悪夢
「?」
K’は何か気配を感じた。
『何だ?この気配・・・』
辺りを見回していると、隣で真吾が確信の持てない声で呟いた。
「・・・草薙・・・さん・・・?」
『何ッ!?」
K’は真吾の視線の先を追ってみる。
確かにあの顔は・・・
「草薙・・・京!」
K’のその声が聞こえたのか、「草薙」はK’を見た。
真吾ではなくK’を見たのだ。
そして「草薙」は不敵な笑みを浮かべ、ゆっくりと人混みの中に消えていった・・・
K’は一度だけ「草薙」を見ている。
組織の施設の中で眠る「草薙京」を。
『忘れるものか!』
「草薙」の話は幾度となく聞かされていた。
組織の中で「草薙」は「オリジナル」と呼ばれていた。
ナゼオリジナルガココニ・・・
思考が追いついていかない。
K’と真吾は「草薙」を追って走ったが、
人波に消えた「草薙」を見つけることは出来なかった。
「・・・帰るか・・・」
K’は視線を人波に向けたままそう呟いた。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆
青年を捕らえていたカプセルの電気が途絶えた。
普通の人間ならば、そのまま眠り続けていたに違いない。
しかし、青年の持つ強靱な精神は、ゆっくりと・・・だが確実に青年を覚醒させた。
静かに青年の瞳が開いてゆく・・・
カプセルから身を起こし、辺りを見回すと、見覚えのない部屋が広がっていた。
ココハドコダロウ
ナゼオレハココニイル
「ヤツ」ハドコニ・・・
考えを巡らせ、「自分」に辿り着いた。
『そうだ。俺はヤツと戦っていたハズだ。
二人ともギリギリまで戦って、相打ちになって・・・
・・・これもヤツの仕業か?
違うな。ヤツはこんな事しねぇし・・・
ならココは・・・?」
青年は危険を感じた。
「ココニイテハイケナイ」青年の本能はそう告げる。
多少頭痛がするが、動けないわけではない。戦いで負ったハズの傷は癒えている。
このまま逃げるのは気に入らないが、状況が悪すぎる。
まずはここから出なくては・・・
青年はカプセルから抜け出し、捕らえられていた部屋を後にした。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆
ホテルに戻ると、K’はすぐに自分の部屋に入ってしまった。
真吾と一緒にいたくなかったのだ。
真吾の口から発せられるであろう「草薙」の話を聞きたくなかった。
真吾が「草薙」を慕っているのは知っている。出会ったときからそう言っていた。
「草薙」のことを語らせれば、「草薙」がどれほど完璧なのかを嬉しそうに語るだろう。
考えただけでも気分が悪い。
そう、組織の中でも「草薙」の話は聞かされ続けてきた。
『完璧な「オリジナル」の力をお前に与えたのだ。
K’よ、お前も完璧でなくてはいけない。
何故「オリジナル」のような力が出せないのだ!
・・・駄目か。やはり「オリジナル」のようにはなれないのか・・・』
屈辱の日々だった。
常に「オリジナル」と比較されてきた。
「もう・・・ウンザリだ・・・」
悪いのは勝手にこんな「力」を与えた組織の連中で{草薙」ではない。
それは彼も分かっている。
だからこそ、真吾の話は聞きたくなかった。
それは「嫉妬」ではない。
「恨み」「妬み」どれも違う。
今の彼の〈想い〉を表せる言葉はこの世に存在しなかった。
そうして決勝戦前の大切な夜は、
K’に安らかな眠りを与えることなく更けていった・・・