1963年公開の東宝映画で、監督はかの巨匠・黒澤明である。
製靴会社の重役・権藤の息子が誘拐され、3000万円もの身代金を要求された・・・が、実際に誘拐されたのは権藤のお抱え運転手の息子であった。訳あって別の件で大金が必要な権藤は身代金の支払いに応じるか悩み、ついに支払うことを決意する。秘かに犯人を追う警察の捜査陣と、犯人との駆け引きが始まる・・・・というのが、大まかなストーリーである。
さて、この映画に登場する鉄道は2つ。 まずは、この映画のハイライトともいうべき身代金受け渡しのシーンで、151系の特急「こだま」が登場する。
映画のサイトで時々「新幹線こだま」と書かれているところがあるが、この映画の公開当時はまだ東海道新幹線は開業していないので、それは誤りである。
犯人は、「身代金を入れるカバンの厚さは7cm」と指定してきた。実は、「こだま」が東海道本線の鴨宮−小田原間にある酒匂川橋梁にさしかかった時、そのカバンをトイレの細長い窓から権藤に投げ捨てさせるためであった。犯人が車内電話を使って権藤に身代金の受け渡し方法を指示するシーンでは、ビュッフェが登場する。
もうひとつは、江ノ電。 ある捜査員が、犯人からかかってきた電話の録音テープを聞いていた時、犯人の声の背後で電車の音がすることに気付いた。
電車に詳しい人をあたった結果、江ノ電のポールが架線をこする音であることが判明。誘拐されていた子供が描いた「誘拐されていた場所の絵」を手掛かりに江ノ電の沿線を捜索した結果、ついに犯人のアジトを突き止める。ここでは、ポール集電時代の江ノ電タンコロが走っているシーンが登場する。
主な出演者は、主役の権藤に故・三船敏郎、警察の捜査責任者に仲代達矢、権藤の妻に香川京子、権藤の部下に故・三橋達也、そして犯人役は山崎努である。また、名古屋章、藤田進、西村晃、田崎潤、大村千吉、東野英治郎、志村喬といった、今は亡き名優たちが脇を固めている。
・・・・40年以上も前の作品なので、映像の中に登場する風景は「昭和レトロ」そのものである。江ノ電の沿線で犯人のアジトを探す警察の捜査車や、犯人が身代金取引現場に乗り付けたクルマは、ドアが観音開きのトヨペットクラウンだし、犯人の住むアパートは、かなり古びた木造。前述の身代金受け渡しシーンでは、犯人の姿を捉えるために刑事が8ミリカメラを回している。モノクロの映像が、そのレトロ感を高めている。
鉄道ファンはもとより、昭和レトロファンにも観ていただきたい名作である。
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