君を想う
『言えないよ
好きだなんて
誰よりも君が近すぎて……』
ふと街でこんな歌を耳にした。
それは、まさに俺の状況を表しているかのような歌だった。
俺の男友達の紹介で、俺とは出会った。
意気投合した俺たちは、すぐに仲良くなった。
メールも、電話も、悩み事の相談も、しょっちゅうしてた。
そして、俺がに恋愛感情を抱くまで、そう時間は、かからなかった……。
だけど、は……。
『健くんって、いい友だちだよね』
俺にそんなことを言った。
は、俺の気持ちなんて気づいてはいない。
俺の中では、男女の友だち関係なんてあり得ない。
俺の気持ちを伝えたい……。
そう思ったけれど、俺の気持ちを伝えたら、は俺から離れていくじゃないかって、
そんな気がした。
そう考えたら、俺の気持ちは伝えないほうがいいじゃないかって。
が俺の前からいなくなるほうが辛いと思ったから。
今日もは、俺の前でくったくのない笑顔を振りまいている。
突然、オフの俺のケータイが鳴った。
からだった。
「もしもし」
『あ、もしもし。健くん?ねぇ、今日確かオフだったよね?健くん家に遊びにいってもいいかな?』
「え?別にいいけど……」
「あ、ホント?よかったぁ。じゃ、もうちょっとで着くから!」
しばらくして、俺の家のインターフォンが鳴った。
ドアを開ければ、笑顔のが立っていた。
「ごめんね、急に」
「お前、自分の家出てから電話してきただろ?」
「あ、わかっちゃった?」
「お前ん家から俺ん家に着くまで、時間が早すぎるもん」
「いいじゃん。どうせ暇だったんでしょ?」
「暇じゃねぇよ」
「はいはい」
そう言って、は、自分の家のように、部屋の奥へ入っていった。
何度か、は俺の部屋に来たことがあった。
そのときもふたりっきりだった。
俺がどれだけ自分の気持ちを抑えてたかなんて、は知る由もない。
「あ、健くん、今度ドラマやるの?」
リビングのテーブルの上に置いてあった台本を手に取って、が声を上げた。
「そうだよ、だから暇じゃねぇって言ったじゃん」
「そっか。ごめん、ごめん」
「てゆうか、お前、何しにきたの?こないだもウチ来たじゃん」
「なんかさ、健くんの部屋って居心地いいんだよね」
が笑って、そんな無邪気なことを言った。
さらに、俺のへの想いはつのる。
「紅茶でいい?」
「うん」
俺は、キッチンへ紅茶を入れに向かう。
は、少し離れた場所にいる俺へと話しかけてきた。
「ねぇ、健くーん。こないださ、健くんに相談に乗ってもらった、友だちとケンカしたって話。
健くんが言ってくれた通り、仲直りできたよ」
「あ、マジで!?」
「うん、ありがとね」
「いや、別に…」
俺がそう言いかけたとき、俺が最もの口からは聞きたくない言葉が出てきた。
「健くんて、やっぱり私の一番の友だちだね」
のその言葉を聞いた瞬間、
気がつけば、俺は、入れかけの紅茶も放っておいたまま、
に側に歩み寄り、に唇を寄せていた。
は、目を丸くして驚いている。
すると、は、次の瞬間、俺の頬を叩いた。
「な、何するの……!?」
「ごめん……。俺、ずっとのこと好きだった……。
お前は、俺のこと友だちとしか見てくれてなかったから、言えなかった……。
だけど、俺……」
「大切な友だちだと思ってたのに……」
は、目に涙を溜めて、俺の部屋から出ていってしまった。
「……」
やっぱり俺の前から、はいなくなってしまった……。
あれから、数日後。
俺は、何度もに電話したり、メールをしていた。
だけど、その度に、電話に出なかったり、無視されたり……。
と連絡が取れない日々が続いた。
「はぁー…」
「どうしたんだよ、健。元気ねぇじゃん」
溜息をついた俺のうしろから井ノ原くんが話しかけてきた。
