Oct.11.1999

「りっぱな犬になれ」

−来福−

 犬の姿になったばかりの頃。最初は犬の姿になれたことがただうれしくて喜んでいた。行ったことのない場所や見たことのないところへ行き、毎日わくわくして駆け回っていた。でもそれが落ち着くと、ふと、父さんが言っていた言葉を思い出した。
 「りっぱな犬になれ。」
 そう父さんは言っていた。りっぱな犬ってなんだろう。
どうしたらりっぱな犬になれるんだろう、一人考えた。まわりにはもう聞ける人はいなかったし、自分で考えるしかなかった。
 幸い家にはたくさんの犬に関係する本があった。とりあえずそれらを片っ端から読んでみることにした。いろいろなお話があって、ためになったけれど、やはり自分がどうしたらいいのかわからなかった。
 (誰かに聞いてみたい。)
そんな思いで家を出た。


渋谷

 どこに行けばいいのかもわからずに家を出たけれど着いたところは人がたくさんいるところだった。そこは若者があふれているところだった。人をかきわけ、かきわけ進むと台の上でしずかにたたずんでいる方(犬)がいた。
 「りっぱな犬になるにはどうしたらいいのですか。」
聞いてみた。その方(犬)はしずかな落ち着いた瞳で東の方を指し示したようだった。今は聞くことができないのだなと思った。そして、東の方に向かった。


 都会なのにこの辺りはいろいろな動物のにおいがしている。ここがあの方(犬)が言っていたところだろうか。桜並木の続く大きな公園だった。入り口の近くに大きな男の人といっしょにたたずんでいる方(犬)がいた。この方(犬)に聞けと言っていたのだろうか。
 「りっぱな犬とはどんな犬ですか。」
聞いてみた。やっぱりしずかに、そして少し威厳のある瞳で「だいじょうぶだ」と言っているようだった。少し父さんを思い出した。この方にも今は聞くことができないんだなと思った。次にどこに行ったらいいのか、どうしたらいいのかわからなかった。来るのが遅すぎたのだろうか。

上野

 少し、暗くなってきた。うろうろしているうちに黒い大きな池をみつけた。きれいなお月さまが水面にゆれていた。今日は満月だったかな〜。と思っているうちに池のほとりの樹の下でねむりについてしまった。夜風にのっておいしい食べもののにおいがただよっていた。


−おしまい−


by ando