海堂・・・
今、雪が降ってるよ
お前の好きな雪だ・・・
すごく積もってる
降ってると言うよりも、落ちているという方が合ってるかな
すごく粒が大きいんだ
ほんの少し外にいたら真っ白になってしまいそうだよ
・・・・・なぁ 海堂・・・・・
今でも雪は好きかい?
俺達を引き裂いた雪が・・・
今でも・・・好きかい・・・?
wunsch
あの日・・・あの日もこんな雪の日だった。
初雪に包まれながら俺達は歩いていた。
「なぁ 海堂。
もしも俺がいなくなってしまっても、
俺のこと、忘れないでくれよ」
美しい雪景色に少しもの悲しくなった俺は、そんな言葉を呟いた。
「はぁ? ナニをバカな事言ってんスか?
・・・・・うーん、そうだなぁ。
アンタみたいな〈変〉な人はそういないから、
たとえ1000年逢わなくても忘れないだろうな。」
「・・・その言い方はあんまりじゃないか?」
「『もし』の話だろ?
ってか、アンタはオレを一人にするつもりなのかよ。」
「まさか!そんなわけないだろ!」
「だろ?ならその答えで良いじゃねぇか」
「ずっと一緒にいような」
「そのつもりッスよ」
そう言ってお前は微笑ったね
俺はお前と離れることはないと信じてた
誓った7年後も、そのずっと先も、変わらず一緒にいられると信じてた
信じてたんだ・・・本当に・・・
・・・・・あの瞬間までは・・・・・
雪でハンドルが取れなくなった車が俺達を・・・・・
薄れゆく意識の中で俺が見たものは
真っ白な雪の上に紅い花を咲かせて倒れている海堂の姿だった
俺は重い躰を動かして海堂のそばに行った
海堂の手に触れたところで意識が途絶えた・・・
俺は病院のベッドの上で意識を取り戻した
―――ナンデコンナトコロニイルンダ?―――
思考が追いつかない
・・・俺は少しずつ思い出した
あの悪夢のような出来事を!
「海堂っ!!」
あちこち躰が痛むが、そんな事は気にしていられなかった。
ただ海堂のことが心配で堪らなくて。
起きあがろうとした俺の躰は、医者や看護婦の手によってベッドに戻された。
「海堂っ!海堂はっ!?」
抑える手から逃れようと暴れた俺は、隣のベッドに見つけた。
愛しい海堂の姿を・・・
頭には包帯を巻き、顔にはガーゼが貼られていた。
とても痛々しい姿だった。
そして悪夢は続いていた。
海堂が目覚めてくれなかったのだ。
打ち所が悪かったんだろうと医者は言った。
すぐ意識が戻るかも知れないし、ずっと戻らないかも知れない。
あるいは最悪のことも・・・と・・・
お前は目覚めてくれない
あれから1年たった今も・・・
俺は毎日お前に会いに来てるんだよ。
わかってるかい?
毎日ここに来て、お前に話しかけて、お前にキスをして・・・・・
もう1年だ・・・
辛いよ海堂
淋しいよ海堂
『アンタはオレを一人にするつもりなのかよ』
一人にしているのはお前の方じゃないか。
海堂 早く目を覚ましてくれ
その瞳に俺を映してくれ
俺の大好きなあの笑顔を見せてくれよ・・・
『ずっと一緒にいような』
『そのつもりッスよ』
そう言って微笑ったじゃないか!
これは一緒にいるっていえるのか?
なぁ・・・海堂 還って来てくれよ
あぁ まだ雪が降ってる
さっきよりも強くなったみたいだ。
海堂をさらいに来たのか?
イヤだ!海堂を連れて逝かないでくれ!
気付くと俺は握りしめた海堂の手を濡らしていた
涙などいくらでもくれてやる。枯れるほど持っていくがいい!
・・・・・愛してるんだ・・・・・
俺の全てで海堂を愛してるんだ・・・
喪いたくない
やっと見つけた「一人」なんだ
何の力も持たない俺は、もう祈ることしかできないけれど・・・・
還ってきて
お願いだから
聞こえるだろう?俺の声が
感じるだろう?触れている手を
知っているんだろう?俺がどれだけお前を必要としているか
わかっているんだろう?俺がどれだけお前を愛しているか
早く 還ってきて
俺はずっと海堂の手を握りしめていた
今日は海堂から離れてはいけない気がした
何故かそんな気がしてならなかった
理由などわかるハズもない
ただ・・・
傍にいなくちゃ行けない気がしたんだ・・・・・
どのくらい時間がたったのかわからない
海堂の手を握りしめる俺の手に小さな力が加えられた気がした
「?」
気のせいだろうか
・・・・・ピク・・・・・
気のせいではなかった
海堂の指が微かに動いたのだ
「・・・・・海堂・・・・・」
オレは海堂に囁きかけた
「・・・海堂・・・起きて・・・」
このときの嬉しさを俺は一生忘れないだろう
海堂の瞳がゆっくりと開いていったんだ
一度完全に開いてから、焦点が定まらないのか、何度か瞬きをした
「海堂・・・」
俺が呼ぶと、ぼぉっとした意識のまま、海堂は俺を見た。
あぁ やっとその瞳を見ることが出来た
「海堂、俺がわかるか?」
「センパイ・・・?」
海堂は不思議そうに俺を見ている
「お還り」
「・・・・・ただいま・・・・・?」
海堂は何のことかわかっていないようだ。「ただいま」という言葉も、
海堂にとってはただの返事でしかないのだろう。
でも俺には何より嬉しい言葉だった
「・・・・・?・・・・・
センパイ、ナニ泣いてんスか?怖い夢でも見たんスか?」
そう言って海堂は柔らかく微笑った。
・・・あぁ 死ぬほど怖い夢を見ていたよ。 気が狂いそうなほどの悪夢だったよ。
・・・・・でも・・・・・
「嬉しいんだよ・・・
やっと逢えた・・・すごく逢いたかったんだ・・・」
ゆっくりと話すよ。なぜ嬉しいのか。
それを話すためには、1年前のあのことから話さなくてはならない。
でも、怖がらないで、怯えないで。
俺が傍にいるから
全てを受け止めて、それからゆっくりと埋めていこう
1年間の空白の時間を・・・
いや。俺達には空白なんて無いのかも知れないね。
だって・・・
お前が目覚めた〈今〉が、俺が目覚めたときなんだから。
俺達は悪い夢に捕らわれていたんだよ。
窓の外を見ると、いつの間にか雪はやんでいた。
あんなに降っていたのが嘘みたいだ。
あぁ あの雪は、海堂を迎えに来たんじゃなくて、
送り届けに来たんだな・・・
きっと・・・・・
海堂は少し微笑んで積もった雪を見ていた。
『ありがとう』と言っているみたいだった。
「なぁ 海堂。
・・・・・雪は好きかい?」
海堂は俺の大好きな笑顔で答えた
「好きッスよ」
das Ende
いつも薫君ばかり泣かせているので、今回は先輩を泣かせてみた。
いつもは雪が降るとうきうきする水月が、
精神状態が悪かったのか、今日の雪を哀しく感じた為出来た痛い作品。
・・・ホントに珍しい・・・
でもやっぱり最後はハッピーエンドにvvv