始まりの朝
―――――目覚めよ―――――
『ダレダ・・・』
―――――目覚めよ―――――
『ウルセェ ダマレ アタマニヒビク・・・』
―――――目覚めよ―――――
薄暗い部屋・・・人の影・・・人の声・・・
「目覚めよ、K’」
「―――――っ」
闇から引き上げられるように眠りから覚めた。
優しい朝日が全てを包み込む部屋の中、やわらかなベッドの上にいる自分を確認して安堵の息を付く。
「またか・・・」
彼は夢を見ない。見ていても覚えていなかった。
たまに覚えているのはいつも悪夢だった。
「チッ いまいましい」
夢の解放に安堵した自分にもイラつく。
―――――目覚めよ―――――
「あの声はいったい・・・」
記憶をたどり、考えを巡らせている彼の耳に、元気な声が飛び込んできた。
「おはようございまーす。K’さーん。起きてますかー。朝ですよー」
破顔して彼の傍に来たのは矢吹真吾という少年だ。
彼――K’とチームを組んで以来やたらと懐いてくる。
いくら冷たくあしらってもK’の傍にいる。
最初は鬱陶しがっていたK’も、一途な彼の姿に心地よさを感じていた。
「K’さん、ご飯食べに行きましょうよ!二階堂さんもマキシマさんも待ってますよ!」
「あ・・・あぁ」
K’は夢と、イヤな目覚めの軽い頭痛のおかげで食欲などなかったが、
屈託のない真吾のえがおにつられ、つい返事をしてしまった。
「じゃ 早く用意して下さいね!ロビーで待ってますから!」
そう言って真吾は元気な足音と共に部屋を出ていった。
『フッ 朝から元気だな・・・
そういや初めて会ったときからやたらと元気だったしな。
しかも見事に一番イヤな話題を振って来やがったっけか・・・」
「初めまして!K’さん、マキシマさん。俺、矢吹真吾といいます。
チーム組むの初めてだから、すっごく嬉しいです。
俺、格闘技始めてからまだ浅いんですよ。
始めるキッカケをくれた人に教えてもらってたんです。
『草薙』さんていうんですけど―――」
「うるせぇだまれ! 二度とオレの前でそいつの名を出すな!!」
『あン時だけはすごく悲しそうな顔してたな・・・
懲りて近寄らなくなると思ったのにあいつは・・・」
着替えを終えたK’は少し笑ってロビーへと向かった。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆
暗闇の中を彷徨っていた。
背後から押し寄せる闇に紅蓮の焔が踊る。
闇が焔に包まれると、断末魔の叫びと共に実体を表し
焔を操る青年の足下に崩れた。
それはどれもが青年の顔をしていた。
何度も同じ事を繰り返しているが、まだ出口が見えない。
そもそもこの暗闇に出口などあるのだろうか。
―――――いつまで彷徨えばいいのだろう―――――
そう思うと暗闇が深くなった気がした。
この暗闇は青年には光に変えることが出来なかった。
なぜならこの闇は、青年の意思を無視して与えられた作為の夢なのだから・・・