Südliche Kreuz
とある別荘の窓辺で海堂は海を見ていた。
水面に映る星が煌めく夜の海がムカツクくらいに美しい。
こんなに美しい海を 「ムカツク」 という表現もおかしいのだが、
なにしろ只今海堂はキゲンが悪い。
ムスッとしたまま海を見ていた。
「いーかげんにキゲンなおせよ」
「・・・・・」
その言葉に一度は振り向いた海堂だが、すぐにまた視線を海に戻して小さく溜息をついた。
『・・・・・はぁ・・・・・
何でオレ・・・ココにいるんだろ・・・・・』
理由は12時間前まで遡る。
海堂はいつも通りに部活に出た。
次の日も同じ一日だと思っていたのだが、コート整備が急遽行われることになり、
明日から5日間部活が休みになってしまった。
部活がないのは残念だが、決まってしまったことは仕方がない。
海堂はいつも通りのトレーニングをしようと考えながら家に向かっていた。
学校を出て少したった頃、目の前が急に暗くなった。
「ん?」
顔を上げると、そこに樺地が立っていた。
『・・・ヤな予感・・・』
そう思った瞬間、樺地は「ウス」と言って海堂の視界から消えた。
そして海堂の躰が浮く。
つまり・・・・・
「うあっ? またかよ。おろせっ!」
海堂は樺地の肩に担がれた状態になったのだ。
肩で暴れる海堂を全く気にせず、樺地はズンズンと歩き出した。
そして黒い車まで来た時、やっと海堂は解放された。
「よぉ 薫」
「・・・・・「よぉ」じゃねぇ・・・・・」
「暑いだろ?早く乗れよ」
『・・・・・ったく・・・・・
全然人の話聞いてねぇ・・・・・』
海堂は諦めて車に乗った。
「じゃ 樺地。帰っていーぜ」
「ウス」
「ちょっと待て。
送ってやらねーのかよ?ココまで連れて来といて」
「時間がねーんだよ。 出せ」
「? ? ?」
何もかもが突然で訳が分からない状態の海堂を乗せ、車は走り出した。
そしていろいろと交通手段を替えて現在に至る。
「・・・・・はぁ・・・・・」
海堂は今日何回目になるか解らない溜息をついた。
「薫」
振り向くと、海堂をココに連れてきた当の本人はあたたかい紅茶でまったりしている。
「冷たいお茶」ではなく「あたたかいお茶」なのだ。
『夏休みのハズなのに・・・・・』
そう。
今の季節は全国的に夏休みである。
日本の夏といえば、ジリジリと肌を焼く熱い日差しと暑い気温。
室内では冷房をきかせて冷たい麦茶などを飲む。
それが日本の夏。
なのにココは・・・・・
外は寒い。
室内には暖房。
そして飲むのはあたたかい紅茶・・・・・
ココは・・・・・
冬だった・・・・・
「たまには前もって予定を組ませてくれよ」
「あーん? 仕方ねぇだろ?
コート整備で部活が休みって決まったの今日だったじゃねーか」
『なんで知ってる?』
この男の情報網はいったいどんなものなのだろうか。
「でもだからって・・・」
「俺様だって 「夏の想い出」 ってヤツをお前と作りてーんだよ」
恋人にそう言って貰えるのは嬉しいが、素直に喜べない。
何しろ場所が場所だ。
海堂はつい声を荒くしてしまった。
「だからって何もいきなり 「オーストラリア」 に来るこたぁねーだろ?
日本でも良かったじゃねーか!」
海堂が連れてこられたココは、オーストリアはパースにある別荘だった。
「あんなジメジメしたところにいて何が楽しい?
歩くだけでジットリ汗をかくようなトコになんかいられっかよ。
どこに行ったって暑いだけだぜ?
