純粋な愛し方・・・・・










乾が店から出たのを確認すると、不二が小さな溜息をついた。
実は今日のことは二人で決めたことだったのだ。






 「跡部・・・・・
  あんまり乾を苛めないでよ・・・」




 「あ〜ん?
  ヤツにはアレくらいでちょうど良いんだよ。
  理論とか理性とか、そんなくっだらねーことが先に来るタイプだからな。
  ギリギリまで追い込んで殻を割らなきゃ動けねーんだよ」




 「まぁ確かに乾はそーゆータイプだけど・・・」






不二は「だからって何もあそこまで追い込まなくても・・・」と思いながら先を続けた。






 「・・・ねぇ跡部。

  海堂が氷帝に行くって言ったらどうするの?」




 「もちろん来てもらうさ。
  あれだけの強い精神を持ったヤツ、他には知らねぇ。
  ウチの部の連中にもいい刺激になるハズだ。
  
  ・・・・・それに・・・・・

  言ったろ?
  俺様はアイツが結構気に入ってんだよ。
  

  他人のことより自分のことはどうなんだよ。
  お前らは大丈夫なのか?」




 「ボクの可愛い『気まぐれにゃんこ』のこと?
  大丈夫だよ。
  彼は海堂と正反対でたくさん〈言葉〉をくれるからね。

  ・・・・・たくさんすぎてたまに解らなくなる事もあるけど・・・・・」




 「揃いも揃ってお前らは・・・・・
  何でそんな辛い「恋」をするんだ?
  やっぱ「女」だろ?」




 「確かにボク達は公には出来ない「恋」だね・・・・・」






不二は淋しそうに微笑んだ。
そして窓の外に視線を送り、〈言葉〉を続けた。






 「・・・・・でも・・・・・

  男が女を、女が男を好きになるのが当たり前なんて、ダレが決めたことなのかなぁ?
  ボク達は外見で相手を好きになったワケじゃない。
  『男』が好きなワケでもない。
  相手がたまたま『同性だっただけ』だよ。

  ・・・・・それは・・・・・そう・・・・・」






不二は視線を跡部に向け、不敵に微笑った。
真っ直ぐな視線で微笑むその顔には、誇りすら感じられた。

そしてその笑顔のまま〈言葉〉を紡ぐ。





 「『心』とか『魂』そか、そういうものに惹かれあってるんだよ。
  互いの『相手』だから好きになった。
  そこには性別なんて無意味だよ。
  異性を好きになるのが当たり前なんて、
  遺伝子に組み込まれた記憶の所為だよ。
  子孫を残すためのね。

  ボク達は『それ』に従わなかっただけだよ。」




 「そーゆーモンなのか?」




 「じゃあ こう考えてみてよ。
  例えばね。ボク達は相手が何かの理由で『女』になってしまっても、
  変わらずに好きでいる自身があるよ。
  男でも女でも、そんなの関係ないから。
  
  ・・・・・でも・・・・ 他の人達はどう?

  恋人がいきなり『同性』になったら、その人達はお互いを好きでいられるのかな?
  たぶんいられないと思うよ?

