if...


もしもアナタが芸能人で、森田剛が一般人だったら……。



「コレ、次の台本?」

私の部屋に来ていた剛が、テーブルの上に置いてあったドラマの台本を手にとって、そう言った。

「うん、そう」

剛は、目線を台本に向けたまま、私の返事を受け取ると、パラパラと台本を捲っていた。
私は、剛のその姿を見とどけ、キッチンへ向かう。
冷蔵庫からミネラルウォーターを出して立ち上がると、
背後に剛の気配を感じた。

「わっ!ビックリした!何?剛もなんか飲む?」
「……何、コレ」
「え?」
、今度、キスシーンあんの?」
「あー…、なんかそうみたい」

忘れてた。
そういえば、今度、キスシーンがありますって言われてたんだ。
剛に言いにくいなぁと思ってたんだけど……。

私はそう言って、少し苦笑いしてみせるけど、
剛は、明らかに不機嫌な顔してる。
キッチンの入り口に寄りかかってる剛の隣をすり抜けて、
私は、リビングへ向かう。
すると、剛は、私の背中に向かって、さらにそのことを追求してきた。

「なぁ、相手誰なんだよ」
「あー、えーと……岡田准一さん……」

なんとなく剛と目が合わせられなくて、剛と視線を合わせずに、私はソファーに腰を下ろした。

「あぁ、あいつか……」

剛は、そのときちょうどつけていたテレビに現れた、岡田さんに目をやり、そう呟く。
岡田さんは、最近、人気が急上昇してきた俳優さん。
女性にもとても人気があって、剛がおもしろく思わないのもわかる気がした。

「そのシーン、辞めさせてもらえないのかよ」
「えー!?そんなの無理だよ」
「フリとか……」
「できない!」

剛ってば、ヤキモチ妬いてくれてるのかな?
普段、言葉数が多い方じゃないから、そんな剛が嬉しかったりする。

「剛、これは、仕事だよ?本気でするわけないじゃない」
「んなことわかってっけどさぁ」
「なら、いいじゃん」
「でも、やっぱり俺としては、おもしろくねぇよ……」

そう言って、下に俯く剛がとてもかわいかった。

「なんだかそんなこと言うなんて剛らしくないね」
「うるせーよ!とにかく、本気でするんじゃねーぞ!」
「わかってるよ。私には剛だけだもん」

剛は、ソファーに腰を下ろした私の隣に座りながら、顔を赤くして、私の顔をチラッと見た。
私は、そんな剛に微笑み、剛に体を委ねた。
そして、剛もゆっくりと私の肩に手を回し、優しく引き寄せてくれた。


それから、数日後。
とうとう問題のシーンを撮影する日がやってきてしまった。
剛は、わかってるとか言いながらも、それからなんだか不機嫌だった。
でも私は、そんな剛が嬉しくて、移動中の車の中で窓の外を見ながら、思わず口元がゆるんでしまう。

「何かおもしろいことでもあったの?」

運転席から、バックミラー越しに、マネージャーの長野さんがひとり怪しく笑っている私に話しかけてきた。

「いえ、別に、何も」
、ひとりで笑うなんて、怪しいよ。剛くんとなんかいいことでもあったんでしょ?」
「え?やだぁ、長野さんてば、するどいなぁ」

兄貴的存在の長野さんは、剛のことも知っている。
でもまさかあんなことがあったとはなんとなく言えなくて、何があったかは内緒にした。
長野さんは、それ以上話を追求してくることはなくて、
私の話す言葉に対して、優しく微笑んで聞いてくれていた。
そんな間にも車は、今日のロケ現場に到着した。

「着いたよ」

問題のシーンの撮影場所は、東京タワー前の芝公園。
夜の闇に照らし出されたイルミネーションをバックに、私と岡田さんがキスをするというシーン。
東京タワーも見事にライトアップされて、ロマンチックなムード満点だった。

「キレー…」

私は、目の前に広がったその光りを見つめた。
もちろん、剛とは、こんなところでデートもしたこともない。
よりによって、なんでキスシーンなんだろう…。
こんなの、仕事だって割り切っているつもりなんだけど、
剛の拗ねてるあんな姿見ちゃうと、嬉しい反面、なんとなく、ね…。

「岡田さん、入りまーす!」

スタッフのその声に、私はハッと我に返る。
岡田さんは、私を見て微笑みながら、

「よろしくお願いします」

と言った。
よろしくと言われても…。

「こちらこそ」

私もなんとなくそう返してしまった。
そのとき、こないだから機嫌の悪い剛の顔がふと頭を過ぎった。
剛にはこの収録が今日だということは話していない。
もちろん、どこで撮影するのかも。
剛、今ごろ何してるのかな…。
そんなことをぼんやりと考えていた。

