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たまには、の誕生日
今日は、10月9日。 博の31歳の誕生日だ。 私たちは、いつも通りに夜会う約束をして、博の案内する店へ外食の予定だった。 でも、今夜だけは、違う。 私は、博を驚かそうとこっそりと自分で店を予約しておいたのだ。 もちろん、博は、何も知らない。 ちょっとしたサプライズってところかな。 約束の時間。 博が車で私の元へとやってきた。 「お待たせ」 運転席から顔を覗かせた博は、今日もあいかわらず優しい笑顔を振りまいている。 「博、お誕生日おめでとう」 博と顔を合わせてひとこと目、私がそう言うと、 博は、笑顔で無くなった目をさらに細めて、 「ありがと」 と言った。 私は、助手席へ体を滑り込ませる。 「さて、今日はどこへ行く?」 博が私を見て、やっぱり笑顔でそう言った。 「ねぇ、博。今日は、私が案内する」 「え?」 「今日は、私が車を運転して、博をおいしい店へ案内してあげる。 友だちから聞いたお店なんだけど、博も知らないところだと思うよ」 「ほんとに?が?」 「そう、今日くらいいいでしょ?」 突然、そんなことを言い出した私に、博は目をまん丸くさせて驚いていた。 「でも、大丈夫?」 「何が?」 「なんだかいろいろと漠然と不安なんだけど…」 「大丈夫だって!私にまかせて!ほら、博は助手席に来て」 私は、助手席を降りて、運転席にいる博を引っ張り出した。 博は、なんだか不安げな表情だけど、いつも連れていってもらっているし、 たまには、私が連れていってあげなきゃ。 私は、アクセル全開で、予約した店へと車を走らせた。 「あれ〜?おかしいな〜?この辺りだと思ったんだけど……」 車を走らせてどれくらい経っただろうか。 もうとっくに予約した店へと到着してもいいはずなのに、全然着かない。 すでに一時間以上は、同じ場所を行ったり来たりを繰り返していた。 ちらっと横を見ると、博は、やっぱり不安げな表情を浮かべて、私を見ている。 「ちょっと、大丈夫?」 「……道に迷っちゃったかな?」 「かな?じゃないよ、完璧迷ってるでしょ!」 「ごめんなさい…」 「はぁ…」 博が大きな溜息をついた。 「店、何時に予約したの?」 「え……8時」 「8時って、今もう7時55分じゃん」 「だから、焦ってるの!」 私は、博の顔も見ず、必死にあたりの標識を見て、店を探していた。 「予約したときは、電話でしたの?」 「うん」 「そのお店へもう一回電話して、店の場所を聞けば?」 「あ……!」 「何?」 「家の電話の脇に、電話番号書いたメモ置いてきちゃった……」 博の不安は、見事に的中。 どこまで自分がおっちょこちょいなら気が済むのか。 博の誕生日だというのに、こんな失態をやらかしてしまって、 私は、すでに泣きたくなっていた。 車の時計は、午後8時ちょうどを指していた。 「、おいしいね」 博が笑顔で私に向かってそんなことを言う。 今の時刻は、午後10時。 やっと夕食にありつけたかと思えば、今、私たちが食べているのは、ハンバーガー。 結局、私が予約した店は見つからず、テイクアウトしたハンバーガーを外で食べているのだ。 手元にあるハンバーガーを見るたび、私は自己嫌悪に陥っていた。 「、気にすんなって」 「だって、今日博の誕生日だよ!?なんでこんな大切な日に、私ってばヤラかしちゃうんだろう」 「いいじゃん、たまには、こういうのも」 「でも…」 「でも、じゃない。ほら、向こう見てみなよ」 博が顔を向けた先には、目の前にキレイな夜景が広がっていた。 おまけに、今夜は満月が明るく光り輝いている。 博は、夜景を全部見渡せる端のてすりのところまで歩いていって、 私のほうへ笑顔で振り返った。 「こんな絶景な場所で、誕生日を過ごしてるなんてステキじゃない?」 「博……」 「それに、が俺のために店を予約して、車を運転してくれただけですごく嬉しいし」 少しだけ寒い秋の風が博の笑顔をさらに穏やかに見せてくれた。 どんなに私がおっちょこちょいなことをしても、博は優しく笑顔で接してくれる。 私は、持っていたハンバーガーを置き、博の側へと駆け寄った。 そして、てすりへと肘をついていた博の腕へ自分の腕を絡ませ、寄り添った。 「ほんとにごめん」 「だから、気にすんなって。むしろ、俺は感謝してる」 「なんで?」 「こんなに夜景がキレイに見える場所で、とふたりきりになれて、ステキな誕生日を迎えられたと思うよ。ありがとう」 残念ながら、目の前の壮大な夜景と博の顔は、涙で見えなかった。 博の腕を掴む自分の腕にも思わず力が入る。 そんな私に気が付いたのか、博が私の顔を覗き込んできた。 涙目の私を見て、博は微笑み、優しいキスをひとつしてくれた。 博、31歳のお誕生日おめでとう。 いつまでもそんな優しい博でいてね。 −−−E N D−−− 最後の言い訳っ。 お気づきかと思いますが、ベースになっているのは、「特別な夜は平凡な夜の次に来る」です。 あたしの中でこの曲の舞台は、勝手に横浜と思っているので、これも横浜のイメージで書きました(笑)。 特別〜は、あたしが∞の中で一番好きな歌だから、もうちょっと長く細かく書きたかったんだけど、 一回集中力切れて書くのやめちゃうと、ダメだな〜。申し訳ない。 2003.10.19
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