だったら反対側まで来るしかねぇだろぅ?」
ものすごい理屈である。
海堂が何を言ってもこの男には通じない。
何しろ 「俺様」 な跡部なのだから。
「・・・大体オレのパスポートはどーしたんだよ」
「お前とオーストラリアに行くから貸してくれって言ったら穂摘さんが貸してくれたぜ?」
海堂ママは礼儀正しくて紳士的な跡部をかなり気に入っている。
信頼もしている。
その跡部の言葉を疑う理由はどこにもない。
あっさりとパスポートを貸したのだった。
海堂の着替えと、「お土産待ってるわよv」という言葉もつけて。
「作ってあるだろうと思ってたが、
無かったらどーしよーかと思ったぜ。 ははは」
『「ははは」じゃねーーー!』
海堂はとうとうガックリと項垂れ、背を向けてしまった。
「・・・・・少しはオレの都合も考えてくれよ・・・・・」
予定があったわけではない。
来るなら来るでちゃんと用意したかったのだ。
それにたまには「あと何日で・・・」というドキドキ期間も欲しい。
跡部はいつも急すぎるのだ。
跡部は黙ってしまった海堂を後ろから抱きしめた。
「悪かったよ・・・ でもな。
どうしてもお前とここに来たかったんだ。
それに・・・見せたいものもある・・・ こっちだ。」
跡部は海堂の手を引き、寝室へと向かった。
寝室のドアを開けた海堂は思わず息をのんだ。
そして引き寄せられるかのように窓辺へと歩く。
目の前に広がる景色の迫力に足が震えた。
それはもちろん恐怖ではない。
どこまでが海でどこからが空なのかわからない。
それどころか自分が立っている場所さえもわからなくさせる景色。
跡部はこれを見せたくて海堂を此処に連れて来たのだ。
ドアがある壁以外は全て特殊ガラスの部屋・・・
パースは景色が美しい。
中でも星空は最高に美しいところだ。
星は空気の澄む冬がより美しい。
だがずっと外にはいられない。
ならば天井すらガラスで作ってしまえばいいと、
跡部らしい発想でこの部屋は作られたのだ。
もともと此処は海堂と過ごすことを目的に作られた「跡部景吾」個人の別荘なのだから。
「すげぇだろ?」
跡部は海堂を後ろから抱きしめて一緒に外を眺めた。
「すげぇ・・・・・」
素直に感動する海堂が可愛くて、もうひとつプレゼントを贈る。
「ここはな。景色が美しいだけじゃなく、動物園なんかが結構あるんだぜ。
コアラとか、抱きたいだろぅ?
明日・・・行こうな。
・・・だから、キゲンなおしてくれ」
跡部の言葉に海堂は小さく微笑った。
もうキゲンもなおっていたし、ココまで自分のことを考えてくれることが、
本当に嬉しかったから。
海堂は回されていた腕を外し、跡部に抱きついて呟いた。
「ん・・・ ゆるす・・・」
顔を見せないように呟く海堂の可愛さが、跡部の「男」を刺激した。
自分の肩に顔を預けたままの海堂の躰を少し離し、顎に手を添えて軽く持ち上げる。
跡部は真っ赤な顔をしている海堂の、ひたいに、まぶたに、ほほに、次々と口吻た。
やがて唇にたどり着き、「想い」を重ねる。
それは「とても幸せだ」と思える瞬間。
そして触れるだけの優しい口吻は、だんだんと深く、情熱的なものに変わっていき、
いつしか舌を絡ませ、相手を求める激しいものに変わっていった。
「ふ・・ぅ・・・んぁ・・・は・・・ぁ・・・・・」
上手く息を紡ぐことの出来ない海堂から零れる悩ましい声は、跡部を熱く燃えさせた。
今にも崩れ落ちそうな海堂の躰を抱き留め、
その息すら己のものにするために、さらに深く求める。
「好きだ・・・薫・・・」
跡部の唇が離れたとき、海堂は一人で立っていられなくなっていた。
「薫・・・少しだけ歩けるか?」
跡部にもたれて立つ海堂を優しく抱き留めながらベッドへ向かい、
海堂の躰をぐるりと回転させ、ベッドへ横たえた。
隣についた跡部は上半身を起こし、包むような体勢で海堂の艶やかな黒髪を梳きながら、
また口吻を落としてゆく。
髪を梳かれる感触が心地よいのか、海堂の顔はうっとりしたものに変わっていった。
