偽りの光が消えるとき
戦いが始まった。
自分の信じる「何か」を取り戻すために。
K’は「憎しみ」「怒り」をクリザリッドに叩き込んだ。
「想い」は人を強くする。
K’はまさにその状態だった。
「己のクローンに負けるハズがない」と思うクリザリッドには甘さがあった。
その甘さがクリザリッドに大いなる災いを降りかけることになる。
空気の裂ける音と深紅の飛沫のにおい。
衝撃を受けて吐き出される声にならない叫び・・・
強い光が生まれるたびに何かが焼かれるにおいがした。
そして大きな音と共にクリザリッドの叫びが部屋中に響き渡った。
「そっ そんなバカなーーーーーーっ!」
K’の最強の一撃を受けたクリザリッドは、驚愕と苦痛に顔を歪ませ・・・倒れた・・・
起きあがることの出来ないクリザリッドにK’は歩み寄った。
冷たい視線を浴びせ、ただ静かに見下ろしていた。
「・・・どうした・・・トドメを差さんのか・・・?」
「フン、どうせキサマはそのままくたばるんだろ。
最後のことなど、オレの知ったことか」
K’は冷たく言い放ち、真吾達と共に部屋を後にした。
その直後大きな爆発音が聞こえた。
クリザリッドが倒されたために、施設ごと証拠を消すつもりなのだ。
次々に爆発が起った。
壁に入っていく無数の亀裂が、建物は長く持たないと言うことを物語っていた。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆
力無く横たわるクリザリッドに人の影が重なった。
ゆっくりと近づくその影は、クリザリッドを安心させた。
「・・・・・セーラ・・・姉さん・・・」
セーラと呼ばれたその女性は、決勝戦でK’達と戦った、怒りチームのウイップだった。
「・・・・・久しぶりね・・・・・」
「会いに・・・来て・・・くれたの・・・ですか・・・?」
彼女はただ哀しく微笑う。
クリザリッドは霞み始めた瞳でウイップを見つめ、言葉を紡いだ。
「貴女に・・・聞きたかった・・・事が・・・
・・・何故・・・あの時・・・僕の・・・事・・・を・・・・・」
―――――捨てたのですか・・・?―――――
辛い記憶はクリザリッドに最後の言葉を言わせなかった。
クリザリッドが言えなかった言葉に気付いたウイップは静かに答えた。
「・・・・・私は、自分の過去を捨てたかったの・・・
貴女と一緒ではそれは叶わないと思ったわ・・・・・
それに・・・貴男は私の弟ではなかった・・・・・」
ウイップは辛そうに顔を背けた。
「・・・・・姉さん・・・?・・・何を・・・」
クリザリッドには理解できない言葉だった。
二人で過ごした時間があった。幼い頃からの記憶があった。
なのに姉はクリザリッドを弟ではないという。
信じられないと言うよりも、信じたくなどなかった。そんな話は聞きたくない。
しかし目を伏せたままのウイップの言葉は続く。
「あなたは何も知らないのね・・・
教えてあげるわ・・・何故あなたが弟ではないのか・・・」
―――――ヤメテクダサイ・・・ネエサン・・・―――――
「あなたは・・・」
―――――キキタクナイ―――――
「K’があなたのクローンなのではなく・・・」
―――――イワナイデ―――――
「あなたの方がK’のクローンなのよ・・・」
―――――・・・・・・・・・・―――――
真摯な姉の言う言葉だ。おそらく本当なのだろう。
クリザリッドは何故か自分でも信じられないくらい素直にその言葉を受け入れた。
『なら、この幼い頃の記憶は・・・?』
そう、クリザリッドの記憶は、組織に抹消されたはずのK’の記憶だったのだ。
『お前には何もない』
K’に向けて発した言葉が自分の胸に突き刺さる。
しかし、『二人で過ごした時間』だけは、クリザリッドのものだ。
だから
「僕が・・・K’の・・・クローン・・・だったと、しても・・・この、記憶が・・・偽物でも・・・
貴女と・・・過ご・・した、時間は・・・本物・・・だった・・・
あ・・・貴女・・・は・・・僕の・・・たっ・・・た・・・一人・・・の、姉さん・・・です・・・」
そう言ったクリザリッドは別れた頃の弟の顔だった。
「そうね・・・。二人で過ごした時間は確かに存在したわ。
あなたは私の弟なのね・・・・・」
ウイップもまた優しい姉の顔になっていた。
「ありが・・・とう・・・・・セーラ、姉・・・さ・・ん・・・・・」
クリザリッドは儚い笑顔を見せ、そして・・・・・
「さようなら・・・。私の・・・弟・・・・・」
白濁してゆく瞳の瞼をそっと閉じ、彼女は静かに涙を流した。
それは弟を喪った哀しみの涙ではなく、安らかな瞬間を迎えた弟に贈る、
祝福の涙だった・・・・・