時刻表2万キロ 


  鉄道路線乗り潰し・・・・いわゆる「乗り鉄」をやっている人で、この本の事を知らなければモグリと言えよう。「乗り潰し」という鉄道趣味の一分野を世間一般に広めたのは、この本の功績だと言っても過言ではないだろう。

 作者は、紀行作家として有名な宮脇俊三氏で、1978年に刊行された。会社勤めの合間を縫って、日本各地にある国鉄ローカル線に乗ったときの壮大な記録である。

 宮脇氏が乗り潰しにいそしんでいた当時はまだ週休二日制が今ほど普及しておらず、東北新幹線も上越新幹線も無く、東海道・山陽新幹線にしても今の「のぞみ」のような超速達列車も無かったので、限られた時間での乗り歩きには相当な苦労があったようである。「まだ乗ったことが無いローカル線が分岐していくのを、帰りの特急電車の中から指をくわえて何度も見送った」という文章に、その苦労さが滲み出ている。逆に言えば、今はその面で非常に恵まれた時代であろう。

 作品中に出てくるのは、いずれも国鉄の赤字ローカル線が大半だ。そのため、その後の国鉄再建法の嵐の影響で、今では路線地図上から消えてしまったり第3セクターに転換した路線も数多い。
 また、自宅から現地への行き帰りや、現地での移動に利用した列車の中に「急行」が多い点にも時代を感じる。ところどころに出てくる車窓や駅弁の話も誠に楽しい。

 きっぷファンには、カバーに散りばめられた硬券や車内補充券の数々も見逃せない点だ。カタカナ印字混じりの指定券や手書きの車内補充券は、もうほとんど見られなくなったものである。

 拙者の本棚にも、もちろんこの本はある。もう20年以上も前に入手したので、背表紙はだいぶ色褪せているが、拙者の宝物のひとつである。

 刊行が古い本だが、最近では文庫本サイズでも出ているようなので、入手にはそれほど苦労しないであろう。乗り潰しを志している人もそうでない人も、ぜひ一度読んでみていただきたい
 

 *作者の宮脇俊三氏は、2003年2月26日に他界されました。ご冥福を
   お祈りします。

 

                                                         2002.11.16