その表情に気をよくした跡部は、梳いていた手を胸元へと移し、器用にボタンを外してゆく。
全てのボタンと外し終えると、仰向けのままの海堂の躰を自分の方へと向かせながら、
その躰を俯せた。
くびすじに、肩に、背中に、いくつも口吻を落としたあと、
美しい曲線を描くなめらかなその肌に指先を滑らせた。
首の付け根から腰のあたりまでの間を、何度も上から下へと滑らせる。
「ん・・・あ・・・あぁ・・・・」
跡部の指はただその背を滑っているだけ。
刺激を与えているわけではない。
だが・・・
「あぁ・・・んっ・・・ふぁ・・・・・」
愛しい者の手は時としてとてつもない凶器になる。
海堂は背中に狂おしいくらい甘美な感覚を味わっていた。
与えられる快感に躰を震わせ、その瞳には生理的な涙をためていた。
声を抑えながら快感に耐える海堂は目眩がするほど可愛かった。
跡部は小さく微笑み、背中の中心に口吻をすると、今度はその躰を仰向けにした。
見つめ合い、唇に想いを乗せて愛を伝えあう。
言葉だけでは足りない想いも、こうすれば確実に伝えられる。
何度も何度も互いを求めあう。
跡部は唇を離し、妖しい笑みを浮かべた。
「抑えるなよ。もっと聴かせろ。
俺しか聴けないイイ声をよ」
そう言うと跡部は躰をずらし、胸に刺激を与えた。
「あうっ」
片方を舌と唇で、片方を指で強い刺激を与えてゆく。
「やあっ・・あぁ・・・」
快感に耐える海堂の腕は、自然と跡部の頭を抱く形になる。
その行為が跡部を更に煽ることを海堂はわかっていない。
跡部はその場所を執拗に責め立てた。
「も・・・ぉ ヤダッ・・・け・・・ご・・・んぁっ・・」
いつしか海堂の瞳からは涙が流れ出していた。
それほど跡部の与える刺激が強いのだ。
跡部はその場所から唇を離し、海堂の顔をのぞき込んだ。
「ククッ お前はこういう時じゃねぇと名前を呼んでくれねーよな。
・・・でも・・・悪くねーぜ。 かなりクる」
海堂はなにやら悔しくなって跡部を睨め付けた。
だが、今の海堂の瞳にはいつもの迫力はない。
快感に潤んだ瞳で睨んでも、誘っているようにしか見えない。
跡部は海堂のこういう所にゾクゾクとした快感を覚えた。
いつもどうりに睨んでいるつもりでも、甘く、快感に潤んだ瞳。
刺激を与えるたびに見せるそのとろけそうな表情。
そしてその声。
このどれもが跡部だけが見ることの出来る、聴くことの出来るものなのだから。
「薫・・・お前は俺のものだ・・・」
そう言って跡部は口吻を落とし、手を海堂の腰にはわせた。
海堂は唇を離すと、跡部の着ているシャツの胸元をキュッと握った。
「・・・けぇごも・・・脱いで・・・」
抱き合って肌の温もりを感じたいのに、シャツがそれをジャマする。
「・・・あぁ・・・」
跡部は小さく微笑んで服に手を掛けた。
自分のものも、海堂のものも、二人を遮る布は全て外した。
抱き合うと、互いの肌の熱さが心地好い。
海堂はうっとりとした表情で跡部に抱きついた。
海堂は「行為」そのものよりも、口吻や抱擁が好きなのだ。
跡部を抱きしめて、抱きしめてもらう。
跡部が「自分のすぐ近くにいる」と感じられることが嬉しいのだ。
そんな海堂を跡部はたまらなく愛しいと思う。
跡部は海堂をより深く自分のものにするために、「海堂自身」に手を伸ばした。
「んあっ!!」
突然の強い刺激に海堂のしなやかな躰が大きく仰け反る。
跡部の手は「海堂」を優しく包み、ゆるゆると上下に動いた。
同時に胸に口吻る。
「あうっ・・・あっ・・・・」
切ない声が海堂の口から次々と零れる。
もう声を抑えようとする余裕など無かった。
跡部はサイトテーブルの引き出しから「ひとつになるためのもの」を取り出し、
海堂の奥へと塗り込む。
初めてではなくても、本来「行為」には使わない場所だ。
ゆっくりと解さなくては怪我をさせてしまう。
それでなくても受ける負担はあまりに大きいのだ。