  ほら。
  それは『異性』だから好きなんであって、


  『その人』を好きだったわけじゃないってことでしょう?」




 「・・・・・まぁ そう言われれば解らねぇワケじゃねーけどよ・・・・・

  ・・・・・そうだな

  そう考えたら『心』が惹かれる唯一人を見つけられたお前らは・・・


   『倖せ』 なのかもな・・・・・」




 「『かも』じゃなくて、倖せなんだよ。」




 「そーかよ」






不二はクスリと微笑い、跡部はも穏やかに微笑った。










 「・・・あの二人、大丈夫かな・・・?」






思い出したように呟いた不二に、跡部が微笑って答えた。






 「あーん?大丈夫だろ?
  俺様が背中を押してやったんだぜ?」




 「・・・・・突き飛ばしたんじゃないの?」




 「・・・・・言ってろよ」




 「誰よりお互いを必要としあっているのに、
  決して相手に頼ろうとしない。
  だからつまらない誤解を招く・・・・・

  不器用なんだよね・・・あの二人は・・・・・」






そう言って不二はお茶を飲んだ。



跡部はただ黙っていた。














 「キミも・・・不器用だよね・・・・・」






ほんの少しだけ続いた沈黙は、不二の小さな声が終わらせた。






 「あーん?」




 「さっきのセリフ、そのまま返すよ」




 「・・・・・何のことだ?」




 「『辛い恋をする』ってトコ」




 「・・・・・言ってるイミがわからねぇなぁ。

  俺様は『恋』なんかしてねぇぜ?
  相手にも不自由してねぇ。
  俺様を「好きだ」と言ってくる女はゴマンといるしな」




 「・・・・・それで心は満たされてるの?」




 「・・・・・・」




 「ウソつきだね。 キミは。
  ボクの目は誤魔化されないよ。

  さっきのセリフ・・・・・『女』だろって、キミがそう思いたいだけなんでしょ?
  『俺は女が好きだ』って思いこみたいだけなんでしょ?

  そんな女達のことなんかどうでもいいと思ってるクセに!!」




 「不二・・・」




 「本当に辛いのは・・・

   『相手に〈想い〉を伝えること』が出来ない
 
  キミなんじゃないの!?」




 「お前・・・  何を知ってる?」




 「知らないよ。何も。

  ボクはただ「視てる」だけ。
  いろんなことが解るんだよ。人の「表情」とか「目」っていうのはね。
  気付いてなかった?
  キミの「表情」も「目」もコロコロ変わってること。」




 「いつ・・・・・気付いた?」




 「あれ?って思ったのは、電話で今日のことを頼んだとき。
  海堂の声が出ないって言ったら凄く怒ったでしょ?
  アレ、本気だったよね?

  『乾のヤローがなにした』

  って。
  海堂 =(イコール) 乾  なんて構図は、海堂をよく知ってなきゃ浮かばないでしょ?
  

  確信を持ったのはさっきだよ。
  海堂と一緒にいたキミはとても穏やかだったのに、
  乾を見た瞬間険しい顔になった。敵意むき出しだった。
  乾を挑発することばかり言ってたしね。」




 「アレはアイツを傷つけたからだ」




 「・・・・・ねぇ跡部。

  協力してって言ったのはボクの方だけど・・・  いいの?」




 「何がだ?」




 「さっきのも本気でしょ? 『欲しいもの』 って。
  仲直りしたらキミの元には来ないよ?」




 「俺のアイツへの〈想い〉っていうのは、お前の考えてるものとは少し違うんだ。
  
  ・・・・・なぁ 不二。
  お前は好きなヤツが出来たらどうする?」




 「手に入れるよ。 どんな手を使ってもね。
  その相手が困るようなことだけは絶対にしないけど。」




 「まぁ そーだろうな。
  俺も同じ考えだ。

  だが・・・アイツの場合は違うんだよ」




 「どうちがうの?」




 「俺はな。 アイツはアイツであって欲しいと思ってる。
  アイツらしくあれる場所があるならそこにいてもらいたいと思う。
  もちろんその場所を作ってやれるのが俺なら嬉しいが、
  望む相手がちゃんといるなら、そいつと倖せになって欲しいんだ。
  辛そうな顔なんかしてないで、微笑っていて欲しい。
  ただ見護っていたいんだよ。」




 「跡部・・・」




 「だからアイツを苦しめた乾が憎いと思う。
  でもな。
  アイツが望む相手は唯一人・・・

    『乾』

  なんだ・・・
  傍にいてやって欲しいとも思う。
  
  ・・・・・まったく厄介だろう? この 『ジレンマ』 ってヤツはよ」




 「ゴメンね跡部。訂正するよ。
  キミのは『辛い恋』なんかじゃない。
  キミのは・・・

    『究極の愛』

  だね。」




 「ハッ  そんなリッパなもんじゃねーよ」






跡部は小さく微笑った。
それはとてもやわらかな笑顔だった。



その人の倖せを願い、その人のことを想うだけで心が満たされる。

その人の倖せそうな笑顔を見るだけで自分も倖せだと思える。



きっと・・・・・



きっとそれが・・・・・





   純粋な愛し方・・・・・・