飲んだよ」
「だって、健くんお酒飲めないって……」

そう、それもテレビから学んだこと。

「そんなことないもん。俺だってお酒飲めるよ」

口ではそんなこと言っているけど、目はうつろ。
ろれつだってうまく回っていない。
これは誰が見たって、酔っているとしか思えない。

「も〜!飲めないのに、なんで飲むの!?」
「…だって、がなかなか電話切ってくれないから、俺ひとりで淋しかったんだもん」

そう言って、健くんはガバッと私に抱きついてきた。
なんだかいつもの健くんとは少し違う口調。
あ、そういえば、健くんはお酒が入ると甘えん坊になるって、
他のメンバーから言われてたっけ……。

「ごめん、健くん」

健くんから匂うお酒のにおいで、私はひどく後悔した。
でも、後悔しても過ぎてしまった時間はどうにもならない。
お酒を飲んでしまった健くんを責めても仕方がない。
もともと私が悪いんだから。

「俺、帰る!」

突然、健くんがそう言った。

「えっ、帰るの?」
「帰るよ、だって明日も俺仕事だもーん」

健くんやっぱり怒ってるのかな……?
私は胸が痛かった。

「そう……」

なんとなく引き止めることもできなくて、私は俯いていた。

「靴下が履けなーい!ー!」

すると、ガクッと来るような健くんの甘えた声がした。
いつの間にやら脱いだ靴下をひとりで履こうとしているのだが、
靴下を持ち構えている場所が、足とは全然あさっての方向なのだ。

「んもー!しょうがないなぁ」

自分が悪いとわかっていながらも、甘えてくる健くんがとてもかわいくて、
思わず笑ってしまう。
私に靴下を履かせてもらった健くんが玄関へ向かおうとして、
椅子から腰を上げたそのとき、お酒の酔いから健くんの体が大きくフラついた。

「わっ、ちょっと健くん!大丈夫!?」
「眠くなっちゃったぁ…」
「えぇっ!?」

やっぱり甘えモードの健くんは、自分で帰ると言いながら眠いと言い出した。
でも、確かにこんな状態の健くんをひとりで帰すのもちょっと不安。
私は、健くんの体を支えながら、

「健くん、今日は私の部屋に泊まっていったほうがいいんじゃない?」
「うん、泊まるー!」

そう言って、健くんはまた私に抱きついてきた。
私は別に下心があって、そう言ったわけではないけど、
それに健くんがこんな状態じゃ、一緒に一夜を過ごすって言ったって何もないだろう。
私が健くんをベッドまで連れていくと、健くんはドサッと倒れ込み、
かわいい寝息を立てながら、早々と眠ってしまった。

「健くん、かわいい」

私は、ベッドの元へ座り、健くんの寝顔を見つめた。
無邪気に眠る健くんの寝顔を見て、思わず顔が綻ぶ。

「健くん、今日はごめんね。やっぱり怒ってるよね?」

すでに夢の中にいる健くんに向かって、私はひとりごとのように呟いた。
当然、健くんから返事が返ってくるわけがなく……。
しばらくの沈黙が続く。

「あっ、そうだ!食器片付けなくちゃ」

夕飯の片付けをそのままにしていたことを思い出し、健くんの前を離れようとしたとき、
私の腕が健くんに引き止められた。

、行かないで」

突然の健くんの声に驚いて振り返ると、薄目を開けて私を見ている健くんと目が合った。
やっぱり甘えモードのかわいい健くんだった。

「うん、わかった」

健くんがそう言ってくれて、嬉しくなった私は、再びベッドのすぐ脇へと腰を下ろす。
私の手を握って離さない健くんの態度が一層私を後悔させる。
それほどまで甘える健くんにさせてしまったのか、
さっきの私は無神経過ぎたよね。

「ごめんね、健くん……」

そうして、私もいつの間にか健くんの隣で眠ってしまった。
手を握り合ったまま……。



、俺は怒ってなんかいないよ」

健くんが微笑みながらそう言った。
それは、ふと夜中に目が覚めたときに言われたのか、それとも夢の中で言われたのか、
どちらとも記憶が定かではない。
ただひとつ確実に言えることは、
朝が来て目が覚めたときも、ずっと健くんが私の手を握っていてくれたということ。
拗ねた健くんがお酒を飲んで、こんなにかわいい一面を見せてくれるなら、
たまにはわざと拗ねてもらってもいいじゃないかって、そんなふうに思った。



「頭痛ーい!ー!薬ちょうだーい!」
「はいはい…」

そして、明くる朝、そんな健くんの叫びが私を再び微笑ませたことは、言うまでもない。



―――E N D―――

最後の言い訳っ。

うしし。お酒が入ると甘えん坊になってしまうという健ちゃん。かーわーいーいー!(笑)
一緒にお酒飲んでみたいな。
どんな感じになるのかくわしくわからなかったから、そのへんが難しかったんだけど(汗)。
ちなみに、靴下が履けないー!事件は、本当のことらしいよ(笑)。
夏コンかなんかで、メンバーに暴露されていた。
2003.11.8


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