500系新幹線電車

 1992年に試験運用を始めた「WIN350」という試験列車のデータを元に、山陽新幹線において航空機と対抗すべく300km/hでの運転を目的に開発されたのがこの500系。 そもそもWIN350自体が形式名で500系を名乗っており、WIN350の実用版とも言える。 1997年3月22日ダイヤ改正でまず山陽新幹線に投入され、同年12月29日のダイヤ改正で東海道新幹線との直通運転を開始した。 編成記号はW。

 従来の新幹線とは違う円筒形の形状やカラーリングなどは、ドイツのアレクサンダー・ノイマスター社のデザインによるもので、なるほど「新幹線」という日本人のイメージとは一味ちがう独特の形状となっている。 このためかこの形式の人気は凄まじい物があり、運転開始当初は各駅が見物客で溢れかえるという光景が見られた。

 山陽新幹線のみで300km/h運転となったが、運転開始当初はこれほどの高速列車はなく、東京〜博多間に専用の列車が設定されて4時間55分で結ばれた。 これはN700系が登場するまでは最速ダイヤであった。

 車体は軽量なアルミ合金製で、VVVF制御、誘導電動機、ボルスタレス台車といったような300系で使用された新機軸は踏襲されている。 それに加えて高速化=軽量化のために、重量が電動機よりも重かった渦電流ブレーキの採用するくらいなら、電動機を積んでしまえ、ということで、軽量化のために全車両を電動車にするという、特異な進化を遂げている。 電動機出力は第一編成が285kwとなったが、実際に運転してみるとかなり出力に余裕があることがわかり、第二編成以降は275kwの電動機を搭載している。 4両ユニットであり、必要機器を4両に分散させて搭載することで、重量配分の適正化をはかり、保守性も向上させた。 16両編成で編成出力は18000kw前後第出力ながら、車両重量は700トン程度に軽量化されており、時速300km/hでの運転に対応させたほか、高速域での加速力も確保し、最高速度までおよそ4分で到達できる。 ブレーキは前述のとおり渦電流ブレーキを廃して全車電動車としたため、電力回生ブレーキを併用した電気指令式ブレーキを用いており、粘着力向上のためにセラミック噴射装置を先頭車と8号車、9号車に搭載しており、使用の際は、下りが1・9号車、上りが16・8号車の噴射装置を使用する。

 車体はアルミハニカムによって強度を高めたアルミ製。車体下まで覆うボディマウント構造を採用。 300系では初期車両にしか採用されなかったプラグドアを採用。 空気抵抗や微気圧波対策に主眼が置かれたため、車体は円筒形となり車内空間を犠牲にし、先頭車は15mにも及ぶ長い流線型を採用したために先頭部の客室ドアが廃された。 これが後に東海道新幹線内で問題となってくる。 パンタグラフは5、13号車に搭載され、他には類を見ないT字形で折りたたまれるのではなく、圧力で上下させる独特のパンタグラフを採用した。 これは、騒音に対応できるシングルアームパンタグラフの開発が間に合わなかったからである。 パンタグラフの支柱側面には、フクロウの羽にヒントを得たという整流機構が取り付けられており、騒音原となる空気の渦を小さく分散されることで騒音を抑えている。 台車はWDT205形で軸梁式の台車で、以後JR西日本における新幹線の標準的な台車の形状となる。 また、1・5・8・9・10・13・16号車には、揺動が大きい車両、またはグリーン車では揺動防止の観点からセミアクティブサスペンションが搭載されており、乗り心地の向上を図っている。

 室内は円筒形の車体形状のために狭く、飛行機好きにはMD90に似ていると言われるほど。 照明は直接照明であり、グリーン車は電球色、普通車は昼光色である。窓枠の支柱部分にはカーテン状の飾りが取り付けられているのが印象的だった。 グリーン車はベージュ系のモケットの座席でヘッドレストのついたシートが設置され、シートピッチは1160mm、リクライニングは最大26度、2列+2列の仕様。 オーディオ装置や読書灯が装備されていた。 またアームレストの内側に折りたたみ式のテーブルが格納されており、前席の根元部分にレッグレストも設置されていた。全体的に茶色系統の色でまとめられている。
 一方普通車は、3列+2列の新幹線的な座席配置を踏襲し、シートピッチは1020mmと、300系と比べるとやや狭め。 シートはパープル系のモケットとなっている。 円筒形なので窓側席は天井が低く、東海道新幹線ではビジネス客から評判が悪かった。 また先頭車の先頭付近は流線型の一部なので、荷棚が設置できないほど屋根が低くなっており、座席脇に荷棚が用意されている。

 製造はコスト高が祟ってわずか9編成で終了したが、後継の700系が登場後も、最高速度で上回る500系は変わらずエースのままであったが、その車体形状ゆえの車内の狭さから、常に混雑している東海道新幹線内ではあまり評判が良くなく、2003年の白紙改正で「のぞみ」主体のダイヤに変更され、「のぞみ」の1号車から3号車が自由席とされてからは、1号車の1箇所しかないドアのために常に乗降による遅れにさいなまれるようになった。 また、1日に1往復半という、3000km以上を走行する過酷な運用で限定されていたために、車両の痛みも目立つようになってきた。 その頃、500系と同等の高速性能を持つN700系が登場したため、500系の「のぞみ」としての活躍の場は急速に失われた。 折しも、その頃は山陽新幹線の0系が引退するということで、500系をその後継に当たることになった。

 2007年末より、500系は短編成化工事を開始、16両編成のうち、1号車、2号車、3号車、4号車、10号車、11号車、13号車、16号車を抜き出し、それを、1、2、3、4、13、10、11、16号車の順番に並び替え、一部車両にはパンタグラフの設置や引き通し線ケーブルヘッドの設置、それまであったパンタグラフの撤去、喫煙ルームの設置、窓埋めなどの改造を施して、8両編成を組成し、編成記号はVとした。

 2008年11月末日の0系定期列車運転終了後、入れ分かるようにしてV編成の運転を開始した。 W編成の運用は徐々に減少し、2010年2月末日で「のぞみ」としての定期列車は終了し、東海道新幹線からは過去の車両となった。 最終列車は最初の編成であるW1であった。 一方でV編成は徐々に数を増やしていき、現在は100系を一部置き換えることとなっている。

 またV編成では、2009年の9月24日より、1号車と8号車の運転台後ろの部分に擬似運転台を設置している。 本物の運転台にかなり似せたリアルなもので、実際にパネル類も光る。 子供連れが遊んでいる後継をよく見られる。

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