「ちょっとね」
「んだよ、俺に話してくれないの〜?つれないよ〜、健ちゃ〜ん」
「うるせぇよ!ほっといてくれよ!」
「お前、言っちゃったんだろ?」
俺が井ノ原くんに怒鳴ったとき、
今度は、ソファーで雑誌を読んでいた剛が話に入ってきた。
「「え?」」
思わず、俺と井ノ原くんの声が揃う。
「だから、言わなきゃいいのに」
「剛、なんでお前知ってんの?」
「何年お前とやってきたと思ってんだよ」
「剛……」
「あの〜、話が見えないんすけど〜」
井ノ原くんが首を傾げている。
すると、剛が、
「この人にも話してやれよ。この人もこないだ元女友達って人とくっついたから」
「え!?そうなの?井ノ原くん」
「剛ちゃんは、何でも知ってるね〜」
「うるせぇよ!さっさと話せよ!」
「はい…」
井ノ原くんが最近浮かれていたのは、そういうことだったんだ。
俺は、続けて井ノ原くんに話しかけた。
「ねぇ、剛が言ってたことってホントなの?」
「あぁ、ホント」
「どうやってくっついたの?その元女友達って人と」
「向こうから相談があるからって呼び出しくらって、ふたりで飲みに行って、
んで、そのあと俺の部屋に呼んで……」
「やっちゃったの!?」
「違ぇーよ!好きだったってちゃんと言ったの!」
「でも、その人、その夜はどうせ井ノ原くん家泊まってったんでしょ?」
「そうだけどー!って、俺のことはいいんだよ!健、お前は何悩んでんだよ!俺、話がわかんねぇよ!」
「………」
俺は、黙り込んでしまった。
「黙ってたら、こっちも相談ののりようがないんすけど?」
「…男と女って難しい関係だね」
「え?」
「気の合う女の子がいたんだ。俺はその子のこと好きだったんだけど……」
「向こうは、健のことを友だちとしか思ってなかった、と」
「そう…」
「あ〜、俺と一緒!俺もそうだった」
「そうなの!?井ノ原くんも!?」
「そう。しかも俺は、ずっとその彼女の恋の相談に乗ってたワケよ」
「うっわ〜。それってめちゃめちゃ辛くない?」
「辛いよ。辛いってもんじゃなかったね」
「それで?」
「要は、タイミングだな」
そのとき、俺と井ノ原くんの会話をずっと耳だけで聞いていた剛が、
また話に入ってきた。
「うん、だな」
剛の言葉に、井ノ原くんも頷く。
「タイミング?」
「そう。お前は、タイミングが悪かったんだよ」
剛の言葉に、俺も納得できる気がした。
そのとき、俺は、ふと大切なことを思い出した。
「あ……」
「「何?」」
「明日、の誕生日だ……」
「あら、健ちゃん。グッドタイミングじゃな〜い」
「そうだよ、健。その日が勝負だな」
「そっか…。ふたりともありがとうね」
「「明日事後報告と、今度メシおごれよ」」
そう言って、ふたりがニヤついた。
日付の変わる頃、ちょうど仕事が終わり、俺は、の部屋へと急いだ。
俺だって、何度かの部屋へ上がったことがあるから、
の住んでいるところは、知っていた。
息を切らして、が住んでいるアパートの前に到着した。
時計を見ると、午後11時55分−。
の誕生日へと日付が変わる瞬間まで、あと5分しかない。
俺は、急いでメールの文章を作った。
そして、午前0時0分になった瞬間、
俺は、俺の精一杯の気持ちを込めたメールをへと飛ばした。
もしかしたら、またいつものように、無視されるかもしれない。
そんな不安もあったけど……。
大切なのは、タイミング……。
俺は、今このときしかないと思ったから。
電気の点いているの部屋を見つめながら、
俺は、の反応を待ち続けた。
『へ
誕生日おめでとう。
あのときの、突然の俺の行動に、は、驚いたと思うけど、
あれは、決して中途半端な気持ちなんかじゃないから。
