Fate/stay night alternative story after“Unlimited Blade Works”
「はぇ? 英語の勉強?」 そう。英語。 俺は卒業後、凛と共に渡英し、 それは昨日決まった我が進路。 ――というか既に決定事項である事を昨日告げられた。 観光ではなく向こうで生活するわけだから、当然英語が必須となる。 一年程度でどこまで身につくものか不安だが、泣き言を言っても始まらない。 幸い、俺は英語教師を餌付けしていた。 今日は特に分厚い豚カツになめこの味噌汁で御機嫌とりに成功。 今しかないと、俺は家庭教師を頼んだのだ。 「担任持ってる上に弓道部の顧問で大変だとは思う。 その上、帰ってからまた仕事と同じ事やれって言うのは本当に申し訳ないんだけど――」 「士郎ぉ……」 虎屋の羊羹で御満悦だった藤ねえは、たちまち眼を潤ませた。 ……あんまりだ。 いくらなんでも、弟分の為に一肌脱ぐのが泣くほど嫌か? 「いや、藤ねえに余裕があるときだけ、週に1、2回でいいからさ」 「 「なんでも藤ねえの好きな物を――ってえぇ!?」 「 ――嬉し泣きらしい。 「それはいいんだが、羊羹ごと俺の手を握るのは止めてくれ。 痛いいたい、楊枝が刺さる!」 ともかくどうやら快諾して貰えたらしい。 「 べそをかきながら俺の手にこびり付いた羊羹を舐めとっている生き物を 師と仰いでよいものかどうか、一抹の不安を覚えないでもなかったが。
おねえちゃんの
〜Lesson 1 " written by ばんざい ――それ以上に何か、視界の隅で微動だにせず睨み付けてくるアルトリアが 剣呑なんですが、何故? 「 「あぁ、もちろんアルトリアも頼りにしてるよ。 だけど藤ねえはこれでも英語教師だし、手を借りないのはむしろ失礼だと思って」 「 藤ねえは何故か上機嫌。むしろ怖いくらい。 「あ、あのっ! 藤村先生、わたしも一緒に勉強させて下さい!!」 うむ。桜、そんなに泣きそうな顔して頼まなくても、 今の藤ねえはたいがいの事はOKしてくれると思うぞ。 「じゃあ基本的に藤ねえや桜が帰って来てから、夕飯前に教えて貰うって形でいいかな? ちょっと夕飯時間は遅くなっちまうけど、勉強しながら食べられる軽食は用意するから」 「おっしゃああああ! 早速明日からビシビシしごくわよぅ」 「張り切ってくれるのは嬉しいんだが藤ねえ、羊羹はそんなに頬張って食うもんじゃない」 「けちけちすんなー。 うぅ、おねえちゃんはうれしいよぅ。 士郎ってば剣道も勉強も、何にもおねえちゃんと一緒にやってくれなかったんだもん」 舞い上がっている藤ねえを見て、ちょっと心が痛んだ。 確かに今まで俺は、意地を張り過ぎていたかもしれない。 護るべき家族であるはずの藤ねえに頼るのを嫌い、避けていた。 それは全く、子供じみて醜い、傲慢な見栄だ。 家族は、一方的に護るものではなく、互いに支えあうものだった。 時にはおのれの弱さを晒し、助けを請うのが本当の強さなのだろう。 「やっぱり3年生になるから真面目に進路のコト考えた? 英語教師になっておねえちゃんの同僚になっちゃう? うんうん、まだまだ遅くはないよ」 来た。 やはり進路問題は避けて通れない。 ちょうどいい機会だ。ここは問題を先延ばしにせず、一気に畳み掛けるべきだろう。 素知らぬ顔でお茶を入れ替えている凛の顔をうかがい、覚悟を決めた。 「その事なんだけど。 藤ねえ。担任教師じゃなく、家族として今のうちに報告しておく。桜も聞いてくれ」 ますます顔を輝かせる藤ねえと、不安げに見詰めてくる桜に、心が折れそうになる。 「俺、卒業したら、 「ふーん。何しに?」 「宝石職人になろうと思って」 「――それ、英語関係あるの?」 俺は不思議そうに首をかしげる藤ねえの肩を両手で抑え、しっかりと眼を見据えて言った。 「藤ねえ。イギリスの だから助けてくれ。頼む」 畳に手をついて頭を下げる。 沈黙だけが、居間を支配する。 「――そうか、そういう事か」 藤ねえの手が、俺の頭を柔らかく撫でた。 「あてはあるの?」 顔をあげ、もう一度、藤ねえの眼を見つめた。 「うん。アルトリアのつてで、行き先はもう決まってる」 これは凛やアルトリアと打ち合わせたシナリオ。 「相談じゃなくて、報告なのね?」 「うん。もう決めた」 「そっか。