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「千と千尋の神隠し」考察
  〜千尋とハクと、あなたへ〜           2002.8.10



「はじめに」

僕の考察では、千と千尋の神隠しは、思春期に起きやすい精神的な混乱を、
千尋が精神世界(不思議な街)で体験し、自分の守護神に出会ってくる物語で
あると考えています。
この体験を、トンネルや不思議な街や電車などに例えて表現し、リアルに物語化
した芸術的作品であると考察しました。

なお、この考察は僕の独自の解釈であり、人それぞれ解釈が違うと思います。
ですから、あくまでも参考として読んで下さい。


第1章 「精神世界の入り口へ」

大人への階段を登り始めた頃の千尋は、引っ越しという大きな障害にぶつかります。
引っ越しするということは、今までの仲の良い友達と別れたり、新しい学校や
これからの友達問題などに不安をいだき、そして大きな葛藤が生まれます。
この様な、不安や葛藤が激しくなると、人によっては「現実逃避の道」を選択して
しまいます。
現実逃避への道とは、極端な場合「精神世界への心の移行」につながります。
分かりやすく言えば、「自分の心の世界(空想の世界)に逃げ込んでしまう」
ということです。

具体的に説明すると、自分本位の考え方になり、想像や空想することが思考の
中心となり、日常の社会での交流を避けるようになります。
さらに、日常社会で自分の価値が見い出せないと、もっと深い精神世界
(深層世界=幻想や妄想の世界)へと入っていきます。

千尋が精神世界に入っていくシーンは「不思議な門の暗いトンネル」がその描写です。
両親と一緒に入いっていきますが、この時の千尋の状態は、トロンとしたやる気のない
目つきから精神的にかなり弱ってると感じます。
トンネルには両親と入っていきますが、両親はすでに架空の人(妄想)で、実際には
いないと考えます。

その架空の両親は、勝手に店の食べ物をあさり「ブタ」になってしまいます。
千尋の心の中には「人の物を勝手に取ってはいけない」、
食べ過ぎると「ブタのようになる」という意識があり、自分の持つ葛藤の嫌な場面に
遭遇してしまったことから「両親の姿形(人間)」を忘れて、妄想でブタにさせてしまいます。

精神世界では、知識や記憶が混乱するということが、日常生活を忘れて精神世界に
どんどん引き込まれていく大きな要素になります。
すなわち、過去の記憶や過ごした環境を忘れてしまう、自分を識別していたものが識別
できなくなり自分が何だか分からなくなってしまう、これこそが精神世界そのものです。


第2章 「ハクとの出会い」


精神世界に入ってしまった千尋は、ハクに出会います。
ハクはどういう役柄でしょう。
ハクの名前は「ニギハヤミコハクヌシ(饒速水琥珀主)」です。

この名前の由来は、日本書紀や古事記に出てくる「饒速日命(ニギハヤヒノミコト)」
正式名:天照国照彦火明櫛玉饒速日命
(アマテルクニテルヒコホアカリクシタマニギハヤヒノミコト)
を参考に、日本神話から付けた名前だと考えられます。

饒速日命は、日本の最高神である「天照大御神(天照皇大神)」の孫にあたり、
天界(神界)にいる天照大神の命令により、混乱した人間界を立て直すために
降臨してくる天皇系の神様です。

饒速日の「速」の字は、水に関する神様であることを指し、
海や川を司る神様です。
救世主を作り出す役割の神様で、「天使(天の使い)」とか
「使徒」と呼ばれたりもします。

精神世界(千尋の心の世界)で出会ったハクは、千尋の守護神(守り神)であると
考えます。
千尋が川で溺れそうになったときに助けてくれた神様=すなわちハクは千尋の守護神。

千尋は、饒速日命というとんでもなくすごい神様に守られた、
将来「救世主」になれる権利を与えられた、天の神様から特別に選ばれた
女の子ということです。
なお、救世主とは、神様からその時代時代の混乱を正すために
特別に選ばれた人物です。

それでは、なぜ神様に守られた千尋が、精神世界に引き込まれてしまうのでしょう?
様々な文献を調べると、救世主になる様な人は、精神世界をさまよい、そこで試され、
精神力の強化や感性に磨きをかけてくる必要があるようです。
(一種の修行みたいなもの)

このような試練を受け、体験することにより、神様の意思に近づくものと考えられます。
なお、救世主として最も有名なのは「イエス・キリスト」です。他にも、ジャンヌダルクや
マホメッド、釈迦なども救世主と呼ばれ、実際に地球上に実在していた人物です。

精神世界を一人でさまよっていると、千尋の身体が消えていくシーンがあります。
これは、千尋が自分のことを忘れてしまう(記憶がなくなる)ことを意味しています。
そして、ハクに赤い薬を食べるよう言われます。

このことは何を意味しているのでしょう?
精神世界の存在を知る(理解する)ことを意味しています。
丸薬を食べないと、「精神世界の存在すら分からなくなってしまう」
考えることをしない心(意識低下)になってしまうことを意味しています。


第3章 「魔法使いのお話」


ハクは魔女の湯婆婆に魔法を習いに行きました。
そもそも、魔法とはなんでしょう?
魔法は本当に使えるのでしょうか?
僕的な意見では「魔法はあります。」と答えます。

突然、手の上に品物を出したり、手に触れず物を動かしたり・・・それは手品です。
僕の考える魔法とは、こんな感じです。
例えば、数人に同じ体験をさせ、同じテーマで感想を書かせます。
そのうち、一人だけ特別感動を与える文章を書いた人がいるとします。

