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告白から数日が過ぎた。
あの日から海堂は乾を避けている。
しかし、海堂本人には避けているという自覚はない。
他の者の目にも変わらない海堂が映る。
もともと口数の少ない海堂だが、乾とはわりとよく話していたのだ。
それが必要なこと以外口にしない。
〈特別〉な存在だから乾だけが気付いた気配。


それは『警戒』だった。





君を悩ませたのが俺の罪
君に避けられるのが俺の罰





でも、それはあまりに辛すぎる。
海堂のことが好きで・・・
どうしようもないほど大好きで、その気持ちを伝えただけなのに・・・
(確かに普通の告白とは異なるのだが)




 「やっぱり言うべきじゃなかったのか・・・・・」




少し後悔し始めた乾の耳に、どこからか女の子達の会話が飛び込んできた。
それは、『彼が冷たい、不安だ、何とかして気持ちを確かめたい』というものだった。
俺と同じだな、と溜息をついた乾は、




 「試してみるか・・・・・」




誰にも聞こえないほど小さな声で呟いた。










その日から今度は乾が海堂を避け始めた。
近づきもせず、話しもしない。見ることすらしなかった。
もちろんメニューも作らない。
他のレギュラー達に「一緒にいないね」「メニューも作ってないの?」と、いろいろ言われたが、
乾はただ「忙しくてね」とだけ答えていた。

海堂は少しだけ淋しくなった。

忙しいという何かが落ち着けば、いつもの乾に戻ってくれると思っていた。



一週間ほど経っても乾の態度は変わらなかった。
流石に海堂にも忙しいだけではないと言うことが解る。
他人とは普通に接しているのに、自分とだけは距離を感じた。

校内であっても何も言ってはくれない。
今までは、会えば何かしらの会話があったのに・・・

このことに気付いても、海堂にはどうすればいいかなどわかるハズもなかった。



そして、避けられる事への淋しさと苛立ちは、海堂の中でどんどん膨らんでいった。





それから数日たった放課後、練習後のランニングを終えた海堂は部室に向かっていた。
最近やたらと走り込んでいたせいか、足に微かな痛みを覚えた。

 『家に帰ったらマッサージしとくか・・・』

そう考えながら部室のドアを開けると、中にはベンチに座っていつものデータノートを見る乾がいた。
中に入ってきた海堂に気付いたが、顔も上げずにノートを閉じて自分のロッカーに向かった。

その行動に海堂の胸は軋んだ。

まるでこの空間には海堂の存在など無いと、お前などいらないと言われている気がした。



―――――ナゼ、オレヲミテクレナイ?―――――



海堂は胸の痛みを抑えながら、ここ数日間の理由を聞こうと乾に声をかけた。





 「あのっ  センパ―――」

 「お疲れ」





海堂の言葉が終わる前に乾が一言だけ言って、海堂の前を通り過ぎた。
こんなにわかりやすく避けられたのでは海堂もキレる。


 「待てよっ!」

海堂は乾の腕を掴み、今までの苛立ちをぶつけた。

 「何でムシすんだよッ!」

乾は小さな溜息をひとつついて、静かに語り始めた。

 「無視する?
  避けたのはそっちだろ?
  男の俺に「好きだ」と言われてイヤだったんだろ?
  悪かったな。イヤな思いをさせて・・・
  だから俺はお前を諦めることにするよ。
  傍にいたんじゃ忘れるなんて事、出来ないだろ?」



  『オレヲ・・・ワスレ・・・ル?』



 「もう好きだなんていわないよ。
  ごめんな。今まで迷惑かけて・・・・・」




海堂は驚いたように乾を見た。
そして俯いて目を瞑り、「ふぅ〜」っと深い溜息をついた。
そしてゆっくりと顔を上げ、瞳を開く。
だがその顔は別人のように冷たかった。



 ・・・ダレダロウ・・・  コノショウネンハ・・・・・



まるで心を閉ざしてしまったかのような、
今まで誰も見たことのない表情をした海堂は、


 「わかりました。
  オレも迷惑ばかりかけてすみませんでした。
  今まで有難う御座いました。」


それだけ言って乾に背を向けた。

乾は何も言わずに部室を出た。


 『マズッたな。これ以上はキケンだ。
  本当に海堂を喪ってしまう・・・・・
  出てきたら謝ろう・・・・・』


そう思って、乾は部室の外で海堂が出てくるのを待つことにした。
深く捕らわれている乾には、結局『賭』など無意味だったのだ。
喪うことが何より怖くて、傍にいられないことが何よりも辛いことなのだから・・・・・







    罪も罰もすべて受け入れるから・・・・

     だからお願い


    君の傍にいさせてくれないか・・・・・