鉄道が舞台となる映画は数々ある。今は亡き渥美清主演の松竹映画『喜劇 ○
○列車』のようなホノボノ系もあるが、パニック&サスペンス色が強いのは、やはりこの作品をおいて他に無いだろう。
1975年の東映作品だが、今観てもなかなか面白い。時速80km/h以下に速度を
落とすと作動する爆弾を東京発博多行き『ひかり109号』に仕掛け、1000人以上
の乗客を人質にし、日本政府に15億円もの大金を要求する犯人と、その犯人を追
う警察、何とか爆弾を除去できないか必死に検討する国鉄関係者、パニック寸前の
『ひかり109号』の乗客達と爆弾の恐怖におののく乗務員・・・・汗みどろの戦いは実にスリリングである。
また、爆弾列車と化して停まることが出来ない『ひかり109号』の先行列車が故障で立ち往生したり、犯人グループの一人が事故死してしまったり、事件解決のカギを握る店が不慮の火災で焼けてしまったり、万一『ひかり109号』が爆発した時のことを憂慮した日本政府がトンでもない決定を下したりと、大きな展開もあって飽きることがない。
この映画の魅力をアップさせているのは、全編にわたって漂っている「暗く重いトーン」であろう。主犯の沖田は倒産した町工場の社長で、その妻は前途を悲観して一時はガス自殺しようとする。沖田の手下はいずれも元は学生運動派だったり、沖縄から出てきたものの金が無く、売血してフラフラ状態だったところを沖田に拾われたりした男だったりと、一癖あるメンバーである。
新幹線車両が爆発するシーンがフラッシュバックのようにときどき出てくるが、これはもちろんミニチュア。CG全盛の今ではチャチく感じるが、この映画が制作された当時はCGなんぞ無かった(と思う)ので、これは仕方ないだろう。むしろ、現在のCG使いまくり映画には無い「手作り感覚」があって、映像に暖かみがあるように感じる。
蛇足だが、この『新幹線大爆破』のストーリーが「あるアメリカ映画」のそれと似ている事にお気付きになった方はいらっしゃっただろうか? 結構有名な話だが、キアヌ・リーブス主演のアクション映画『スピード』(1994年制作)のストーリーとクリソツなのである。もっとも、『スピード』の方は、爆弾を仕掛けられたのはバスだったが・・・・。
出演は、主犯役に高倉健、新幹線運行指令官役に故・宇津井健、爆弾列車『ひかり109号』
の運転士役に千葉真一、警察の捜査責任者役に故・丹波哲郎など、なかなか豪華な顔ぶれである。
また、前記以外にもいろいろな人が出演している。前代未聞の事件発生でオロオロする国鉄総裁役で故・志村喬(『ゴジラ』などの東宝映画で有名)、制服の鉄道公安官役で竜雷太(=『太陽にほえろ!』のゴリさん)、救援列車の運転士役で千葉治郎(=千葉真一の実弟、『仮面ライダー』の滝和也、『ロボット刑事』の新條刑事)、空港で張り込みをしている刑事役で黒部進(=『ウルトラマン』のハヤタ隊員)と北大路欣也、国鉄本社の電話交換手役で志穂美悦子(=『キカイダー01』のビジンダー)、国鉄公安部長役で、故・渡辺文雄(=『食いしん坊万歳!』)などなど。
四半世紀も前の作品であるから、ところどころに出てくるクルマや街の風景等に時代を感じる。犯人が住んでいたアパートの前を走る都電は「黄色に赤帯」のツーマン時代の旧塗装だし、刑事が二人がかりで捜査本部に持ち込んだ大きな機械は実はファクシミリだった。劇中に登場する覆面パトカーは、懐かしの「ケンとメリーのスカイライン」である。
現在の新幹線を舞台にこの作品をリメイクしたら面白いと思うのだが、同種の犯罪が実際に発生することを恐れた当時の国鉄は撮影に協力しなかったそうだから、今の東海道新幹線を運行するJR東海も、おそらく協力しないであろう。もし仮にリメイクが実現したとしたら、犯人役は誰がいいだろうか?
|