if...(Yoshihiko Inohara)


もしも、アナタが芸能人で、井ノ原快彦が一般人だったら……。
今夜一夜限りの夢を見ましょう。


* * * * * * * * * * *


「お疲れさまでした〜」

今日の仕事が終わった。
スタジオの時計を見ると、すでに午後11時を回っている。

「さぁ、、帰ろう」

マネージャーの坂本さんが、私を促して、スタジオを後にした。

「あ〜、今日も撮り押しちゃったなぁ〜」

車を運転しながら、坂本さんがバックミラー越しに、
後部座席に座っていた私に話しかけてきた。

「そうですね〜」
「今日、井ノ原くんと約束があったんじゃねぇの?」
「えぇ、まぁ。でも、わかってくれてますから、私の仕事」
「そっか。いい人と巡り会えたんだな」
「いや〜、そんなことないですよ。
私との約束がなくなったから、向こうもきっと友だちと飲みに行ってますよ」

そんな会話を交わしているうちに、私が住んでいるマンションに到着した。

「そんじゃ、明日も朝迎えに来るから」
「はい、おやすみなさい」

坂本さんの車を見送ったあと、マンションの入り口へ足を踏み入れた瞬間、
私に向かって、何かが光った。

「えっ?」

私は、立ち止まって、辺りを見回したけれど、特に何も変わったところはなく……。

「気のせいかな……」

そのときは、特に気にも留めず、その場を去った。
だけど、次の日も次の日も、仕事から帰ってきて、マンションの中へ入ろうとすると、
必ず何かが光るのだ。
私は、その光が一体何なのか、気になり始めて、
私のオフに、私の部屋に来ていた快彦に、聞いてみた。

「快彦」
「んー?」
「こないだからね、私が仕事から帰ってきて、このマンションに入ろうとすると、
何かが光るんだけど、それって何かなぁ?」
「光?」
「そう」
「カメラのフラッシュかなんかじゃねぇの?」
「あ、フラッシュかぁ」

ソファーに座っていた快彦に、私はコーヒーを差し出す。

「もしかして、フライデーとかだったりして〜」
「えぇ〜?だって、私ひとりだよ?快彦と一緒のときならまだしも…」
「あぁ、そうだよな」
「それが何日も続いたりするから、最近ちょっと不気味でさ…」

私も快彦の隣へと腰を下ろす。

「そのこと、坂本さんに話したか?」
「ううん、まだ」
「今度、話したほうがいいぞ。坂本さんに、部屋のドアの前まで送ってもらえよ」
「うん、わかった。明日にでも話してみる」

ふと気が付くと、快彦の腕が私の肩へと回っていた。

「ちょっと快彦、何、この手は」
「いいじゃん。のしばらくぶりのオフなんだからさ、たまには。
かっこいい恋人といちゃいちゃしてもいいんじゃない?」

快彦がニヤリと笑った。

「かっこいい恋人がどこにいるのー?」

私は、快彦も相変わらずだなぁとばかりに、呆れて快彦の顔を見上げる。

「快彦、髪伸びたね」
「そう?」
「よく昔から髪伸びるが早い人ってなんとかって言うよね」
「さぁ〜?なんでしょうね〜?」

そう言って、快彦は、私の体を抱き寄せた。

結局、私の久しぶりのオフを丸々一緒に過ごした快彦は、
翌朝、私の部屋から仕事へ出かけて行った。



!そんな大事なこと、なんでもっと早く言わねぇーんだよ」

翌日、快彦に言われた通り、マネージャーの坂本さんに、
数日前から起こっている不可解な出来事を話してみた。

「だって〜」
「だってじゃない!質の悪いファンかもしれねぇじゃねーか!」
「ゴメンナサイ…」
「よし、わかった。今日から、俺がの部屋の前まで送ってやるから。
今度からそういうことがあったら、井ノ原くんだけじゃなくて、俺にもちゃんと言えよ!」
「はい…」

しっかりバレてる。
私が快彦に言われて、坂本さんに報告したこと。
でも、とにかく今日からは、坂本さんが私の部屋の前までついてきてくれるんだから、
もう不気味がることもないよね。
とりあえず、私は、ホッとした。