……先に相談して欲しかったな」 「――ごめん」 「アルトリアちゃんと一緒に行くの?」 藤ねえに眼を向けられ、アルトリアは胸を張って答えた。 「はい。私がタイガに代わり責任を持って、士郎を護ります」 「藤村先生。わたしも同じ所へ行くんです。ですから御心配なく」 静観していた凛が口を挟むと、血の気を失った顔で硬直していた桜が ビクリと肩を揺らした。 ――そうだよな。 桜は俺だけじゃなく姉さんもそばにいなくなっちまうんだから、心細いよな。 「桜、驚かせてすまん」 俺が謝ると桜は何か言いたげに口を動かしたが、何も言わず眼を伏せてしまった。 「アルトリアちゃん、凛ちゃん」 藤ねえは二人を手招き、自分の正面に座らせた。 「あなた達はとってもいい子だわ。わたし、あなた達が大好きよ」 両腕で二人を抱き寄せ、そして―― 「あなた達を信じるわ。士郎をよろしくね」 「タイガ……」 「藤村先生……」 「信じてる…か、ら……ねッ?」 「タ、タイガ……」 「せ、先生、痛いイタイいたい!」 ――耳元で囁きつつ、二人の後頭部を鷲掴みにして、力の限り締め上げていた。 「士郎もよ? おねえちゃん、信じてるからね?」 ……そう言いつつ、眼光が鋭過ぎますセンセイ。 「海の向こうでわたしの目が届かないと思って、両手に花とか言ってハメ外したら、 士郎叩き斬っておねえちゃんも死ぬからね?」 「い、Yes, maam……」 「ふ、藤村先生っ! いいんですか? 本当に、納得しちゃうんですか!? 先輩達が、ここから居なくなっちゃうんですよ? 先輩達のご飯、食べられなくなっちゃうんですよ?」 ずっと黙っていた桜が、珍しく大声をあげた。 だが藤ねえは、静かに答えた。 「桜ちゃん。いい女は、男を止めちゃ駄目なの。 士郎が決めた事だもの、応援してあげないと。 大丈夫。士郎はちゃんと帰って来るわよ。 切嗣さんもふらふら海外へ行ってたみたいだけど、必ずここへ帰って来た。 そうでしょ、士郎?」 「あぁ、もちろん帰って来るさ。ここが、俺の家だ」 「……わたしの事はどうでもいいっぽいですね」 凛に睨まれても、藤ねえは余裕の笑みを浮かべた。 「士郎は必ず帰って来る。 凛ちゃんやアルトリアちゃんは、その時どうするのかしら?」 「……ホントは士郎の方がオマケなのに」 俺を睨まれても困る。 ――桜は、声を震わせて呟いた。 「何年? 何年待ったら帰って来るんですか?」 「……はっきりとは決めてないけど、たぶん、五年くらい」 「ほら桜ちゃん。五年で帰って――五年?」 藤ねえが固まった。 来た。ついに。修羅場来た。 「聞いてない。聞いてないよ、士郎。そんな、五年もなんて」 藤ねえは俺の手を掴んで揺すった。 「わたし……一年くらいだと、思ったよ?」 そんなに静かに言われると、叫ばれるよりこたえる。 「うん、まあ、そういう事だから、よろしく」 何がよろしくなんだかよく判らない。 だが、他に何が言える? 「う、ううぅ、う、うぇ……」 藤ねえは、わりとよく泣く。 「いやだよぅ……う、うぅ、行っちゃ、嫌だよぅううぅ……」 だが、さすがに―― 「ぅうわあ ああ あああぁぁ、ぁ…… ぁああああ ああぁ、あ……うぅ」 ――これほど激しく号泣するのは、記憶に無い。 「ぇううぅ、お、おえぇちゃ、んを……ぅぐ……おいれ、かないれぇええうぅぅ……いっ」 「いい女は男を止めちゃ駄目だったんじゃないのかしら。 わたし、さっきはちょっと感動しかかったんだけど」 「台無しですね」 俺の首にかじりついてマジ泣きする藤ねえに、凛とアルトリアはさすがに少し退いていた。 俺はただ、藤ねえを抱き留めて髪を撫でるしかない。 凛は肩をすくめてから、再び俯いてしまった桜のそばに座った。 「桜。わたしがこんな事を言うのもどうかとは思うけど……謝らないわよ。 わたしも士郎も、やりたいようにやる。だから桜もそうしなさい」 肩を抱いた凛の手を、桜は黙って握り返した。 藤ねえは泣き止まない。 「えっ、えぅ…えっ……ふぅうううぅぅ、くっ……ぅええ――――――――――――ん」 「――まぁ、ここまでやられるとコレはコレで感動的ではあるかもしれないわね」 「はい。少し 翌日。 「どうして貴女がここにいらっしゃるのかしら、 「いや、藤村先生が妙にうかれてたから、何でだって尋ねたら、勉強会やるから来ないかって」 「――そう藤村先生がお誘いしてしまったんです。