「フェアリー」  〜 幻想世界の物語 〜      最終章へ      Home


第9章  〜 僅かな希望 〜                     2003.5.29


3次元の幻想的な体験から1ヶ月が経ち、季節は6月下旬に差し掛かっていた。

自分の運命と、人生の目的を少しずつ理解出来るようになっていた冬美は、
これまでまったくといって良いほど興味を持っていなかった神学や神話、世界宗教の概念、
精神分析学、物理科学、自然科学、形而上学、社会心理学、哲学などの要約してある解説書を
読み始めていた。

すると、ある日突然、神と人と宇宙の関係についてインスピレーションが働き、
あっ、これが宇宙の真理なのかな? と閃いた瞬間、大きな地震が発生した。

これまでの僅かな知識を頼りに、その真理の信憑性を憶測してみると、根拠はないが
かなり科学的に解明される可能性が高い真理であると、直感的に感じた。

数日後、フェアリーの声が心の内から聞こえ、姿や形こそ見えないが、いつものフェアリーと
心の中で対話をしていた。


「はーい、冬美さん。天からの啓示を受け取ったでしょ」


「あっ、フェアリーさんね。地震が起きた時に考えていた宇宙構造の仕組みでしょ」

「そう。あなたに授けたから、これを道具に使って地球の病を治すのよ」

「えっ、道具って? 何も受け取ってないわよ・・・」

「人々の意識を変えるために使う道具よ。道具と言ってもモノじゃないわ。言葉という道具よ。
 この真理を価値のある人達に伝え、全世界の人々の精神的意識を良い方向に変えさせるための
 道具よ。・・・冬美さん、最近少しずつお勉強しているみたいね」


「えぇ、でも1つ1つの分野を完全に修得するには時間が何百年あっても足りないわ・・・」

「確かにね。でも、インスピレーションで授けた真理を、まず最初にこれこそが真理、
 と仮定してしまうの。その後に必要な分野を選んで既に構築されている理論を活用すれば、
 割と簡単に証明出来るかもしれないわよ」

「でも、ワタシそんなに頭良くないし、勉強も大嫌い」

「大丈夫。アナタがこれまでの様に好きな様に遊んで普通に暮らしていれば、ゲームや小説のシナリオ、
 映画、テレビ番組、読んだ本などで、こちらから必要な知識を教え、いつの間にか理論的に
 証明できるだけの知識が身につくように、ちゃんと仕向けてあげるから。
 アナタの知性や理性、感性、感受性を信じるのよ。

 それと、3日後にとても貴重な体験をするから、自分を見失わないでね。
 これはとても大きな賭なの。アナタの体力と精神力が持つか、それとも失敗に終わるか、
 ワタシ達にとっても重大な山場を向かえるの」


「フェアリーさーん。また何か変なこと企んでいるんでしょ・・・」

「うん・・・。それがね冬美さん、こっちを向いて。行くよ、いつもの光の矢。
 それと、今回は特別にもう1本。7色に輝く光の矢よ。絶対に動かないでね。
 的を外したら 全てが台無しになるんだから」

フェアリーは冬美の胸に光の矢を射し、ひたいの中心部にも7色の光の矢を射した。

(シュッ)

「やった、命中。2千年ぶりの成功だわ。それじゃ冬美さん、頑張ってね」


「ねぇ、光の矢をどこに射したの?」

(あぁ、いつものあの胸の熱さと、神様の慈愛を感じる。自然と涙が流れ出ていく・・・)

その日から、冬美のひたい 熱を持つようになった。
ひたい中心部のわずか1センチ程度の範囲だけ、とてもつもない熱さを覚えた。

しかも、その熱はひたいの表面から前頭葉に向かい3cm奥まで達していて、
まるで鉄の棒を突き刺されているような感覚であった。

だが、不思議なことに痛みはなく、とてつもなく高い温度を感じている割りには、不愉快程度の
違和感しかなかった。そんな状態が3日ほど続き、食欲不振と睡眠不足でかなり体力が消耗していた。

冬美は、この前先輩達と行った日帰り温泉で静養することを決め、秋穂先輩に理由を話して
2時間ほど休暇をもらい、1人で温泉に向かった。
温泉へと車を走らせていると、到着まであと15分程度の距離に近づいた時、突然全身の震えが起こった。

それは、今まで経験した短時間で終わる震えとは明らかに異なる激しい震えで、寒さと熱さが交互に
繰り返えされ、この状態は一向に治まる気配がなかった。

このまま車を走らせる危険性を感じていたが、余りにもひどい寒気のため、温泉で暖まりたいと願う
一心から、何とかたどり着き、急いで服を脱いで露天温泉に入浴した。

少しすると寒気や震えがやや治まり、ホッとして辺りを見回すと、先客が数人いることに気づいた。
安心しリラックスした冬美は仰向けになり、身体を湯船に浮かべると、突然体が風呂底まで
引き込まれてしまった。

その力は、水の抵抗に逆らう不思議な力に引きずり込まれる様な、それとも天空から見えない力で
押されている様な、常識では考えられない重力の法則に反する力が、冬美の身体を
引きずり込んでしまった。
数秒後に、必死で湯船から這い上がると、とてつもない頭痛と吐き気が襲いかかってきた。