あれから、坂本さんに部屋の前まで送ってもらうようになってから、
今まで起こっていたことがぴたりとなくなった。
だけど、私も快彦も、マネージャーの坂本さんも安心しきっていた頃に、
再び事件は、起きた。

いつものように、仕事から帰ってきて、お風呂へ入ろうとしたとき、
ふと、私は誰かの視線を感じた。
私は、辺りを見回すが、部屋の中には私ひとりしかいない。
快彦だって、今夜は、友だちと飲み会だって言ってた。
だから、部屋の中には誰もいるはずがない。
だけど、どこからか感じる誰かからの視線。
私は、不気味なその視線の気配を感じ、玄関へと目を向けた瞬間、
ドアの新聞受けの隙間から、こちらを覗いていた誰かと目が合った。
その“目”と目が合った瞬間、私はあまりの恐怖に、悲鳴をあげることもできず、
急いで携帯電話を手に取り、快彦の電話を呼び出していた。

『もしもし?おー、、どしたぁ?』

すっかりできあがっている様子の快彦が電話に出た。

「よ、快彦…!こ、怖い…!」
『ちょ、!?一体どうしたんだよ!?』
「誰かが……誰かが、ドアの新聞受けの隙間から、部屋の中を覗いてたの!」
『えっ!?そいつ、どーした!?』
「わかんない……」
『と、とにかく今からお前ん家行くから、は部屋の奥でじっとしてろ!』

快彦が急いで電話を切ってしまった。
私は、あまりの突然の出来事で、全身がとにかく震えてしまっている。
リビングへ座り込んでしまったまま、快彦が来るのを待っていた。

どうやら、快彦が私からの電話を受けたとき、快彦は、この近くで飲んでいたらしく、
数分で私の部屋へ来てくれた。
快彦は、一応、インターフォンを鳴らしたが、 私が出られないということがわかっていて、
持っていた合い鍵で部屋の中へ入ってきた。

っ!」
「快彦〜!」

快彦の顔を見た瞬間、私は快彦に抱きついていた。
快彦は、私を落ち着かせようと、背中をさすってくれている。

「快彦……ドアの外に誰もいなかった?」
「俺が来たときにはもう誰もいなかったけど……もしかしたら、この近くにまだいるかもしれねぇ!
は、部屋の中で待ってろ!」

快彦は、ひとりで外へ行こうとしたけれど、私は快彦のそばを離れたくなかったから、

「えっ!?快彦、私も行く!」
「何言ってんだ、お前のストーカーなんだぞ!?が行ったら、危ねぇーじゃねぇかよ!」
「やだ!ひとりでここに残ってるほうが怖い!」
「ったく、しょうがねぇなぁ。坂本さんに電話しろよ」

快彦は、私の手を握ってマンションの外へ出た。
私は、早足で快彦についていきながら、坂本さんへ電話をした。

「坂本さん、何だって?」
「すぐ来てくれるって」
「そうか」

坂本さんが来るまでの間だけってことで、ふたりでマンションの周りを捜索していたとき、
私が通るといつもカメラのフラッシュが光ったあの場所の近くの茂みから、ガサッと音がした。

「快彦、今あそこで誰かが動いたよ」
「あぁ、ん家覗いてたの、あいつかもしれねぇなぁ」

そう言って、ふたりでその場所へと一歩ずつ近づいていったとき、
茂みの中に隠れていたひとりの男が飛び出し、逃げようとした。
快彦は瞬時に反応して、逃げた男を追いかける。
私もおそるおそるふたりのあとを追いかけた。
すると、逃げた男は、マンションの駐車場に逃げ込み、そこで男は、快彦に捕まった。