俺を友だちとしか見てくれないに、俺の気持ちをわかってもらいたかったから。
あの日のキスのことは、俺は謝らない。
謝ったら、嘘になるから。
俺は、今、の部屋の前にいる。
俺は、はっきりの返事が聞きたい……。 健』
俺は、はっきり言って、の返事が怖かった。
すぐに俺の気持ちを伝えられなかったのは、
が俺の前からいなくなるのが怖かったから。
だったら、友だちとしてつき合っていたほうがいいと思ったから。
だけど、それは違う。
好きだったら、好きだってこと、ちゃんと伝えなきゃいけないと思った。
友だちのままでいたら、のことが好きじゃないってことになると思った。
俺は、のことが本気で好きだから……。
だからこそ、の返事が怖かったけど、気持ちを伝えたことに、後悔はしない。
そう、心に決めて、俺は、からの返事を待った。
メールを送ってから、しばらく経ったけれど、からの返事は、なかった。
またいつものように無視されちゃったかな…。
そう思って、もう一度、の部屋を見上げたとき、
カーテンの隙間からが俺を見下ろしていたことに気がついた。
それを見た瞬間、俺は、の部屋のドアの前へと走り出していた。
そして、急いでインターフォンを押す。
今日は、いつも以上に、との距離が遠く感じる。
目の前にあるドアさえも、分厚い壁のように感じた。
しばらくして、部屋の中にいたが、
俺たちの目の前にそびえ立つこの分厚いドアを静かに開けた。
「……」
何日かぶりに見るの顔。
たった数日のことだったけど、電話もメールのやりとりもしていない、この数日は、
俺にとって、何ヶ月も経ったかのように、長く思えた。
その久しぶりに見たの顔は、目が腫れていて、
のそんな顔、俺は今まで一度も見たことがなかった。
そんな顔に、俺がさせたんだと思うと、胸が痛かった。
「健くん……」
は、何も言わなかったけど、のその目が俺への気持ちを伝えてた気がして、
俺は、優しくを抱きしめた。
「ごめん、健くん。私、自分に嘘ついてた……。ホントは、私も健くんのこと好きだったの。
だけど、私のこの気持ちを健くんに伝えたら、今の楽しい関係が壊れちゃうんじゃないかって、
そんな気がして……。私の前から、健くんがいなくなっちゃうような気がしたから……」
次第に、は涙声になっていった。
「俺も……。と同じこと思ってたんだ。
俺も、がいなくなることのほうがもっと辛かったから、ずっと黙ってた。
だけど、それは間違いだったって気がついたよ。そのまま友だちとしていることを望んだら、
俺は、のことを本気で好きじゃないってことになるって……」
「健くん……」
「俺は、のことホントに好きだから」
「ありがとう……。私は間違ってたんだね。
私も健くんのことが好きだったら、ちゃんと気持ち伝えなきゃいけなかったんだね」
がそう言った。
「俺たちなら、大丈夫だよ。これからも楽しくやっていけるよ」
「そうだね…。ありがとう、健くん。生まれてから一番最高の誕生日だよ……」
それは、俺にとっても最高の日になった。
俺は、さらにを優しく抱きしめた。
それから、数日後。
俺は、しっかりと剛と井ノ原くんに、焼肉をおごらされたのは、言うまでもない。
−−−E N D−−−
最後の言い訳っ。
ラブセンのカミ様の恋力のはしのえみゲストのときの話を参考にさせていただきました(笑)。
「男女の友だち関係は、成立するか?」でいろいろ対立してましたが。
健ちゃんは、成立しないって言ってたんで、その通りにしてみた★
そして、お気づきかと思いますが、
途中のいのの話は、このDreamerの中にある「オトコトモダチ」と話つなげてみたの(笑)。
なんかそういうのって楽しいよね(笑)。
2003.3.23
B a c k
H o m e