Geburtstag zwei  −3−





食事が終わり、後片づけの為に乾はリビングを離れた。
海堂は乾が戻ってきたらちゃんと言おうと心の準備をしていた。


乾が片づけを終え、紅茶を持ってリビングに戻ってきた。


 「今日は本当にありがとう。
  久しぶりに楽しい食事だったよ。」


 「オレの方こそ誘ってもらって嬉しかったッス。
 
  ・・・・・コレ・・・・・」


海堂は頬を紅く染め、紙袋を差し出した。
それを受け取り、中を見た乾は思わず自分の目を疑ってしまった。


 「海堂・・・コレ・・・」


入っていたのは、さっき買ったケーキだった。


 「センパイ今日誕生日っスよね。
  ホントはもっと早く渡そうと思ってたんスけど、タイミングがつかめなくて・・・」


乾は海堂を愛おしそうに見つめ、「開けていい?」と聞いた。
海堂は黙ったまま頷いた。



箱を開けた乾はさらに驚いた。
チョコレートプレートに自分の名前が書いてあったからだ。

いつも「センパイ」だけで「乾センパイ」と呼ぶことすら多くなく、
悪くすれば「アンタ」と呼ぶ海堂が、名前を入れてくれている。
真っ赤になって注文する海堂の姿が目に浮かぶ。


 「海堂。素敵なプレゼントをありがとう」


穏やかに微笑った乾に海堂は、


 「それだけじゃないっス」


と、綺麗にラッピングされた細長い箱を渡した。


やわらかく微笑う海堂を抱きしめたい衝動に駆られながらも必死に冷静を装い、
ゆっくりとリボンを解いた。

箱の中には、海堂が悩み抜いて選んだ束縛の証、


銀色に輝くチョーカーが入っていた。


 「海堂ありがとう。俺は幸せ者だよ。
  ホント言うと、今日が俺の誕生日だと知らないんじゃないかと思ってたんだ。
  ・・・・・俺は何度も「好きだ」と言ってるけど、
  お前がそうだと言ってくれたことはないし、今日も指環、してくれてないだろ?
  もしかしたらメーワクなんじゃないかって思ってたよ」


そう言った乾に、海堂は自分のチョーカーを見せた。


 「ちゃんとしてる」


チョーカーの先には銀色の十字架と一緒に、同じ色の指環が光っていた。



 「何かオレに出来ることありますか?」


微笑む海堂に、乾はイタズラな笑みを浮かべた。


 「キスしたい」



海堂は暫く固まってしまったが、乾から視線を逸らして「断る」と答えた。


 「やっぱり俺のこと好きじゃないんだ〜」


願いを却下された乾は膝を抱えて拗ねてしまったが、
困った顔をしている海堂をチラリと見て優しく微笑った。


 「仕方ないか。
  ムリにすることじゃないしな」


言いながら乾はチョーカーをつけた。


 「ありがとう海堂。
  俺、海堂を好きになって本当に良かったよ。
 
  ・・・・・ねぇ海堂。
  これくらいは許してくれないかな?」


乾は隣に座り、海堂の頭を優しく自分の胸に引き寄せた。


 「大好きだよ・・・海堂・・・」


そして乾は海堂の額に愛おしそうに口吻た。





それから二人は乾が借りてきた映画
(海堂が好きそうなものを選んできた)を見て過ごした。
夜早く寝てしまう海堂は、10時を過ぎると少し眠そうにしていた。


 「海堂。眠いの?」


 「・・・・・ん・・・・・」


乾は可愛く答えた海堂の頭を軽く撫で、「ちょっと待ってて」と言い残し、
部屋に布団を敷きに行った。


乾が戻ってくると、すでに海堂は眠ってしまっていた。
気持ちよさそうに眠っているのを起こすのは可愛そうだと思ったが、
風邪をひかせてはいけないので、乾は海堂を起こした。


 「ホラ。布団で寝ないと風ひくよ」


 「ん〜〜〜・・・・・」


眠くて堪らないカンジの海堂は、乾の理性を壊すほどに可愛かった。



眠がる海堂を部屋に運び、布団に寝かせ、電気を細くした。
自分も寝ようとベッドに入った乾だったが、
愛しい海堂が隣で眠っているということが嬉しくて、なかなか寝付けなかった。
海堂が隣で眠るのは2度目だが、やはり慣れない。
愛する人が隣で眠っていたら襲いたくなるのが普通の男なのかも知れないが、
乾の場合はとてもとても海堂を大切に想っているので、
【欲望】を【想い】が抑えてしまう。
愛おしそうに海堂の寝息を聞いているだけだった。




