新年、明けましておめでとうございます。
東京は暖かくおだやかなお正月でした。2008年、まずは静かに始まったという感じでしょうか。そして、最初のパフォーマンスは「東方異聞」です。


「天の声 神の囁き 民の唄」と題し、民謡歌手 伊藤多喜雄氏とピアニスト 深町純氏を迎え、豪華にお届けします。昨年の2月、渋谷のJZ Bradでのライブでの奇跡的に素晴らしかった" 江差追分 "を是非もう一度聴きたい! そんなリクエストにお答えして多喜雄さんをお呼びします。お付き合いが10年を越えた今、民謡ではなく「僕のオリジナル曲を歌っていただきたい!!」ということで新曲を書きました。そして何と小椋 佳さんに詞をつけていただきました。是非、チェックに入らしてください。


そんな中、イタリアから「東方異聞」のアルバム「A Strange Story from The Far East」のレビューが届きました。1曲ごとのレビューが興味深いです。書いているのがイタリア人ですからね。
更に昨年12月に行ったオーストラリアのご報告もあわせてお贈りします。どうぞお楽しみ下さい。

  ・・・・・予告 !  次回特集は伊藤多喜雄氏との対談をお贈りします。乞うご期待 !!・・・・・

 



AKIRA HORIKOSHI 東方異聞
「A Strange Story from The Far East」

CDレビュー
02.06.2007- Fabrizio Catalano

(1) アーティストについて
このブログを以前からご覧になられている方は、この洗練されそして極めて優れた日本人アーティスト(彼を区分するならばドラマーである)を、もうご存知であろう。彼は所属バンド「The Will」の一人として我々を驚愕させた。またこのアルバムには、ソリスト堀越彰としての出発点が示されてもいる。

(2) アルバムについて
このアルバムは、「The Will」の約5ヵ月後に発売された。楽曲に関しては全曲中2曲の歌詞と、そして首藤久美子と佐々木すぐるによる作品を除いて、すべて堀越彰の作曲によるものである。このアルバムの制作は堀越彰自身が務め、録音に関しては音響担当の大野進(“The will”の録音に関しても彼が担当した)によって、感嘆すべきそして模範的な方法によって行われた。このアルバム制作への参加アーティストのうち特筆すべきものは、深町純(キーボード、ピアノ)、吉野弘志(ベース)、竹井誠(尺八、笛、能管)、首藤久美子(薩摩琵琶)、小M明人(尺八)、ERiCO(ヴォーカル)である。アルバム「東方異聞」に耳を澄ますことは、日出ずる国の典型的な音の中、そして東方の逸話世界の中で音楽的旅をするようなものである。つまりそれは日本の音楽や美の様式を位置付けようとする時、音楽的には定義不可能な世界なのである。そこでは日本従来の様式を破壊し、また創造しながら、使われている楽器の限界に到達しようという挑戦がなされている。

(3) 曲について
# 1  風神 (Akira Horikoshi)----------------------------------
この最初の楽曲、それ自体が堀越彰の意図を如実に表す縮図のようなものである。そこは演劇的観点から日本音楽の伝統的規範を再解釈しようとするかのような音楽的実験室である。ある種のプロローグのようなものから、尺八によって導かれ、聴くものは遠く、神秘的かつ魅惑的な世界へと誘われる。

# 2  饗宴の舞 (Akira Horikoshi)----------------------------------
ここでは旋律が、深町純の演奏と吉野弘志のすばらしい助演とによって結実している。さらに注目すべきは深町純の即興によるジャズ演奏と竹井誠のそれへの応答部分である。ここで堀越は裏方的役割を果たしてはいるものの、その役割は外部と内部の両面に美を備えたクリスタルのように意味深いものとなっている。

#3  哀歌 elegy (Kumiko Shuto)----------------------------------
この楽曲では、東洋の古典的な音色が重要な位置を占めている。首藤久美子自身が作曲における指揮をとり、深町純の演奏が熱烈かつノスタルジー溢れる旋律に磨きをかけている。また吉野弘志によるベースソロがその旋律の背後に常に流れることで、自己中心的になりがちな罠から逃れている。それは魂に訴えかける音楽であり、個々に目を閉じ、緊張をほどいて、くつろぎ、体と心を一体化させた状態で聞くべきものである。

# 4  さくらさく(ERiCO / Akira Horikoshi)----------------------------------
この楽曲には深い感動を与える歌が挿入されている。一種の子守唄のように、聴き手を優しく寝かしつけるような曲であるのだが、最終的には聴き手を魔力的なそして哀しげな世界へと運び去る。そこでは旋律が、人を現実へと連れ戻す導き手のようである。

