ショート   5作品                         Back   Home


●うつろう季節  (2003.6.28)

−春−

 小さな犬を連れたあの娘と、始めて出逢った春の訪れ。
 サクラが舞い散る学園の、並木道を2人で通った萌葱色の舞台の幕開け。

−夏−
 眩い光に輝いていた夏の日。
 ときめきを隠し、始めて2人で夜を超えたコバルトブルーの南国の想い出。

−秋−
 未来を夢み、永遠を信じていた秋の夜。
 満月が、1人になった僕の心に追い打ちをかける琥珀色の光。

−冬−
 凍える心を抱えて、君の面影を忘れえぬ時を過した寒い冬の朝。
 いつまでも、どこまでも、僕の心に白い雪が降り積もる。

−夢−
 突然、悲報を知らされたあの日の悪夢。
 恋人を亡くし、途方に暮れて泣き続けた、色さえない世界の物語。

−希望−
 仔猫を抱かえたあの娘と、始めて出逢った希望の日。
 季節はあの時と同じ。
 ビル街に囲まれたサクラが舞い散る公園で、自分を取り戻す春色の季節が始まった
 希望の君。




●近未来型ロボット  (2003.6.25)

彼の名は『KEY-007』人体モデル型アンドロイド。
人間とほとんど見分けがつかないほど精巧に作られた、
最新型CPU『銀河-2002@SARS』を登載している自動コンピュータシステムの
近未来型ロボットである。

 国家警察が最新テクノロジー技術を使って作り上げた24時間対応型の
刑事ロボットで、風俗業界の取り締まりを主な任務とする。

「プルルルル…」

 まるで野分けの様な嵐の深夜。
24時をまわった頃、「風営法に違反している店がある」との情報が飛び込んできた。

「なんだい、こんな嵐の夜にご出動かよ…。ほれ行くぞ『KEY-007』」

「ウィーン…リョウカイシマシタ」

 電話の情報によると、その店では「国際法で認められない者を働かせている」との
内容であった。

 1人と1体の刑事は、早々に問題のソープ店に踏み込み、強制調査を開始した。

 1部屋ずつ調査をしていくと、特別ルームと書かれた部屋の浴槽に、確かに国際法で
認められていない人体モデルのロボット『 LIA-002型アンドロイド』が全裸で客待ちを
していた。

「よし、緊急逮捕だ。KEY-007、証拠として『LIA-002』を逮捕するんだ」

 『KEY-007』は何を思ったか服を脱ぎ始め、全裸で浴槽の中に飛び込み水面に
さざなみを立てながら『LIA-002』ともに戯れだした。

「止めろ。止めるんだ『KEY-007』。それ以上は危険だ…」

 なおも激しく動く『KEY-007』と『 LIA-002』。その動きは、どんどん加速していく。

「ピッ・ピッ・ピッ……ビリビリビリ……プツ」

 突然、あれだけ激しく動いていた2体のロボットが動きを止めた。

「あーあ、やっちまったよ。自家発電でショート。帰ったら署長に怒られちまう…」



●雨上がりの虹  (2003.6.16)

突然降り出した雨が上がり、太陽が綺麗な虹を創り出した。
眩しく輝く白い雲の隙間から晴れ間がのぞき、
どこまでも高く果てしない青空が広がっている。

見上げると、虹の彼方に浮かぶ少女の面影。
眩い光に包まれた聖女。
白い翼を広げた淑女。
七色に輝く光のローブに身を包んだ小悪魔天使。
7色の虹の彼女を どの様に表現したらいいのだろう?
とても、言葉では伝えきれないほどの美しさ。
僕は、そんな君を一目みて、永遠の恋に落ちてしまった。

そんな真夏の休日の昼下がり。
儚い眠りから覚め 辛い現実に戻ると、いつの間にか また雨が降り出していた。 

彼女が僕に教えてくれたこと。
雨上がりの後に、素敵な虹が見えることもあるんだよ。




●ご主人様のペット  (2003.6.15)

ワタシは、アイツが嫌い。 大っ嫌い。
だって、こんな姿に変えたのはアイツなのだから・・・。

アイツは、ご主人様にとても可愛がられている。
ご主人様がワタシの相手をしてくれるのは、たまに気が向いた夜だけ。
それも、ほんの数分。

アイツは、猫なで声を出して、猫じゃらしやマタタビでご主人様と遊んでもらっている。
ご主人様がワタシと遊ぶときは、ワタシのことなど見ていない。
視線はテレビに映ったビデオに釘付け。

アイツとワタシ、どっちが可愛い?
アイツは、まだら模様の三毛猫。
ワタシは、ブルネットの髪の毛よ。 当然、ワタシの方が綺麗だわ。

だけど、アイツは自由に動ける。 でも、ワタシには自由がない。
だってワタシは、ご主人様の夜のペット。
アイツの鋭い爪でしぼんでしまった、ダッチワイフだもの・・・。




●強き人  (2003.6.14)


その女性は、彼氏の犯した罪を被って、裁判所から執行猶予つきの判決を受け
暮らしていた。

再び犯罪を侵せば、懲役刑が待っている。

彼女は、犯罪に関しては常に細心の注意を払っていた。

そんな彼女が立ち寄ったスーパーでのちょっとした事件。

店主が彼女に声をかけてきた。

「お客さん。アンタ、万引きしただろう? アンタが通り過ぎた後、棚に並んでいた
 ところ天パックの数が減ってるんだけど。 ちょっと事務室まで来てもらえませんか」

「ご、ごめんなさい。でも、私は万引きはしていません」

「みんな最初は否認するんだ。それに、アンタ最初に謝っただろう?
 それが何よりの証拠さ」

「本当なんです。私は、絶対に万引きなんかしていません」

「それじゃ、確認さてもらうが、いいかな? その乳母車が怪しいと睨んでいるんだが」

「あの、それだけは・・・」

「わっはっはっ、やっぱりそうかい。 乳母車の中に、ところ天を隠したんだな」

「違います。ところ天なんか入ってません」

「それじゃ、見せてみろ」

店主は、乳母車に敷かれている布団を剥いだ。

すると・・・「ミャ―オ」 可愛い仔猫ちゃんが現れた。

「ごめんなさい・・・」

「お客さん。うちは飲食物を扱っているから、ペットはお断りしているんです。
 まあ、今回はお互い様という事で勘弁しますが、以後気を付けて下さい」

「はい、わかりました」




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