2ストローク(それでも貴方は乗りたいか?)

 '80年代半ば、レースブームに乗りレーサーレプリカが大ブレーク。
 特に各社競って毎年モデルチェンジをするという異常なまでの過熱で開発された2ストローククォーター (250)は古い2ストのイメージを覆し、安く・速く・軽く・コンパクト、しかも乗りやすいという、 スポーツバイクに求められる要素をおおむね満たすものとなりました。
 しかしブームが去り、販売台数が激減するとともに開発は止まり、さらに排ガス規制が2ストに とどめを刺しました。

 そう、2ストマシンは既に新車で入手不能になって久しい旧車なのです (輸入車やレーサーはこの際除外)。
 しかもその性格上、ハードに走り込まれていたり、おかしな改造(改悪)率も極めて高い。
 つまり、程度の良い中古車は極めてまれ。あるいはあっても法外な値が付いていたり。

 それでも乗りたいというチャレンジャーな貴方。
 大丈夫です。
 彼らは今でも元気に街中を走っているじゃありませんか。
 そう、比較的近年('80年代後半以降)の2ストは元々の出来が良いので、多少調子が悪かろうが 結構それなりに走ってしまうんです。
 街中を走っている2ストの9割は、半分壊れたまま走っている と言っても過言ではありません。

 それでもベストコンディションの2ストに乗りたいという欲張りな貴方の為、NSR250Rを例に取り 購入時のチェックポイントを挙げてみましょう。

 細かい用語はサービスマニュアルを見るなりググる なりして補完して下さい。
 他メーカーや小排気量車でも基本的には同様だと思われますのでこれも適宜イイ感じに変換して下さい (例:RCバルブ>YPVS)。

 まずエンジン始動。
 キックしまくって掛からなくても、焦ってはいけません。
 一週間程度の放置プレイでも、数十回の空キックは当たり前です。
 ――どうしても掛かりませんか?
 まず疑うのはバッテリーとプラグ。
 まぁ、この辺は「エンジン掛けてくれなきゃ絶対買わない」のが当然なので、 バイク屋さんがすぐにどうにかするでしょう。
 暖気後(水温50℃前後)、チョークを戻してアイドリングがある程度安定するかどうか確認。
 駄目な場合――

・イグニッションコイル、プラグキャップ等の不良
 消耗品です。テスタでチェックし、駄目なら要交換。
 コネクタが緩んでるだけという事も結構あります。

・PGM死亡
 一番イヤなパターン。
 要PGM交換。
 PGM分解してコンデンサ交換で直せると言う話もあるが、チャレンジしたい人は御自分で。
 ちなみにPGMは現在5万円弱。
 一番ヤバそうなのはレギュレートレクチファイヤ死亡。だとすれば絶対にPGMも一蓮托生。
 さらにイヤなのはPGMの死因が不明の場合、交換しても即死の可能性があると言う事。
 社外品の電装部品(リミッタ解除部品等)はもちろん保証対象外。
 しかも追求すれば必ず原因が判明すると言うものでもなく、単なる寿命という場合も多い。
 神に祈って下さい。


 次にブリッピングしてRCバルブが正常に動作する事を確認。
 正常に動作しない場合(動いても可動範囲が狭いとか)、パワーが出ません。
 ちなみにリミッタが生きている場合、完全に全開にはならないそうです。
 考えられる動作不良理由として――

・サーボモータ動作不良(ワイヤ調節不良含む)
 ワイヤの調節は見れば判るのでまぁよし。
 サーボモータはバッテリ直結で動作チェックします。

・バルブ周りへのカーボン固着によるスタック(引っ掛かり)
 ワイヤ外して手動でバルブを動かして渋ければコレ。
 一番ありがちというか定番。要、腰上オーバーホール。

・スロットルセンサ不良
 テスタで導通を測り、基準値から外れていれば要交換。
 RCバルブだけでなく燃料系、点火系にも影響する重要部品。センサAssyで8千円弱。