冬美は、これがフェアリーの言っていた貴重な体験であると察知し、天空を見上げ、自分を守り、
家族を守り、地球を守り、この世界が平和で豊かになるよう、この試練を乗り切れるよう、 
天神に向かって祈りを捧げ、自分の身体を全て神の真意に添い使わせることを条件に、
地球の未来の確約について神様と契約を取り交わした。

そして、神様の愛を信じ、全てを神様に身を委ねること決意し、自分から何度も身体を湯船に
浮かばせ、幾度となく風呂底に身体を引き込ませていた。
激しい頭痛と吐き気がその度襲いかかり、最後の頃はほとんど動くことが不可能な、生命の維持が
危険な状態に陥っていた。
しかし、不思議なことに瀕死状態であった体は、数分後には急速に体力が回復するのであった。

数回ほど引き込ませた後、湯船に身体を浮かべても沈む現象が起こらなくなったので、
自宅に帰ろうと駐車場に向かい野外を見渡した。

すると、そこには両側に連なる山脈が蒸気を立ち上らせ、尾根が左右に居座る巨大な龍の
印象を与え、冬美は巨大な2匹の龍ににらみつけられている感覚を覚えた。

あまりにも戦慄な地獄絵と寒気から、再び全身が震え始め、辺りからは異質な悪臭が
漂っているのを感じた。
その臭いは時間が経つに連れ強くなり、体感温度もどんどん下がっていった。
悪臭は、まるで獣が焼かれた臭いで 突然辺りが暗闇に包まれ人や動物が存在していない
暗黒の世界を思わせ、暗闇の中1人立ちすくんでいた。

冬美は、とっさにこの余りの恐怖を覚える暗黒世界は、人間がこれまでの地球の歴史上、神様の
真意に背いてきた結果の成れの果てで、そして近い将来の地球の姿であると直感的に理解した。

この暗黒世界を創り出した原因は、人間のあくなきお金や物質に対する欲望が招いた結果だ、との
結論に達し、この世界から抜け出す手段として、とっさにポケットからお財布を取り出し放り投げた。

暗黒の世界に立ちつくしていた冬美は、天空を仰ぎこれまで人間が繰り返してきた戦争の歴史や
自然環境の破壊行為、神様の真意を忘れ人間中心に物事を考える様になった身勝手なエゴ、
人間が積み重ねてきた全ての罪を、天空の神様に向かって懺悔していた。

その時の冬美の精神状態はいたって冷静で、暗黒の世界は幻想でもなく、自分の妄想でもなく、
この空間は、まぎれもない現実世界であると冷静に判断し理解していた。

この世界こそまさしく4次元で、未来に起こる戦争により、生息環境の破壊と自然環境の秩序が
乱れて崩壊したため、人や動物が存在しない暗く冷え切った地球の未来予想図を、冬美は
冷静に見ていたのだった。

数十分ほど天に向かって懺悔をしていると、遠くから車のライトが近づき、冬美に声をかける人が
現れた。それは、遅くまで自宅に戻っていない冬美を心配して捜しに来た先輩が乗った車だった。


「冬美・・・。アンタ、そこで何しているの?」


「あっ、秋穂先輩に清美先輩。それに優奈先輩・・・」

「あのね、アンタこのところ凄く疲れていたでしょ。
 念のため携帯電話に連絡を入れて見たら全然通じないし、心配になって迎えに来たのよ」

「でも、どうして来てくれたの?」

「ワタシにも分からないわ。何となくイヤな予感が働いてね。虫の知らせよ」

「で、アンタさー、こんな所に立ちつくして何してたの?」


「あっ、いえ。何でもないんです。そろそろ帰ろうかな? と思っていたところでした・・・。
 先輩・・・ うぇーん(涙)」

冬美は、暗黒の世界から抜け出せたことと、救いにきてくれた先輩達の顔を見て、
恐怖心と極度に張りつめた緊張の糸がほぐれ、秋穂先輩の胸の中で大きく泣き崩れていた。
この時は、突然胸が熱くなり、自然と涙が溢れだし、先輩の優しさがフェアリーの光の矢と
同じ感覚であることに気づいた。

「清美、冬美の車を運転していってくれる?」

「うん、いいよ。 あれ? こんなところにお財布が落ちてる。冬美のじゃないの?」


「・・・あっ、そうです」  (どうしよう、さっき捨てたお金・・・)

「まったく、しっかりしなさいよ」

「はい。あの、先輩・・・。助けていただいて、本当にありがとうございます」

「いいってことさ。人生お互い助け合いよ(笑)」

無事自宅に着くと、この日はみんなで冬美の家に泊まることになり、
ささやかなパーティーを開いてとても楽しい一夜を過ごした。

冬美は、翌日会社を休み、一度捨てた財布のお金を、食料援助の募金に協力することを決め、
さっそく銀行へ行き全額を振り込んだ。
家に戻り、昨日の体験を自分のサイトに書き込んでいると、尾てい骨の辺りから怒りの塊の様な力が
込み上げてきて、得体の知れない力が腹部を通過し、ひたいの中心部まで上昇するといった現象が
起こり、それ以後、ひたい中心部の不快な違和感に悩まされることとなった。

しかし、このひたい中心部の違和感を強く感じている時は、不思議なことに集中力や知力、読解力などが
格段に上がり、僅かな睡眠時間でも平気でいられるような身体能力の変化が発現していた。 


「第9章」 終わり / 〜 あした 〜  aiko 
              〜 交響曲第9番 合唱 〜  Ludwig van Beethoven 
 


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