# 5  夢幻狂詩曲 (Akira Horikoshi)----------------------------------
ここではわれわれ西洋人には、理解し解釈するのが困難な音楽の領域で、冒険が試みられている。しかしたとえ初めは理解が困難に感じられても、旋律とリズムとである瞬間にまで巻き込まれてゆくことになる。その瞬間には、堀越彰のドラムが模範的方法で作り上げる霊的な雰囲気の中へすべてが消えてゆくのである。われわれは夢の中にいるのだろうか。
そのドラムの音は心臓の鼓動のようであり、その鼓動に合わせて、次々に生み出される魂の状態や、隠れていた感情が際限なく流れ出すのである。まさにそこには、堀越彰の稀有な才能が現れている。

# 6  月の砂漠 (Suguru Sakaki)------------------------------------
再びここでは堀越彰と首藤久美子が、深町純、竹井誠、吉野弘志さらに小濱明人ら絶妙な共演により音楽の領域に、感情的かつ圧倒的に人を引き込みながらダイナミックな絵を描き出している。そこは人を巻き込む妄想的世界であり、人を現実世界から引き離すものである。

# 7  晩秋神楽 (Akira Horikoshi)----------------------------------
ここでは旋律とある優しさとが、親密、そして私的な情景のなかで渾然一体となっている。深町純のキーボードの挿入、吉野弘志と竹井誠のソロ演奏、それに首藤久美子の用いる対位法などからなる楽曲が、魅惑的であったにも関わらず歴史的には忘れられてしまった時代を、再び呼び覚ますことに成功している。そこではまさに、現在の資本主義的・消費主義的日本ではない、忘れられた日本の中を旅するような感覚がもたらされる。そのような日本は、幸運にも堀越彰や彼のバンドのメンバーのようなアーティストの、何千年にも渡る伝統への愛情のおかげで消え去ることがない。

# 8  鶴翼の陣 (Akira Horikoshi)----------------------------------
ここではまた堀越彰のドラムの、扇動的でありかつ技術面で目を見張るような即興が行われている。彼のスタイルはもはや彼独自のものとしか言いようの無いもので、さらに彼のテクニックの優雅さあるいは洗練度がそこに現れている。彼の長い独奏が少しずつ結実されていき、結果、均整のとれた正確な音に満ちた雰囲気に充ちていく。熱心に聴かれるべき楽曲である。

# 9  送魂歌 requiem (ERiCO / Akira Horikoshi)----------------------------------
この楽曲は心に浸透してくるような、そして抑揚をもった旋律が特徴となっている。そしてERiCOというヴォーカリストの声色についても、よりいっそうの評価をすることができる。歌い手の表現力を通じて澄み渡った、そして哀しげなロマンチシズムが深い叙情性のなかに溶け込んでいる。

#10  落城 (Akira Horikoshi)----------------------------------
この楽曲はジャズのスタイルを取り入れた、フュージョンというようなものである。深町純のキーボードのテクニック、敏捷性といったものが惜しみなく発揮されている。しかしここにおいても、それは堀越彰の意図するものなのであり、彼の存在は極めて重要である。まさに素晴らしい圧倒的な終章である。

(4) 総評
「東方異聞」には堀越彰のアーティストとしてだけではなく、さらに別の一面も現れている。もしバンド「The Will」の活動において、彼のバンドを纏め上げる手腕、日本人アーティストとしてのテクニック、彼の洗練された音楽的趣味が表現されていたとしたら、このソリストとしての出発点で、最も聴き手の心を捉えるのは、彼の作曲家としての一面であると言える。高度に磨き上げられた、才能溢れるアーティストとの共演により、堀越彰は聴き手が、その潜在能力を充分に発見するまで、注意深く耳を傾けざるを得ないようなアルバムを完成させている。そして大野進が音響を担当したことにより、まさに聴き手を巻き込む現実離れした雰囲気を作り上げることに成功している。こうして聴き手は「東方異聞」というタイトルに相応しく、音に取り囲まれるようにしてこのアルバムを聴くことができる。このアルバムはロックやジャズの世界でさらに外部の音との出会いを望む聴き手や、日本の伝統的なサウンドとの出会いを望む聴き手にとって、うってつけのものである。堀越彰は、まさに稀有な才能を持っている。ドラムの音を演劇的に、紡ぎだすのだ。バンド「The Will」においては、演劇性が威厳を帯びているが、ここではさらに発展して、親近感と伝統性を帯びることになる。堀越彰の夢は今後も続く。

 





    2008年1月30日(水) 南青山MANDALA 

           AKIRA HORIKOSHI
             東方異聞
       A Strange Story from the Far East

         天の声 神の囁き 民の唄
奇跡の民謡歌手 伊藤多喜雄 孤高のピアニスト 深町純
  2人の強力なゲストを迎える「東方異聞」の新年のごあいさつ
   「江差追分」の再演、小椋佳氏が東方異聞&伊藤多喜雄に
      書き下ろした「道、未だ途上」の初演
         2008年「東方異聞」は言葉を持った
  