眠れぬ時間がどのくらい過ぎた頃だろうか。
海堂がムクリと起きあがった。
寝ぼけてるのかと思い、乾は眠ったフリをしていた。

小さな灯りの中、海堂は乾を見つめている。
枕元に寄り、乾の寝顔を見ていた。
眠ってしまっていると思うから取れる行動だった。


海堂は、眠る乾に話しかけた。


 「オレがどれほどアンタを好きか、わかってないだろ?」


海堂が乾に「好きだ」と言われてから、どのくらい時が過ぎただろう。
緩やかな時間は、海堂の気持ちも確かなものに変えていった。


   「好きだ」という

          やさしい気持ち・・・・・


 
寝息を立てる乾の前髪をそっとかき上げた海堂は


 「まだちゃんと言ってなかったな。
  誕生日おめでとうございます。貞治さん」


乾の額に優しく愛しく口吻た。



突然の告白とキスに驚きながら、乾は必死で寝たフリをしていた。

今すぐ海堂を抱きしめたかったが、海堂の想いを大切にしたかった。
プレゼントを渡すだけであれ程紅くなっていた海堂だから、
今の行動に乾が気付いていたと知ったらどうなるかわかったものではない。
気付かないフリをしているのが最良だと乾は思った。


布団に潜っている海堂に愛しさを馳せ、
乾は幸せな気持ちで眠りについた。





   ◆     ◇     ◆     ◇     ◆





優しい光の中で海堂は眠りから覚めた。
毎朝トレーニングのために早起きをする海堂だったが、
緊張しすぎて疲れていたのか、いつもよりも遅い目覚めになってしまった。
覚醒しきらないままベッドに視線を送ると、そこに乾の姿はなかった。
海堂は慌てて布団をたたみ、着替えをしてリビングに行った。


乾は朝食の準備をしていた。


 「やぁ おはよう。よく眠れたかい?」


乾はいつもと変わらぬ笑顔で海堂を迎えた。


 「おはようございます」


 「顔を洗っておいで。その間に用意しておくから」


挨拶をした海堂に、乾は洗面所を指してふわりと微笑った。




洗面を終えた海堂が戻ると、テーブルに朝食が並べられていた。
トーストにオムレツにサラダ・・・
そして海堂を驚かせたのは、いつも食べている
 【アロエヨーグルト】
があったことだ。
同じものを食べてるんだと思った海堂だが、
乾の前にはそれがないのに気付き、不思議に思った。


 「アレ? センパイ・・・ヨーグルトは?」


 「ん? あぁ  それは海堂が食べるから買ったんだよ。
  俺はあまりヨーグルトを食べないから」


乾はさらりと微笑った。
自分の嗜好を知ってくれているのかと、海堂は嬉しくなった。


 「なんでオレの食べてるモンまで知ってンスか?」


疑問をぶつけてみると


 「何でって。俺が知らないとでも思ってたの?
  ま・冷めないうちに食べようよ。」


またさらりと流された。
海堂は乾のこーゆー余裕綽々な所が少々ムカつくのだが、
そういう乾を「好きだ」と思う自分がいることも確かなので、
かるく乾をにらみ、「いただきます」と食事を始めた。
乾はそんな海堂を「可愛いなぁ」と思いながら見つめていた。




練習の出掛ける時間になり、靴を履く海堂を、乾が後ろから抱きしめた。


 「ちょっ 何スか?」


乾は驚く海堂の耳元に囁く。


 「・・・行ってきますの〈チュー〉はしてくれないの?」


 「なっ・・・ふざけたこと言ってンじゃねぇ!」


海堂は真っ赤になって右手を握った。


殴られると思い目を閉じた乾の頬に、予想した痛みはなかった。




 「・・・行ってきます」


ポソリと呟いた海堂は、乾の頬に優しく口吻た。



茫然とする乾に


 「先に行くッス!」


と投げ、海堂は玄関を出ていった。


へたり込んだ乾は、やわらかな感触の残る頬に手をやり、


 「まったく・・・かなわないよ、お前には・・・」


と呟き、先に出た海堂を追って、家をあとにした。









   『海堂を好きになって本当に良かった・・・・・』

  








  

 


お誕生日おめでとうございます!センパイ

ほのぼののハズが、甘甘ラヴラヴになってしまった。
まぁ 年に一度の誕生日くらい、こーでなくちゃ!
前回(eins)ではセンパイをいぢめちゃったし・・・ こんなのもたまにはいーよね

そーいえば。
本日04.06.03は満月です。
センパイの〈力〉は「ルナシー」でした。
決定!!!

詳しくは vollmond をご覧あれ。