真吾の誘い
朝食を終えたK’達はラウンジでコーヒーを飲んでいた。
K’と紅丸はブラック。真吾は砂糖とミルクを少しずつ。
マキシマは砂糖もミルクもたっぷりと入れ、さらに朝食を取ったばかりだというのにケーキまで食べていた。
「マキシマさんよく入りますねー。ご飯しっかり食べてたのに」
と感気を見せる真吾に、マキシマはにっこりと笑い
「女のコ達がよく言うだろ?甘いモノは入るところが違うってな」
などと返した。
おそらく彼の場合は本当にそうなのだろう。
見慣れているK’は全く気にしないが、
204pという大男が甘いモノを幸せそうに食べている姿に
周りの者は目を奪われていた。
「ところでみなさん。今日は試合がありませんが、何をする予定ですか?」
真吾は何か期待しているような顔で質問してきた。
紅丸とマキシマは個々に
「オレは用事があるから出掛けるよ」
「俺もだな。ちょっくら出てくる」
と答えた。
真吾は少し残念そうにしながら
「そうですか・・・K’さんは?」
今度はK’に聞いた。
「そうだな・・・オレは・・・部屋で寝る」
すると真吾はパッと顔を明るくさせた。
「特に用事がないなら一緒に出掛けませんか?」
ようするに、「誰か」と「何処か」に出掛けたかったのだ。
真吾にとって今回のKOFが初めてのチームだった。
だから必要以上に「チームワーク」にこだわる。
もともと真吾は重い雰囲気が苦手で「みんな仲良く」というのが大好きなのだ。
気持ちばかりが先走り、空回りすることも少なくない。
特にK’には年が近いことも手伝って絶大な信頼を寄せている。
最初は冷たかったK’も今では嫌がる様子を見せない。
今日一緒に出掛けたかったのは「誰か」ではなく「K’」だったのだろう。
しかしその願いはあっさりと却下された。
「何言ってンだ。昼間っから歩いてられっかよ。・・・夜ならつきあってやる」
とニヤリと笑った。
真吾が夜はあまり出歩かない事を知っていて、ワザと意地悪く言う。
「えぇー。ダメですよぉー。いくら試合がないからってー。
トレーニングのつもりで出掛けましょうよぉー。
K’さぁーん」
大会中最後の休みだ。一緒に出掛けたい。
そう思うと真吾は子犬のような目になっていた。
「K’さんてばぁー」
今日の真吾はK’が了解するまで「ねぇねぇ」言いそうだ。
「はぁ・・・」
子犬真吾にK’が負ける。
「・・・ったく。しゃあねぇなぁ・・・わかったよ」
どうやら真吾には弱いらしい・・・
◆ ◇ ◆ ◇ ◆
K’と真吾は街の中を目的もなく歩いていた。
会話はしているのだが、話しているのは真吾ばかりで、K’は「あぁ」としか言わない。
真吾はK’が自分のことを話したがらないのをよく知っている。
だから聞かない。
K’が真吾と一緒にいるのは、そう言った思いやりを持った少年だからだろう。
突然真吾が
「K’さん。見られてますよ」
と言ってきた。
何の視線を感じたのだろうか。
視線も感じない。殺意も何も感じられない。K’にはわからなかった。
「あの女のコ達、K’さんのこと見てますよ」
K’が気付かないのは当然だった。
今までずっと殺伐とした世界に生きてきた彼に、女性の視線など無縁のものだった。
「・・・・・。」
しかし、縁があると言ってところで、彼自身には全く興味のないことだった。
確かに彼は美しい。
181pの長身。鍛え上げられ、無駄な筋肉のない色黒の肢体。
整った顔立ちに、髪は輝く銀の糸。
そして見る者を吸い込むようなアイスブルーの瞳。
黙って何か考え事でもしているような表情を見せれば、確実に女性は寄ってくるだろう。
しかし彼は、目つきは悪いし口も悪い。
話しかける者がいたとしても、一瞥されるだけで退いてしまうだろうし、
何より彼を包み込む独特の雰囲気が他者を寄せ付けはしなかった。
彼と「友達になりたい」などと言って近寄ってくるのは真吾くらいだろう。
K’は真吾の言う「女のコ達」には目もくれずに通り過ぎていった。