<Member>
  堀越 彰 (Dr/Per) 
  首藤久美子 (薩摩琵琶/歌語り) 
  竹井 誠 (笛/尺八/能管) 
  小濱明人 (尺八)  
  吉野弘志 (Bass) 
<Guest>
  深町 純 (Key) 
  伊藤多喜雄 (Vo) 

2008.1.30 (Wed) 南青山MANDALA 
Open 18:30 Start 19:30
Charge \5000 (nc.one drink&tax)

お問い合せ/チケット販売
Office Play Ground
E-mail  info-horikoshi@mx1.ttcn.ne.jp
南青山MANDALA 
Tel 03 5474-0411



オーストラリア ツアーのご報告

2006年、ウィーンでの衝撃から発作的に書いた「特集 ウィーン日記」は読んでいただきましたでしょうか?

結局、僕はあの経験から「SOLO-ist」- Truth - というパフォーマンスを作りましたが、その切っ掛けを作っていただいた藤井郷子(ピアノ) と田村夏樹(トランペット) のおもしろ夫婦に再びお誘いいただき、12月6日から今回はオーストラリアに行ってきました。

南半球のオーストラリアの12月は " 夏 "。30度を越してもさわやかな風の気持ちよい最高の季節です。ただ、今年はハエが異常発生したそうで、 どこに行っても顔のまわりには常にハエが飛び交っている、 着てる服にはビッシリたかっている、そんな状況の中での10日間となりました。

シドニーでは昨年 世界遺産登録されたオペラハウスやフィッシュマーケットに行きましたし、続いて行ったメルボルンはアートにあふれた街で、2つの美術館にクラシックコンサート他 3つのライブ、更に4つのビーチとプールで泳ぎ、 しまいにぁストロベリーファームまで行ってきました。特に4つのビーチはそれぞれ個性的。蒼くて美しくて静かで 果てしなくて、ハエさえいなきゃ「この世の楽園」。水温は異常に冷たく、決死の覚悟で泳いできました。

えっ?  仕事 ?  しましたよ、 2回・・・。

その証拠に、藤井、田村、堀越のトリオでのシドニーでのライブがレビューになりましたのでご紹介します。



Sonic adventure from a land of surprises
( John Shand December 12, 2007 Advertisement )

SATOKO FUJII TRIO
The Sound Lounge Seymour Centre December 8 HP

地球上において最も断定し難いのは、日本文化なのか? 控えめでありながら実に調和のとれた陶磁器から、想像しうる最悪のTVクイズ番組まで、日本の文化は広がっている。様々な国のジャズはそれと同じような矛盾を持っている。演奏家達はアメリカのビバップに深い愛情を持ちながら、自らの国 ノルウェイ、南アフリカまたはオーストラリアの地において、斬新な異文化の交流を作り出す。

彼らの音楽もそのひとつである。藤井郷子( piano) 、 田村夏樹 (trumpet)、 そして堀越 彰(drums)、彼らはそれぞれの楽器を最大限に生かした即興演奏で、ある種の衝撃をもたらした。
音の可能性 : 藤井は鍵盤を叩くことと同じように、ピアノの弦をはじくことに集中する。同様に、田村はトランペットの音をスラーさせ、、ミュートし、唸り、すすり泣き、時にその音を派手にとどろかせる。日本舞踊家の父を持つ堀越は、やはり踊り手のような優雅さと共に、重厚なドラムから小さなベルの音までを、日本の伝統的な太鼓をも組み込んで巧みに操る。

ある曲で藤井は、ミュートされたトランペットの音と囁くようなドラムに対して、ピアノの弦を竹のウィンドチャイムのように奏でる。トランペットはトンボのように羽ばたき、ドラムとピアノの深い流れの中に突進する。突然田村がホイッスルを吹き、音の風景は一変する。藤井は弦をこすることによって不気味な電子音のようなノイズを作り出す。トランペットは、ラジオの短波放送の局を探すときのような不快な音を集中攻撃させる。

あたかもスイッチを入れるように完全な激しさに達することができるこのトリオの能力は、逆にその効果を弱めてしまうかもしれない。もしかすると、常に内容のある音楽でないにしても、それは美しい陶磁器のようでもある。しかし、そこには突拍子もないクイズ番組の兆しも見えるかもしれない。





Copyright(c) 2005 Akira Horikoshi. All Rights Reserved.
お問い合わせは info-horikoshi@mx1.ttcn.ne.jp まで。