「お前だろ?ん家覗いてたってヤツは!?」
「何のことだよ、知らねぇよ、俺は」
「嘘つけ!なんだ、これは」

快彦が男の胸にぶら下がっていたカメラを手に取った。

「そっ、それは…」
「これで、が帰ってきたときも、マンションの入り口で写真撮ってたんだろ!?」

快彦は、男に向かって、怒鳴り散らして、捕まえていた男の手を締め上げる。

「そ、そうだよ!俺だよ!さんが帰ってくるのをずっとあの入り口で待ってて、
さんの私服姿を写真に撮ろうと思って……」
「ドアの新聞受けの隙間から覗いてたのも、お前だな!?」
「マネージャーがずっと付き添うようになって、写真が撮れなくなったから……」
「お前、のファンか?」
「そうだよ、さんがデビューしたときから、ずっと見てたんだ」
「本当のファンだったら、そういうことしちゃいけねぇんだよ!」
「何なんだよ、お前、さっきから!って呼び捨てにしやがって!」
「俺?井ノ原快彦。のかっこいい恋人」
「ちょっと、快彦!?」

今まで怖い顔つきだった快彦が、急に笑顔になったと思ったら、
そんなこと言い始めるなんて……。

「くそ〜!週刊誌にお前らのことバラすぞ!」
「どうぞ〜。俺らは、事務所公認ですから」

と、そのとき、一台の車が駐車場に滑り込んできて、
中から坂本さんが顔を出した。

、大丈夫か!?」
「坂本さん!うん、私は大丈夫」

私の無事を確認すると、坂本さんは視線を男の方へと向けた。

「こいつか、のストーカーは」
「どうしますか、坂本さん。こいつ、警察に突き出しますか?」
「そうだな」

快彦と坂本さんのふたりの会話に、私は急いで間に入り、

「ちょっと待って!何も警察は…」
「何、言ってんだよ!お前は、部屋をのぞき見されたんだぞ!」

私の言葉に、坂本さんが言葉を返す。

「でも、裸見られたわけじゃないし…」
「当たり前だ!の裸見てたんなら、こいつはこの程度なんかじゃすまねぇよ!」

快彦がさらに男の腕を締め上げる。

「わかった。がそう言うなら、今回はそうしよう」
「坂本さん…」
「でも、今度こんなことやってるのを見つけたら、そのときは、警察だからな」

坂本さんは、鋭く男を睨んだ。
そして、男は、呟くように謝り、帰っていった。

「井ノ原くん、ありがとう」
「いやいや、俺は何も」
「君がの恋人でよかったよ。今日のことは、俺から事務所の社長に伝えておくから。
それじゃ、俺はこれで帰るよ」

坂本さんは、そう言い残して帰っていった。

「快彦……」
「ん?」
「ありがとう……」

私は、素直に嬉しくて、快彦の腕に自分の腕を絡ませ、快彦の肩へともたれかかった。

「かっこよかったよ」
「ん」

この前、坂本さんに言われた通り、私はいい人と巡り会えたんだなって、
心からそう思った。

「んじゃ、部屋戻ろうか」
「え?快彦、帰らなくてもいいの?」
「何言ってんだよ、ほっといて帰れるわけねーじゃん」
「快彦…」
「さっ、行くぞ」

ありがとう、快彦。
私は、快彦という人に巡り会えて本当に幸せです。

その夜、私は、温かい快彦の腕の中で眠った。



数日後。
私と快彦は、なぜか事務所の社長に呼び出された。
呼び出されたその理由とは……。

こないだストーカー男に、快彦が私の恋人だと言ってしまったことを、
あの男は、週刊誌にバラし、その記事が週刊誌に載ってしまったのだった。
社長室には坂本さんもいて、快彦を鋭く睨み、

「前言撤回」

一言そう言った。

「あの男……次見つけたら、タダじゃおかねぇ…!」

社長と坂本さんに怒られた快彦は、そのあとそんなことを呟いていた。


−−−E N D−−−

最後の言い訳っ。

トニコン前で、妄想が妄想を呼んだようなお話になってしまった(笑)。
ま、イメージは章吉っつぁんとゆうことで(笑)。
ちなみに、話の中で出てきた、ストーカーがドアの新聞受けの隙間から覗いてたっていうのは、
元おニャン子の渡辺美奈代が本当に体験したというお話です。
某番組で話していたのをまんま拝借しちゃいました〜(笑)。
2003.4.13


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