今までありそうで無かった「鉄道旅もののコミック」である。
小学館発行の月刊コミック誌『IKKI』に連載されている作品で、拙者はそれをまとめた単行本を読んだのだが、実に面白い!
日本の全駅で乗降したという横見浩彦氏をキーパーソンに、このコミックを描いている女性漫画家の菊池直恵氏と『IKKI』の編集者の3人が、基本的に横見氏主導のもとに全国各地の鉄道路線を乗り歩く姿を描いたのが、この作品のスタイルである。
筋金入りの「鉄」である横見氏のことであるから、取り上げる路線も「くりはら田園鉄道」「長野電鉄木島線」「ちほく高原鉄道」など、鉄道に興味が無い人にとっては地元沿線住民以外には縁のないマニアックなところばかりだ。
作者の菊池氏は別に「鉄」でも何でもない普通の女性のようで、横見氏に連れられてきて、その路線や車輛のマニアックさに驚いているシーンが実に多い。また、東京から指宿まで延々と鈍行に揺られて行ったり(第3旅)、冬の只見線で吹雪にあったり(第30旅)と、かなりご苦労もされているようである。もっとも、回が進むにつれてだんだん横見氏に洗脳?されてきたのか、はたまたいろんな「鉄」情報が脳にインプットされてきているのか、だんだん「鉄」化してきているようである。あと数年したら、横見氏を凌ぐ「鉄」になっているかもしれない(笑)
このコミックの特徴は、駅や車輛の描写が実に正確であるということだ。まぁ、作品の性格からすると当然と言えば当然であるが、一般コミックでの鉄道車輛の描写はえてしていい加減なものが多く、なかには「どう見てもパンタグラフがついたキハ82系」なんていうブッ飛びものの車輛もいるから、この点はとても偉い。
さて、この作品のブレーンとも言うべき横見氏だが、目的地に着いてお目当ての駅や列車を見たときのハイテンションぶりは実に見事である。廃線跡を見てはしゃいだり、味わいがある木造駅舎を見て感慨深げになる横見氏には共感できるところが多い。
このコミックは前記の通り横見氏・菊池氏・編集者氏の3人旅が基本であるが、時にはゲストも登場する。第5旅や第13旅のように一般人の場合が多いが、時には第8旅の真鍋かをり氏や第21旅のフジテレビアナウンサー笠井信輔氏のように、芸能人・業界人が登場する回もある。もっとも、真鍋氏の場合は「銚子電鉄全駅乗降」をさせられるとは夢にも思っていなかったようであるが・・・。
とにかく、乗り鉄なら「うんうん、わかるわかる」と頷けるところが多い傑作コミックだ。
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