すみません」 「……間桐。わたしの訪問はお前が謝らねばならないほど迷惑な事なのか?」 「いえ主将、決してそのような……。 ただ先輩のお支度の都合もありますし、主将がいらっしゃる事が 決まった時点でお電話なりするべきだったと思いまして」 アルトリアとの稽古を早めに切りあげ、凛と共に夕飯の仕込みと軽食の準備をしながら 待っていると、春休み中の部活に行っていた桜が美綴を伴って帰ってきた。 「あぁ、どうせ余裕を持って用意してたから構わないよ」 桜にお茶の用意をしてもらっていると、玄関の引き戸が開く音がした。 「頼もう」 「――あの道場破りみたいなのは、柳洞くん?」 凛は一瞬怪訝な顔をしたが、何を思ったかニヤリと笑みを浮かべて玄関へ駆け出した。 エプロンを着けたまま。 「はぁい、どちらさまぁ?」「くっ――遠坂、貴様に出迎えられる 美綴が呆然とした表情で説明を求めて来るのに、俺は首を振って答えた。 「遠坂、やめろ。一成、構わずあがってくれ」 「いやぁね、士郎。ウチでは凛って呼んでって言ったじゃない」 凛は戻ってくるなりわざとらしく俺の袖を掴んで拗ねて見せた。 一成は歯を喰いしばって凛を睨みつける。 美綴は硬直が解けると、口の端を吊り上げる笑みを浮かべた。紅い悪魔に似ている。 「ほぅ。衛宮、遠坂……そういう事なのか?」 「む、美綴か。 よもや貴様もこの魔女の手の者ではあるまいな?」 「あら、嫌だわ柳洞くん、女の子を捕まえて貴様だなんて。 それに眉間にシワを寄せてると、綺麗な顔が台無しよ?」 一成は美綴の猫撫で声に肩を落とした。 「衛宮。お前が俺を呼んだわけが良く判った」 うむ。 いつもいつも男独りで孤立無援はきついので、援軍が欲しかったのだ。 ――生贄かもしれないが。 「すまん一成、恩に着る」 「あの、柳洞さん。とりあえずお掛けになってお茶でも」 「タイガが帰るまで、これでお腹を持たせて下さい」 「む。これはかたじけない」 一成は甲斐甲斐しく給仕する桜やアルトリアに目礼してから、苦々しげに凛を睨みながら 俺に囁いた。 「衛宮。何故、よりにもよって遠坂なのだ? お前の周りには間桐君やセイバーさんなど良い女性に恵まれているというのに」 「柳洞くん、男同士で内緒話? 学校ではそういうの止めてね。変な噂が立つから」 「あぁ、一部偏った女子生徒には喜ばれそうだけどね」 「……何だそれは?」 「衆道疑惑」 がちゃん。 いや桜。凛や美綴のたわ言に、真顔で硬直して湯飲みを落とさないでくれ。 アルトリア、『衆道とはなんですか?』と無垢な眼で問いかけないでくれ。 「きッ、貴様ら! 言うに事欠いてこの罰当たりどもめ!! 俺は貴様らのような毒婦から衛宮を護る為にだな――」 「ほらほら、そういうのが噂の元なんだってば」 「毒婦だって。あたし、小説以外でそんな言葉聞いたの初めてだわ。ちょっと格好いいわね」 「喜ぶな!」 「柳洞くん、怒った顔も可愛いわ」 嗚呼、美綴。知らなかった。出来れば知りたくなかったよ。 お前も紅い悪魔と同類だったんだな。 「ただいまぁ――あ〜ずるーい! なんでアンタ達ばっかり食べてるのよぅ」 凛と美綴が一成を ――なんか、若い衆にホワイトボードを運び込ませている。 えらい気合だな。 ――気合はいいんですが、先生。英語の勉強に竹刀は要らないと思います。 「 「衛宮、これを毎日続けるのか?」 「……ちょっと自信無くなってきた」 「 to be continued
補足 藤ねえSS第二弾。前後編構成。 時系列的に第一弾『おねえちゃんの愛を喰らえ』の少し後。春休みに突入したくらい。 士郎と凛は卒業後イギリスへ。英語大丈夫?>藤ねえは(みんな忘れてるけど)英語教師 そういうわけで当然、 書いてある英語は出鱈目極まりないので読み飛ばして下さい。 私が思うに、藤ねえの士郎へ対する想いは複雑過ぎ、本人もどうしていいのか、 どうしたいのか判らないんじゃないでしょうか? 可愛い弟。 頼もしい男の子。 ……そして憧れの人の息子。 つまり藤ねえの心は士郎の姉であり妹であり恋人であり女房であり母でありえる。 であるがゆえに――
士郎にガールフレンドが出来ておねえちゃん嬉しいよぅ ――こんな感じでいつも暴走するんじゃないかなと。
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