「リハーサル入りまーす!」

現場のスタッフから声がかかる。
東京タワーをバックに、私の恋人役の岡田さんが私に向かって台詞を言い、
それに対して、私が思わず涙を流してしまい、それを岡田さんが拭いながら、キスをするというシーン。

「カメリハ5秒前!4、3、2、1…」

『俺、素直じゃないから、ずっと言えなくて、不安にさせてたけど、俺はお前のこと好きだから。
これからもずっと好きだから…』
『私も…』

「はい、カット!」

なんだか、この岡田さんの台詞、剛のことみたい…。
いつも剛とふたりでいることが当たり前のようになっていて、
剛からそんな言葉を言ってもらったこともなかった。
喧嘩をしたときだって、お互い素直になれなくて、次の日には無言で仲直りしてた。
それがなんとなく不安に思えたときもあった。

「剛…」
「どうしたの?大丈夫?」

ぼーっと考え事をしていた私を心配してくれた長野さんが話しかけてきてくれた。

「あ、すいません、大丈夫です」

ダメだ、今は仕事中なんだから、剛のことは今は忘れよう。
気持ちを引き締め、私は本番に挑んだ。

「本番5秒前!4、3、2、1…………カット!OKでーす!お疲れさまでしたー!」

どうやら一発OKのようだ。
OKの声にホッとし、ふとロケの周りに集まっていた人たちのほうへ目を向けると、
その人達のかたまりから少し離れてこちらを見ている剛の姿を発見した。

「ご、剛!?」
「何か?」
「あ、いえ…」

まだ側にいた岡田さんに、思わず発してしまったひとりごとを聞かれてしまった。
なんで剛がここにいるの?
それに、今日がこのシーンの撮影だってことも、場所もここだってことも、
剛にはひとことも言わなかったのに…。
今日の撮影はこれで終わりだから、スタッフはみんな撤収に入っている。
私は長野さんに近寄り、小さな声で話しかけた。

「今日ってこれで終わりなんですよね?あの、これから、ちょっといいですか?」

そう言いながら、私は視線を剛へと向ける。
すると、長野さんは私が目を向けた方向に、剛を見つけ、

「あぁ、いいよ。気をつけて帰ってね」

そう言ってくれた。
剛は相変わらず離れたところから私を見ていた。
私は、スタッフや周りに人がいなくなるまで、長野さんの車の中にいさせてもらい、
誰もいなくなったとき、車を降りた。

「剛、なんでここにいるの?私が今日ここにいるってこと、知ってたの?」

そう言いながら、私は剛に走り寄っていった。

「………」

けれど、剛は何も答えない。
少しだけ眉間にしわを寄せて、何か切なげな表情をしている。

「剛…?」
『俺……素直じゃないから、ずっと言えなくて、不安にさせてたけど、俺はお前のこと好きだから。
これからもずっと好きだから……』

これって…。
私がさっき岡田さんに言われていた台詞…。
私がさっきこの台詞が剛のことみたいって思った台詞…。
もしかして、剛も私が不安に思っていたこと、気がついていたのかな。
剛も私のことを不安にさせてるって、思っていたのかな。
そう思ったら、自然を涙が溢れてきた。
剛は私のその涙を、ドラマと同じように拭い、
ドラマを同じようなキスをしてくれた。

「剛…」

涙を流す私の顔を見て、剛は優しく微笑んだ。
と、思いきや、ニヤッと笑い、

「よし、これであいつの後味は消してやった」

と言った。

「な、何言ってるの?」

剛のその言葉に、私も思わず笑ってしまった。

「あいつの言葉を借りちゃったのが、シャクだけどな」

そう言って、剛は夜空を見上げた。

「俺がずっと気にかかってたこと、やっとに伝えられた…」
「剛…」

もう一度、私の顔を見て、剛は優しく微笑んだ。

「ありがとう、私も剛のこと好きだよ」

私の剛に対する想いをめいっぱい込めて、
今は女優としてではなく、ひとりの女として、剛の彼女として、想いを伝えた。
ドラマはたった3ヶ月で終わってしまうけれど、
私たちがドラマと違うのは、これからもずっと続いていくってこと。
これからもずっと好きだよ、剛…。

私たちは、光り輝く東京タワーの前で誓い合った。



−−−E N D−−−

最後の言い訳っ。

岡田さん映画「東京タワー」公開記念!
ってもこの話ではオカダは脇役なんだけどね(笑)。
かなり前に考えていたこのお話が偶然にも東京タワーだったので、完成させてみた。
今回のポイントは、いつもあたしたちがメンバーに対して思う辛さを逆に味あわせてやりました(笑)。
まぁ、実際はこんなことないと思うんですけどね。
2005.1.16


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