雨の中の君を
Story 2



「ねぇ、剛、どうしたの?なんか考え事?」

ここは、V6の楽屋。
俺の顔を覗き込んで、健が話しかけてくる。

「ちょっとな……」
「ふーん…」

あれから数日経って…。
俺は、降りしきる雨の中、バス停に立っていた君のことが気になってしょうがなかった。
自分でも理由はわからない。
俺の前から去っていく前に君が見せた、あの悲しげな表情が、俺は忘れられなかった。

「剛」

メンバーに背を向け、壁に向かって座っていた俺に、今度は坂本くんが話しかけてきた。

「何だよ」
「お前、本番中VTR見てる最中もずっと考え事しただろ?」
「………」
「ダメじゃねぇかよ。仕事に私情は持ち込むなって、いつも言ってるだろ!?」
「………」
「お前がそんなことやってたら、他のメンバーたちやスタッフにも迷惑がかかることを考えろ!」

俺は、何も言い返せなかった。
確かに、仕事の最中も君のことが気になって仕方がなかったから……。
本番中も上の空だった。
それを坂本くんに見られていたんだ。

「……ごめん」

俺は、素直に謝った。
すると、坂本くんがポンッと俺の肩を叩いた。
俺は、思わず坂本くんの顔を見上げた。

「今日は、もうこれで仕事は、終わりだ。マネージャーには俺からうまく言っておくから、
今からお前が気になってる、その“何か”を解決してこい」

坂本くんは、わかってくれていた。
俺は、その言葉にハッとし、自分の荷物を持ち、楽屋のドアを開けた。

「ありがと、坂本くん」

振り返って、坂本くんにお礼を言い、
俺は、勢いよく楽屋を飛び出していった。



俺は、君にもう一度会いたかった。
あのどしゃぶりの夜の雨の中で、ひとり泣いていた君に。
でも、君がどこの誰なのか、俺は知る術もない。
たったひとつわかっているのは、君が“”という名前だけ……。
メンバーの元を飛び出した俺は、君が立っていたあのバス停へと向かった。

だけど、それは根拠のない自信だった。
あの雨の中、あのバス停で、君は傘も差さずに泣いていたのだから、
あのバス停で、君にとってとてもつらい出来事があったことは、簡単に予想はついた。
つらい出来事があった場所へなんて、好んで行く人間はいないけれど……。
俺と君との共通点は、あのバス停しかなかったから……。
君と再会できる可能性なんて、これっぽっちもないことなんて、俺にもわかっていた。
けれど、そのほんの少しだけの可能性に、俺は、かけてみたかったんだ……。



「はぁっ、はぁっ」

息を切らし、俺は、君が立っていたバス停とは、反対車線側へと走ってきた。
すると、俺の前には奇跡が広がっていた。
あの夜と同じように、あのバス停へ、君が立っていたのだ。
何もかもあの夜と同じ。
最終のバスなど、とうに行ってしまった夜も遅い時間。
悲しげな表情の君。
そして、君の頬には、涙が伝っている。
ただ違うのは、どしゃぶりの雨が降っていないということ。
今夜は、見事な星が顔を覗かせていた。

……」

俺は、思わず君の名を呟いた。
だけど、俺には、君に話しかけることができなかった。
ただ反対車線の歩道から、君を見つめることしかできなかった。

何分時間が過ぎようとも、君はバス停の側から離れない。
俺も、君から目が離れない。
そして、俺は、声を掛けることもできずにいた。
すると、突然、

「剛、お前、惚れたな」

と、背後から低い声が聞こえた。
俺は、驚いて振り返ると、そこには井ノ原くんと健が立っていた。

「い、井ノ原くん…!健まで!どうして…!」
「ごめん、剛のことが気になったから、俺たちも坂本くんに頼んで、早めに出てきちゃったんだ」

そう答えたのは、健だった。
さらに、俺が無言のまま、驚いていると、井ノ原くんが口を開いた。

「いや、どうしても、健が行きたいって言うからさ、俺はしょうがなくついてきたんだけどさ」
「何、言ってんだよ!剛の後ついていこうぜって言ったの、井ノ原くんでしょ!?」
「違ぇーよ!健だろ!?」

俺の前で、突然ケンカを始めるふたりに向かって、俺は、呟いた。

「うるせーよ、ふたりとも」

俺の低い声に、ふたりは驚き、ケンカをやめた。

「ふたりとも、何しにここに来たんだよ!何も用がなければ帰れよ!」

俺の声は、次第に苛つき、大きくなる。

「「ごめん……」」

井ノ原くんと健の声が重なる。
だけど、そのあとにすぐに続けて井ノ原くんが俺に向かって言った。

「お前、あの子のことが気になるんだろ?好きなんだろ?だったら、なんでこんな遠くから黙って見てんだよ」
「そうだよ、剛らしくないじゃん!」

井ノ原くんに続いて、健もそんな言葉を吐いた。

「俺……らしくない……?」
「そうだよ、こんな遠くから、声もかけずに見てるだけなんて、剛らしくないって言ってんの!」
「……」

健の言葉で、はっと気が付く。

「そうそう。剛らしく行けよ!」

見上げた井ノ原くんは、いつもの笑顔で笑っていた。
俺は、ふたりの言葉に、自分の想いを改め、再び君を自分の視界の中へと捉えた。
相変わらず、君は表情を変えない。

“俺は、が好きなんだ……”

俺は、眉間にしわを寄せ、下唇を噛んだ。
君は、またこのまま夜の闇へと消えていくだろう。
そして、俺は、再び君を捜すだろう。
今日のように、奇跡的に出会えたそんな偶然は、俺は二度とやってこないと思う。
今夜の、奇跡ともいえる、君とのこの再会を、俺は、感謝する。
ここで君を逃したら、もう二度と君に出会えないじゃないかって、
俺は、そんな風に感じた。

「剛……」

健の呼びかけにも、俺は君から目を離さなかった。
そんな俺を悟ったのか、井ノ原くんは、健を促し、俺の前から姿を消した。
夜の人気のないバス停を挟み、再び、俺と君はふたりだけになった。

“剛らしくないじゃん!”

健の言葉が頭をよぎる。
俺らしくないなんて、正直言って、どう俺らしくないのかなんて、わからなかったけれど、
このまま黙って、君のことを見ていることだけは、確かに、辛かった。
後悔は、したくない。

俺は、意を決して、君のいるほうの歩道へと渡り、君へと近づいた。
俺の気配を感じ取っているのかどうか、君は表情ひとつ変えず、一点を見つめている。
あの夜と、まったく同じシチュエーション。
ただ違っているのは、この夜空に大雨が降っていないことと、
俺の君に対する想い……。
そして、俺は、君にもう一度話しかけた。

……。君に、話があるんだ……」

俺の心に焼き付いて離れない、あの悲しげな表情を浮かべた君は、
あの夜のときと同じように、ゆっくりと俺の目を見た。
to be continued...

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