しかし、その人は最初から感動を与えようと意識して書いたとします。
それを知らない他の人達は、素晴らしい文章を書いた人に対し、憧れや尊敬の念を
抱きます。
すなわち、他の人達は、その人の意図した魔法にかかってしまったことになります。

しかし、そう簡単に人を感動させられるような文章は書けません。
この様な文章を書くには、感性や感受性を磨く必要があります。
感性や感受性を磨ける場所は、「精神世界」が最も適しています。
そこは、常識に捕らわれない、恐ろしかったり、楽しかったり、とても不思議な場所
だからです。

この世界から戻ってくると、お土産として感性(心)が研ぎ澄まされて帰ってきます。
すなわち、魔法を覚えてくる(豊かな表現力を持つ感性を得る)と言うことになります。
千尋も、銭婆から髪飾りをもらって来ることが、魔法を覚えたことにつながっていると
思います。


第4章 「カオナシの正体」

カオナシの正体は何でしょう?
僕の考察では、新約聖書に書いてあるイエス・キリストが受けた試練や
お釈迦様が悟りを開くときに現れた悪魔的存在である
「自分の欲望の固まり」そのものであると思います。

カオナシは「お金の欲望」そのものです。
手から沢山の金を出して、「千尋がほしい」と迫ります。
もし、千尋の心がお金の欲望に負けてしまうと、カオナシに呑み込まれ、
この世界から戻ってくることが難しくなるでしょう。

仮に、日常世界に戻って来られたとしても、お金の亡者の様な人に
なっていると思います。
しかし、千尋はお金の欲望に負けず、見事にお金を突き返しました。
この世界に来る前から、千尋の性格は「欲の少ない素直な女の子」だった
のでしょうね。

なお、千尋がこの世界に行った最大の目的は「救世主」になるための修行です。
湯婆婆やカオナシの誘惑は「テスト」みたいなものです。
ですから、湯婆婆もカオナシも用意されていた「問題」であり、
どちらも神様と考えています。


第5章 「精神世界のお話し」

そもそも、精神世界は自分の心の中の世界であり、過去や無意識などの記憶が
眠っている深層心理の場所です。
また、そこは欲望を捨て去ってくるための修行の場でもあり、
神様の様な人を作り出す場所でもあります。

精神世界では、自分の想い出や犯した罪など、過去の記憶がよみがえります。
普段から罪深いことや自分の心に対して反対のことをしていると、
もし精神世界に行ってしまった時には、そこはとんでもなく怖い場所になります。
逆に普段から、良い行いや人のためになどの行いをしている人は、
とても素敵な場所になります。

そう、自分の心の中を見てくるのだから、だから普段から良い行いを
しておかないと、もし本当に精神世界に行ったときには大変なことになることを
覚悟しておいた方がいいと思います。まぁ、「経験者は語る」と言ったところです。
(僕の体験談を、ファンタジー童話として以前書きました。暇な方は読んで下さい。)

精神世界の深さには段階があって、楽しい場所から怖い場所まで何段階か
あります。
この描写は、電車に乗りどんどん遠くに行くシーンです。
遠くなればなる程、暗く人がいない寂しい場所(深層部)になっていきます。
駅の名前も遠くになればなる程「底の深さ」を示す名前が付けられています。


第6章 「精神世界からの帰還」

千尋が精神世界から日常社会に戻ってくる方法は、過去の自分の記憶を
取り戻すことが重要な鍵になります。
そのシーンは、沢山のブタの中から「お父さんとお母さん見つけなさい」と
湯婆婆に言われ、「ここにはお父さんもお母さんもいないもん」と言ったことで、
記憶を取り戻したという意味が伝わります。

すなわち、お父さんもお母さんも「ブタじゃなくて人間であることを思い出した」と
いう事で、日常社会の記憶を取り戻したことにつながります。

また、千尋は精神世界で自分の守護神であるハクと出会い、
帰り方を手助けしてくれたことが非常に大きかったと思います。
「困ったときの神頼み」みたいなものかな。

そして、最後に来たトンネル(心の扉)を抜けて、自分のもと居た日常社会へと
戻ってくるのです。
自分の守護神を知った千尋は、将来きっと「困った人を助ける救世主」として
成長していくのだと考えます。


第7章 「最後に」 〜僕からのメッセージ〜

誰でも思春期から若年期は、様々な悩み・受験や恋愛など、多くの難題が
降りかかってくる年頃です。
しかも、精神的にまだ未熟で、ちょっとした困難でもすぐに不安定になり、
精神(心)が落ち込んでしまいます。

でも、どんな人でも、辛い現実に耐えられなくなると精神世界に逃げ込む
可能性があります。
誰でも、一度や二度はそういう経験をしていると思います。
ただ、その程度がどれほど深いか浅いかの違いです。

僕も、以前かなり深い精神体験をしてきました。
でも、そこで得たものも多くありました。
傷ついた人の心の痛みが分かり、また人に優しく接することが出来るように
なりました。
その時は、非常に辛い体験でも、後から考えるととても貴重な体験でした。

ですから、この様な状況になったとしても、決してクヨクヨしないで前向きに
考えてほしいと思います。
誰でも経験する事なのだから。
みんな乗り越えてきているのだから。


最後に。
・・・最後まで読んでくれたあなたに、僕の作った詩を贈ります。



「心に響く音色」

   弾ける音色を奏でられる人は 楽しいときを知っているから
    優しい音色を奏でられる人は 悲しいときを知っているから
     みんなの心に届けることが出来るのです

   たとえ心が痛んでも 今のこのときを大切にして下さい
    もっともっと弾ける曲を 心に響く優しい音色を
     いつかいつの日か みんなの心に届けることが出来るのだから


                                 
Present from 「琥珀」



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