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初めてだ。こんな気持ち・・・
 

初めて『純粋』に『人』をすきになった・・・


何も求めない。


この〈想い〉が届かなくても、






 「どうか・・・倖せに・・・」





そう思える。



何も求められなくても、





 「護りたい。君の行く手を阻む、全てのものから・・・・・」






そう望む。







君にひとつだけ・・・・・


たったひとつだけのお願いがある。






 「いつまでも、倖せそうに微笑っていて・・・」






それが願い。


たったひとつの望み・・・・・・








あぁ・・・そうか・・・・・


初めて『純粋』に『すき』になったのではなくて、


俺は君に「愛」をしているんだ・・・




俺は君を・・・







 「愛・・・している・・・・・」











〜  〜  〜  〜  〜  〜  〜  〜  〜  〜  〜  〜  〜  〜  〜  〜








初めはテニスに向ける情熱やひたむきさが自分に似ていたから声をかけた。
少しのアドバイスでも吸収して成長していく姿を見ているのは、楽しかったし嬉しかった。



 『強くなって欲しい』



ただそれだけだった。
純粋にそう思った。



しかし、いつからか乾は「特別」な〈想い〉で海堂を観るようになっていった。





 「俺は海堂が好きなんだ」





素直に認めてからは気持ちが軽くなった。
誰にも・・・・・
海堂本人にも言えない〈想い〉だが、乾は大切にしたいと思った。



  『見ていたい』
  『そばにいたい』



それだけでいいと思っていた。

しかし、恋とは我が儘なもので、乾の考えもだんだんと変わったきた。



  『あの手に・・・髪に触れたい。
   海堂の隣にいるのが、いつも俺だけであってほしい・・・・・』



乾の海堂への想いは大きくなるばかりだった。






伝えられない〈想い〉を胸に秘めたまま、乾は「良い先輩」として海堂の隣にいた。



一緒にいることが本当に嬉しい乾にとって、
この距離は辛いものばかりではなかった・・・・・








〜  〜  〜  〜  〜  〜  〜  〜  〜  〜  〜  〜  〜  〜  〜  〜










 「海堂。新しいメニューだ。」



 「っス。ありがとうございます。」



 「俺のメニュー以上やるなよ。無理すると体を壊してしまうぞ。
  それはちゃんと俺がお前の状態を見て組んだメニューなんだからな。
  ・・・・・わかったな?」



 「っス」



 「(クス)ホントにわかってる?」



 「・・・・・・・」








最近当たり前になってきたこの会話。
だが、今日の海堂は何かがおかしい。
メニューを見つめたままなにやら考えている様子だ。
海堂がメニューの量に不満を言うのはいつものことだから、今日もそうなのかもしれない。

でも、「何か」いつもと違う

海堂のことを特別に想っている乾がそれに気付かないはずが無く、
かるいカンジで海堂に尋ねてみた。





 「何?何か問題ある?」



 「・・・・・・」





海堂は少し間をおいてから、まっすぐに乾を見つめたまま訊ねた。





 「何でオレに・・・そんなにやってくれるんスか?」





こんなにもストレートに言われたのでは堪らない。
本当に何気ない質問なのだが、乾を煽るには十分だった。
すぐに答えを返さない(返せない)乾を不思議そうに見つめて、海堂は軽く首を傾げた。
その小さな仕草は、乾の我慢の限界を超えさせてしまった。




―――――モウ、オサエラレナイ―――――




そして乾は





 「お前のことが好きだだからだよ。
  〈特別〉・・・だからだ・・・・・」





ついに口にしたのだった。
決して言わないと決めたその言葉を・・・・・
突然の告白に海堂は固まってしまっていた。
やがて言葉の意味を理解すると、耳まで真っ赤になった。
それは「怒り」・・・なのか、それとも・・・・・・・
その答えは乾にも、今の海堂にもわからなかった・・・





 「なっ・・・・・・
  俺は女じゃねぇぞ!何フザけたこと言ってんスか!
  ・・・・・・・・からかってんスか・・・?」





紅い顔のまま海堂は乾を睨め付けた。





 「まさか!
  からかってるわけないじゃないか!フザけてこんな事言ったりしない!
  お前こそはぐらかさないでくれよ。
  俺は本気だ。
  本当にお前が好きなんだ。
  ・・・・・だからだよ・・・・・
  お前のために何かしたかったんだ・・・」





海堂は驚いた顔のまま乾の言葉を聞いていた。
真剣な乾の表情で本気だと言うことは理解できたが、その感情を理解することは出来なかった。







そして海堂は何も言わずにその場を去ってしまった・・・・・・・