・PGM死亡
 以下省略。神に祈って下さい。


 そして吸気系の確認です。
 まず、エアクリーナボックスやインテークチャンバが付いている事。
 まぁ、ボックスが無かったり(いわゆる直キャブ)インテークチャンバが無かったりすれば横から 見ただけでも判りますね。
 その場合確実に弄られていますのでノーマルに戻すよう要求しましょう。
 ボックスに穴が開いていたりしても要注意です。
 ソレノイドチューブのジョイント等がノーマルかどうかも確認します。
 キャブ本体のジェット類もノーマルが基本です(走る度セッティングしたいなら別ですが)。
 問答無用でばらして確認してもらって下さい。
 その際、パワージェットが殺されているのにメインジェットをノーマルに戻したりすれば確実に 焼付きますので要注意。
 社外チャンバが付いていた場合等、かなり濃い目にセッティングされている場合があります。
 仮に社外チャンバを入れたところで、ボックスがノーマルならジェットもそのままでOKです。
 サーキット走行時に限り、不安だったらMJを少しだけ上げてやりましょう。


 ――と、走らせずにチェック出来るのはこの辺ではないでしょうか?
 他にもギヤポジションセンサとかまぁ色々地雷はありますが、 私だって購入時に上記項目全てチェックした訳じゃありません。

 色々書きましたが、私の場合、幸いそれほど深刻なトラブルには見舞われていません。今のところ。
 強いてあげるならイグニッションコイルが死んだとか、走行23000km程度でレース屋さんに腰上OHを 依頼したところ、開けてみたらピストンにダメージを受けていて「腰下もやった方が良いかも」と言われ、 案の定クランクが御臨終寸前だったとか、まぁその程度で。

 ただし、私のもう一台のNSRを買った某氏はしばらく放置プレイした後不調に悩み、現在に至るまで 完調になっていません。

 エンジンフルオーバーホール>ピックアップコイル死亡でもう一度エンジン開ける>PGM死亡>スロットルセンサ死亡

 ――フルコースですな。氏の日頃の行いがしのばれます。

 ちなみにOH依頼する場合、絶対に実績あるレース系のショップにしましょう。
 NSRの場合、脱着工賃と部品代込みで腰上で5万弱、腰下までだと(クランク交換&芯出し含む) 15万程度で出来ますが、普通のバイク屋さんだと倍くらい取られます。
 まぁ、思ったより安いでしょ?
 性能を気にする人は、サスペンションのOHも御一緒にどうぞ。

 私の周囲には普段からオークションで中古パーツを漁り、エンジンは何機目だとか、PGMは幾つ目だとか、 予備のフレームやフォークがトランポに積みっぱなしという方もゴロゴロしていますが、下手に中古パーツ 使うより、新品部品でOHした方が良いと私は思っています。
 その方がバイク業界も潤うし(^^;

 そうそう、レース屋さんいわく、NSRをレースで使う場合、ピストンは500kmで交換、クランクは1500kmで 交換だそうです。
 無論コレは一番美味しい(パワーが出る)のはその辺だという意味で、その位で焼付くとかいう話では ありません。
 レースで常に高回転キープするのと、公道でちょっと回し気味にするのではわけが違います。
 まぁ、参考までに。
 OHした場合の慣らし走行は、クランク交換した場合7000rpm以下で70km程度です。
 ポイントは可能な限りスロットル全開で行う事。


 なお、高年式の2ストは低速が太いとはいえ、やはりアイドリング付近の粘り弱さやレスポンスの鈍さは いかんともし難いものがあります。
 講習会やジムカーナ等の極低速の練習を行うには、ノーマルのギヤ比では扱いにく過ぎます。
 私の場合、スプロケットを13×46(ノーマルNSRは15×40)に変更していますが、この仕様だと6速100km/h で8000rpm程度回ってしまいます。
 以前はその仕様で自走して練習会や大会に行っておりましたが、いささか疲れるのとエンジンの消耗が早いのは 間違いありません(現在はハイエースに積んで移動しています)。
 初心者の練習用に2ストをお薦めしない理由の一端です。


 逆にとりあえず2ストのフィーリングを味わいたいという人は、安めの物を買って、壊れたら潔く乗り換える というのも一つの手だと思います。
 1×万円で買ったバイクを直し始めたら○十万円とかいう事になりかねないし。

 細かい事は余り気にしない! ……公道で乗るぶんにはね。



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