りょりょの闘病記3

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入院当日、仕事を休んだ主人とがんセンターへ向かいました。ナースステーションの横にある4人部屋が、これからりょりょの生活の場となります。小児病棟だけで二十数名の患児が入院していました。みな、薬の副作用で髪の毛が抜け落ち、ステロイド剤の影響で太ってしまった子や、車椅子の子などがいました。しかし、みんな和やかでいい子ばかりです。なんだか、陰気なところをイメージしていたのがうそのようです。

外来の時のドクターとこれから担当医となる30歳前後の女性ドクターから今後の方針について話がありました。りょりょの腫瘍はかなり大きく、見せられたMRIの画像では頭部断面の1/4位に白い影がありました。

『一般に手術で腫瘍を取り除いてから、化学療法(抗がん剤)を行うのですが、お嬢さんの腫瘍はかなり大きく、手術をすると大手術となり大きな傷やかなりの後遺症を残すことになります。化学療法を先にして腫瘍を萎縮させてから手術を行おうと思います。それでも、顔の骨をはずしての手術で、顔面神経の損傷は免れないかもしれません。

また、進行度から言うとグループVとなります。転移がある場合はグループWとなりますが、今のところ転移は認められません。しかし、グループVとなると大量化学療法をしないといけないでしょう。

まず、4〜5日間数種類の抗がん剤を投与します。まもなく白血球や血小板の数値が下がり感染症や出血に注意が必要となり、このとき、血小板輸血等の処置がとられます。しばらくすると血液の状態が元に戻り普通の生活に戻ります。これを薬の種類を変えながら4回行います。最後に一般の化学療法の何倍もの量の抗がん剤を投与します。すると、骨髄細胞が死滅してしまうので、血液は元に戻りません。骨髄移植が必要となります。お嬢さんは骨髄にまで転移がないので自分の骨髄をあらかじめ採取しておき、それを後から戻す自家骨髄移植を行います。大体のスケジュールです。治療の様子を見ながら、また話し合いましょう。』

先生の説明されることはある程度理解できましたが、やはり実際にやってみないとイメージできるものではありません。質問はと聞かれてもその時は、治療についての質問はできませんでした。

ただ、後で非常に後悔するのですがとっても無意味な質問を私はしてしまいました。

『この子の病気の治癒率はどれくらいでしょう。』

『とても珍しい病気で、今のところ日本ではきちんとしたデーターが取られていません。アメリカのデーターでグループVの場合40%以下と言われています。しかし、私の経験からそれほど低くはないでしょう。』

40%以下と言う数字を、どう捉えたらよいのでしょう。がんと言うとすぐに死をイメージしがちですが、「40%近くが生きていられる。」と考えるのか、「半分以上が死んでしまう。」と考えるのか。しかし、娘にとってはどちらかひとつしかないのです。何十万人何百万人に一人という確率で病気になった訳です。他の人がどうだったと言う数字はまったく意味を持ちません。わたしは、この数字は気にしないようにすることにしました。

入院翌日、婦長さんが話しかけてくださいました。婦長さんは涙をためて

『辛かったでしょうね。でも、いっしょに病気と闘いましょう。どんな相談にものりますからね。』

と本当に親身になって話して下さいました。私はこのとき初めて人の前で涙を流しました。しかし、この涙は決して悲しい涙ではありません。自分ひとりで戦うのではないのだ。ここでならきっと戦い通せるという嬉し涙だったのだと思います。

ナースステーションにはおんぶ紐やベビーカー、おもちゃなどが無造作に置かれていました。後で知るのですが、面会時間外で親がいない間、ナースが幼児をおんぶしたりベビーカーに乗せて自分たちの仕事をこなしているようなのです。小児科医長先生や婦長さんのお考えで、ともかく患児をできるだけ家庭的な雰囲気で育てる。ということが徹底されていました。小児がんの場合何年と言う単位で入院生活を送らなくてはなりません。病院は治療の場だけでなく生活の場でもあるのです。

他の大学病院から転院してきた子のお母さんが話してくれたところによると、0歳から白血病で入院をしていて、暴れて点滴を抜いてしまうため、点滴のたびベッドに縛り付けられたというのです。そのあと、その子は精神的不安定になってしまったそうです。しかし、こちらの病院に転院してきて1度もベッドに縛られることはなく、点滴の間ナースステーションでいっしょに遊んでもらったりして、自分で点滴を抜いてしまうことがなくなったようです。性格も明るくなり表情も変わったといいます。子どもは環境でこれほど違ってくるものなのです。

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注)この内容は9年前の記憶によるもので、細かい内容の記憶違い等があるかもしれません。

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