跡部はゆっくりとその場所に指を滑り込ませた。
「あっ・・・あーーーっ」
海堂のその声だけで「跡部自身」も張りつめてゆく。
だが焦らず、ゆっくりと解し続けた。
痛くないように
傷つけてしまわないように
感じてもらうために
ひとつになるために
「んあっ・・・もっ・・・け・・ごぉっ・・・あぅ・・早くっ」
海堂の奥が柔らかく解れ、そこに快感が生まれたのを確認すると、
跡部は指を抜き、素早く「自身」を覆った。
そして海堂の脚を持ち上げ、「自身」をあてがう。
「薫・・・挿れるぞ・・・」
「・・・ん・・・」
跡部はゆっくりと腰を進め、海堂の中へと入ってゆく。
十分に愛されたそこは、痛みもなく「跡部」を受け入れた。
「自身」を全て納めても、跡部はすぐには動かなかった。
焦らしているわけではない。
二人ともこの瞬間が好きなのだ。
ひとつになれた瞬間が。
瞳を合わせ、瞳で伝え、唇に伝える。
一番好きだということを。
そしてゆっくりと跡部は腰を動かす。
「あっ・・・あぁっ・・・」
跡部の動きに合わせるように海堂から嬌声が溢れ出す。
「ほらっ・・・もっと・・・クッ・・ハアッ・・・「景吾」って・・・よべ・・よっ・・・」
「んあっ・・あうっ・・・けーご・・・けぇごぉっ!」
「好きだっ・・・薫・・・クッ・・おまえ・・・だけだっ」
「オレもっ・・・んっ・・好き・・・だっ・・・あぅっ・・けぇごしかっ・・・はあっ・・・いらないっ!!」
跡部の動きがだんだんと早くなる。
お互いに限界が訪れた。
目の奥にフラッシュをたかれたような感覚に襲われたあと、
二人は同時に 果てた
ぐったりと脱力した躰を星が照らしている。
海堂は見上げる空に、ある星を見つけた。
あの形は・・・・・
「なぁ・・・アレって「南十字星」?」
海堂は見つけた星を指した。
跡部は海堂が指した先を見て、小さく微笑った。
「残念。アレは「ニセ十字」。
本物はあっちの小さい方だ」
南十字星の隣には、「ニセ十字」と呼ばれる十字座がある。
間違えやすいやっかいな星だ。
「ふーん。
十字星にも本物と偽物があんのか・・・」
「薫・・・。
俺が見せたかったのはアレだ。
作られた十字架はいつか壊れる。
俺は終わりあるものに誓う気など無い。
だけど、あの十字架は別だ。
遙か昔から・・・遠い未来まで輝き続ける。
俺はお前との未来をあの十字架に誓うために此処に来たんだ。」
とても真摯な瞳で十字星を見つめ、想いを語る跡部の横顔を見て海堂は思う。
この人を好きになって良かった
と・・・
「オレは男だから・・・」と、未来に不安を感じていた海堂。
「いつか終わりが来る。そのときオレはどうなるだろう」と、怯えていた海堂。
跡部を好きになればなるほど濃くなる心の影・・・
だが、今の言葉でそんなことを考えていたことがバカバカしく思えた。
どんな未来になるのか
それは二人が決めること。
跡部の傍にいれば、「絶対大丈夫」だと思えてきた。
海堂は柔らかく微笑った。
「オレも・・・あの十字架に誓う」
「薫・・・。
いつまでも離れないと約束しよう」
「あぁ。
・・・それともうひとつ・・・」
「あーん?」
「・・・・・明日、コアラんトコ行くの、忘れンなよ」
「ハハッ あぁ 「約束」だ」
二人は微笑って抱き合い、口吻を交わし、そして
天空の十字架に変わらぬ愛を誓った
† † † † † † † † † † † † † † † † † † † † † † † † † † † † †
ついにやってしまいました。初エロです・・・
そんで、8月初頭の設定なのです。もう末ですが・・・
そんなカンジで読んでくださると嬉しい。
エロって難しいねぇ。
でも、センパイとは全然浮かばないんですよ。コレが。
乾海はあくまでほのぼので。
跡海はなんかエロいのよねぇ・・・
「マイナーCP」と言われようが、「接点無いじゃん」と言われようが、
跡海ラヴ!
南十字星のことは一応調べて書きましたが、全部信用しないように(笑)