京急のアイデンティティーといえば、もちろん、「真紅の車体」です。
本来、銅合金で造られた車両は、水などによる腐食を防ぐために塗装されていました。
塗装のもう一つの役割は、列車の路線や行先などをそれとなく示すことにあります。例えば黄緑色の列車は、東京にすんでいる人なら「山手線」だと判ると思います。全国的なレベルでは、白地に青いラインは東海道新幹線、逆に青地に白や金銀の細帯は寝台列車というふうにわかります。しかし、ステンレスやアルミ製の車両が普及し第一目的である腐食の心配がなくなり、車体全体の塗装は、省略される傾向になっています。JRや私鉄の新型車両はたいてい、ステンレスやアルミの地にシールのようなものでラインを引き、ギラギラ光る外観をそのまま外に出しています。
しかし、京浜急行では地を露出した車両は全くありません。全てが真っ赤に塗られています。1521番以降に作られた全ての車両はアルミ車体ですが、塗装は全て赤色に白線となっています。
京浜急行に相互乗り入れする会社は、都営地下鉄、京成電鉄、北総開発鉄道の3社があります。このうち、京浜急行線内に乗り入れる車両で、銅製車体以外で外観を塗り潰しているのは都営5300形だけになります。
地下鉄は、1日中地下を走っています。トンネルの側面からは、常に地下水が染み出しているので、地上を走る列車よりも腐食の進行が早くなるため、塗装をしていても不思議はありません。
しかし京急の場合はどうでしょう。全線の総延長は87キロメートル。そのうちトンネルや地下区間は36箇所で総延長13473メートルで、全体の15%にすぎません。さらにトンネルはほとんどが三浦半島に集中しています。品川を発車した列車が最初にトンネルに入るのは横浜の次の戸部駅をすぎた直後です。
つまり、延々と地下を走る場所も無く、長大トンネルが連続するような場所がないので、塗装を省略してもおかしくはありません。
でも、それを承知であえて赤塗装で地を塗り潰してしまうのが京急のアイデンティティーです。他に例を見ないような強烈な「赤」のイメージは、一度見ただけで強烈な存在感を与えます。そして、それが赤い電車=京浜急行という方程式が人々の意識の中に植え付けられるのです。
鉄道のイベント等で、京浜急行が他の鉄道会社よりも人気が圧倒しているのは、スピード感のほかに、この他に例を見ない赤のイメージが強いと思います。モーターマンが歌の中で京急を「RED THUNDER(=赤い雷)」と表現しているのが、その証拠となるでしょう。
赤い車体は京急が京急たるゆえんです。京急が存続する限り、赤い車体は続くでしょう。
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