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蒼き虚像 〜女子大生 雪奈の初体験〜             2004.1.31


「カチャリ」ドアが開いた。

清楚に整えられ所々に観賞植物が飾られた広い部屋の中に芸術大学2回生の

雪奈(せつな)が入ってきた。

陽の光が射し込む明るい部屋には花の香り、そしてクラシック曲が静かに流れ落ち着いた

雰囲気を演出していた。

 雪奈は人生で初めての経験を済ませようと、これまで大切に守っていたものに

傷をつけるためこの場所へと訪れた。

何度も経験している友達から「凄く痛いよ、絶対に泣くよ」と明言されていたにもかかわらず。



「やあ、よく来たね。雪奈ちゃん初めて?」若くて清潔感のある、いかにもモテそうな

ちょっと素敵な男性が声をかけてきた。

「……えっ、ええ。……優しくお願いします」雪奈は小さな声で応答した。

「大丈夫だよ、心配しないで。僕は上手だからね」

「痛いんですか?」雪奈の身体は全身小刻みに震えている。

男は雪奈を促すように、背もたれのついたどっしりとした椅子へと案内する。



 この男と雪奈は今日が初めての対面であった。

友達に紹介されこの男の元へとやって来たのだ。初めての相手として、

特別な技を習得しているこの男を紹介された。

二三言葉を交わし、男が「それじゃ大きく開いて」といきなり言った。

「自分でですか?」

「そうだよ、自分で」

「今まで誰にも見せたことがないので恥ずかしい……」

「でもね、見せてくれないと」雪奈が嫌がるのを無理矢理広げてしまった。

「とっても綺麗だよ。今まで大切に守ってきたんだね」

「先生……」雪奈の顔がみるみる赤らんでくる。

「ここなんかどうかな?」男は薄紅に彩られた濡れた粘膜を左の指で広げ、

右の人指し指を滑らし、三角の膨らみのある突起を軽くツンツンと突っついた。

「くっ……そこ」雪奈の身体がピクンと反応した。

「こいつは……。もっと奥深くが知りたい。写真を撮るよ。いいね」と男は提案した。

これまでまったく経験がなかった雪奈は、男の指示に素直に従うしかなかった。

「写真は撮影専用の部屋で撮るから別室に移って」と指示され、

雪奈は隣の部屋へとゆっくり向かった。



 撮影用の部屋は薄暗い小さな部屋だった。

「先生、写真……」

「心配しなくていいよ。誰にも見せないから。じゃあ、そこに座って。さっきみたいに大きく開いて」

「こうですか?」

「奥がよく見えるようにもっと開いて」

「……」

「そう、いい感じだよ。それじゃ自分の指をここに入れて」

男は雪奈の右手を誘導し、人指し指を奥へと潜り込ませた。

「そう、そのままジッとして。いいかい、撮るよ」

雪奈は本当にこんなことでいいのか? 疑いを持ち始めていた。

数枚撮影が終わる頃、雪奈の薄紅色の粘膜からは照明が反射しキラリと光る滴が一筋零れていた。

「はい、これで終わり。綺麗に撮れたよ」

「先生……」

「何?」

「あっ、いいえ、何でもありません」雪奈は写真を撮った理由を聞いてみたかったが、

何事もなく初体験を済ませたいとの考えからそれ以上聞くことを止めた。

「それじゃ、最初の部屋に戻って腰掛けてくれる」

「はい、わかりました」ふらふらとした足取りで雪奈は先程の場所へと戻っていった。



 明るい部屋に戻った雪奈はこれから行われることに期待と不安で胸がいっぱいだった。

そして、これを乗り越えなくては明日から大学に行けないのも分かっていた。

こぼれそうな涙をこらえ、全て男の指示に従うことを改めて決心した。

「これからすることを説明するよ。最初は軽く触れて、その後にお注射するからね。

痛みに馴れてきたらこれを差し込んで、突き刺したままゆっくり動かすから」

「これ? こんな堅くて長いモノを入れるんですか?」

「そうだよ。奥まで入れるけど、大丈夫。心配しないで」

「……先生。やっぱり止めます」雪奈はこれを見た途端、恐怖心が込み上げた。

「何を今さら。写真も撮ってしまったし、もう諦めなさい」

不安と恐怖でいっぱいになった雪奈の瞳からは涙が溢れていた。

「それじゃ、またさっきのように大きく自分で広げて」

雪奈は少しだけ抵抗してみたが、男は嫌がる雪奈を押さえつけ指で薄紅色の粘膜を開き

無理矢理注射を始めた。



全ては、あっという間に終わった。

「出血……」

堅い棒を何度も出し入れされた雪奈の奥部から血が流れ出していた。

「大丈夫、直ぐにとまるから」男は優しい表情で微笑みながらティッシュを一枚手渡した。

雪奈は直ぐさま身支度を整え、一言だけ「ありがとうございました」と言って部屋を後にした。



 部屋を出て玄関前に来ると後ろから女性に声をかけられた。

「初めてなので3, 150円です」

先生の奥さんであろうか、若い女性がお金を催促してきた。

雪奈は要求されるがままに「はい」と言って、イタリア製の財布からお金を取り出し素早く手渡した。

「痛みを感じなくなるまで何回か通う必要があります。次はどうしますか?」若い女性が尋ねる。

雪奈は「またお願いします」と言って、次に訪れる日を決めこの場所を後にした。

 初めての苦い想い出だった。

 痛みから解放された雪奈は泣きそうになりながらも初体験をしたその家を振り返った。

玄関の入り口には「ニコちゃん歯科診療所」と書かれた看板が立っていた。



−了−

あとがき

このお話は、1つのストーリーで2つの話を書きました。

歯医者の治療と官能小説です。最後の一行を取ると官能小説になります。

本来は、詳細に描写をするつもりでしたが、どんどんエッチな表現になってくるので

適当なところで抑えました。

最初、雪奈は別の名前でしたが、書いている途中で「僕、何書いてるの?」との葛藤が生まれ、

自分が切なくなってきたので「せつな」という名前に変えました。

この作品のテーマは、違うこと(エロじゃない)なのに、読み手がそういう心で読めば

官能小説になってしまう、ということを表現してみました。

すなわち、気持ち(心)の持ち方ひとつで見方が全然違うということを文章で表現しました。

あなたのこの作品の印象は、歯科治療でしたか? それとも官能小説?




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