Traumwach −6−
暫くして殆どの料理がなくなると、(とーぜんアレは残っている・・・)
テニスのステージで扉を出してくれた跡部似の妖精が、
やはり 「ぱち〜ん」 と指を鳴らし、扉を出してくれた。
どうやらこの妖精、長の次に〈力(権力)〉を持っているらしい。
「やっと帰れるにゃぁ〜」
現れた扉の前で全員が安堵の息をつく。
そんな皆をハルは少し淋しそうに見ていた。
「みなさん・・・
これでお別れですね。
ちょっとの間だったけど、すごく楽しかったです。
もうお別れしなきゃならないなんて・・・とても哀し・・・です・・。 グスン・・ズズ」(すすった)
「ハル・・・
いろいろとアリガトな。
お前としたテニスも料理も忘れねーから。
たとえこれが夢でも、オレはきっと覚えてる。」
「海堂さん・・・
ボクも忘れません・・・」
「ハル君。
(エージのいぢめに耐えつつも)ここまで案内してくれて有難う。」(大石)
「(菊丸先輩のいぢめに逃げ出さないなんて)やるじゃん。サンキュ。」(越前)
「(よく耐えた)感謝する。」(手塚)
「みなさん・・・
(何か心の声が聞こえた気が・・・)」
「ちっこいのーーー」(ガバッ)
「けぺっ」(逝った)
「何だ!?今とんでもない声がしたぞ!?」(桃)
「ちっこいの? アレ? ちっこいの?」
菊丸はハルの躰を揺すっているが、首がカクカクと力無く揺れるだけだった。
「はっ!!」(戻ってきた)
「・・・き・・・菊丸さん・・・
ハグしてくれるのは嬉しいですが、
いきなり力一杯というのは如何なものかと・・・・・
危うく戻って来れなくなる所でした・・・ ゼハー ゼハー 」
「あはは・・・ごめんにゃ。つい。
ちっこいの。いっぱい変なこと言ってごめんにゃ。
なかなか楽しかったぞ! アリガトにゃ」
「いいえ。
ボクの方こそ皆さんと出逢えて良かったです。
それじゃ皆さん。 扉へどうぞ」
ハルは笑顔でみんなを扉へと促した。
皆が扉に入ると、
「あちらの世界でも頑張ってくださいね!
ボク、応援してますから!ずっとお祈りしてますから!
さよーならーーー」
ハルはそう言いながら扉を閉めた。
扉が完全に閉まると、あたりが光に包まれ、
光に吸い込まれるように全員が意識を手放した。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆
頬をなでる風の心地よさの中で目を覚ました。
最初に見たのは、鮮やかな緑だった。
覚醒しない意識のまま「何だろう」と見ていると、
木々の緑だと理解できた。
むくりと躰を起こす
ついた手には芝生の感触。
『あれ・・・? オレは・・・ オレ達は・・・』
海堂はあたりを見渡した。
そこには見慣れた風景が広がっていた。
『あれは・・・夢・・・?』
隣には皆が横たわっていた。
次々に目を覚ますレギュラー達・・・
皆 「よく寝た」 と言わんばかりに伸びをしている。
最初に口を開いたのは菊丸だった。
「ふあ〜。
・・・オレさー、何か不思議な夢みたよ。
知らない世界で冒険したの。
テニスしたり、料理したりさー
そこには知ってるヤツとかけっこーいてさー。
変な世界だけど、楽しかったにゃぁ〜」
菊丸はとてもスッキリした顔をしていた。
皆は口々に「俺もそんなカンジの夢を見た」と話している。
「へぇ〜。
すっごい偶然だねー。
あっそうだ!
い〜ぬ〜い〜!!」
見渡すがそこに乾の姿はなかった。
キョロキョロと全員が乾の姿を捜していると、
「あ。気がついたようだな」
後ろから乾の声がした。
手にドリンクボトルと紙コップを持ち、皆に向かって歩いて来る。
無言で青くなるレギュラー達。
それに気付いた乾は、少し困ったような顔をした。
「そんな顔しなくても・・・
コレはフツーのアクエリアスだよ。 飲むだろ?」
確かに喉が渇いている。
ずっと眠っていたのだから当然だ。
「ぷっはー。うまーい。
乾ー。もうあんなヤバイの飲ますなのなー。」
ムクれた菊丸に、乾はなだめるように言った。
「悪かったよ。
こんなに長時間目が覚めないほどのものだとは思わなかったんだ。
申し訳ないと思ったから、こっちの木陰に運んだんだ。
許してくれよ。」
「今回だけだからなー。
あーっ! もうこんな時間じゃーん。
手塚ぁ〜 今日はもう帰ろうよー」
手塚も疲れていたのだろう。今日はもう解散ということになった。
何だかんだ言っても、仲の良いレギュラー達。
何一つもめることなく全員が部室へと向かった。
その中で海堂は一人、夢のことを考えていた。
『あれは・・・ただの夢なのか?
・・・・・でも・・・・・』
「夢じゃないよ」
海堂が顔を上げると、先を歩いていた乾が足を止めて振り返り、
優しく微笑っていた。
「センパイ?」
海堂が足を止めると、乾は海堂に歩み寄り、耳元に囁いた。
「言ったろ?忘れないって。
なぁ・・・ 『海堂さん』 ?」
「!?」
海堂が驚いて固まっていると、
「冒険の間、いろいろ庇ってくれてアリガトな」
乾は更にそう付け足した。
「アンタ・・・いったいナニ者だよ・・・?」
思わず呟いた海堂に、乾は人差し指をピンと伸ばし、自分の口元にあてた。
「・・・・・ヒミツ・・・・・」
そして乾は不適な笑みを浮かべると、「いいデータが取れた」とひとりごちて身を翻し、
部室へと向かって歩き出した。
『もしかしたら本当に怖いのは、
不二先輩じゃなくてあの人なんじゃねぇか?』
そして一番危険なのは、その乾に囚われている自分何じゃないだろうか・・・
海堂はそう考えながら乾の背中を見送った。
やっと完結しました。
間にスランプを挟んだので、何か変な終わり方になってしまいました。(ゲフッ)
コレ書き始めたのってずいぶんまえだもんなぁ(遠い目)
きっとこんな終わり方にするつもりじゃなかったんだろうなぁ(更に遠い目)
仕方ないか・・・
おいらの実力こんなもん・・・(撃沈)